「プライベートゾーン」について早期教育してきた息子からの、思わぬ発言にドギマギ【ママ泌尿器科医】

引用元:TATSUSHI TAKADA/gettyimages

男の子と女の子2人のママであり、泌尿器科医である岡田百合香先生の連載です。今回は6歳の長男からの言葉に、子どもの柔軟さに驚きながら「プライベートゾーン」を伝えることの難しさを感じたエピソードです。岡田先生と一緒に子どもへのプライベートゾーンの教え方を考えてみませんか。
「お母さん・お父さんのためのおちんちん講座」ママ泌尿器科医#47です。

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「プライベートゾーン」は、自分で決めることができる!?

わが家では息子に3歳ごろから「プライベートゾーン」について伝え始め、性教育に関しては早期教育をしてきたのですが、先日思いがけない言葉に考え込んでしまいました。

おふろあがりにパンツをはかずにゴロゴロしていた息子に対し「おーい、プライベートゾーンが隠れていないよ」と声をかけたところ・・・
「プライベートゾーンは自分で決めてもいいんだよね?じゃあ僕はここ(パンツで隠れる部分)をプライベートゾーンからはずします」と言われてしまったのです。

「プライベートゾーンは自分で決めることもできる」というのはどういうことでしょうか。
プライベートゾーンは「胸、性器、おしり、口」が基本だけれど、人によってはこれら以外にも触られたくない部分、見せたくない部分があるよ。だから、プライベートゾーンは自分で決めることもできるよ。
と確かに私は彼に説明していました。

「胸、性器、おしり、口」は基本セットで、オプションで太ももとか、おなかとか、それぞれ自分で追加してもいいよという意図だったのですが。
「自分で決めていい」=「除外してもいい」という発想はなく、子どもって柔軟だなあと思いました。

プライベートゾーンは水着で隠れるところ!?

以前この連載で「男の子の胸はプライベートゾーンか否か」について考える記事を書いたことがあります。
歴史的にも文化的にも、またジェンダーの観点においても奥が深くて難しいテーマです。
文部科学省の出している「生命(いのち)の安全教育」指導の手引きでは、プライベートゾーンは水着で隠れる部分と定義されており、男の子のイラストではパンツ型水着のみを着用しています。これに従えば男の子の胸はプライベートゾーンではないという解釈になりますが、一方で「男の子の胸もプライベートゾーンです」と断言する性教育専門家もいます。

息子の小学校では、「男の子の水着は基本的に水泳パンツのみ。肌が弱くてラッシュガードが必要な子は応相談」という運用となっています。
現時点で男の子の胸をプライベートゾーンか否か一律で決定するのは現実的ではなく、「隠したいと感じる子にとってはプライベートゾーンだよね」というややあいまいな対応になってしまいます。

胸以外でも、口はプライベートゾーンに含まれるけれど隠す必要はないし、おしりだって水着のデザインによっては面積の大部分を露出している人もいます。
つまり、プライベートゾーンは絶対的なものというより、個人や文化によって揺らぎがあるということになりますね。

体の自由がコンセプトの「ヌーディズム」との違いは?

基本セットに含まれる性器を「はずす」という息子の提案について、「いやそこは絶対にはずせないんだ」と理屈ではなく「決定事項」として押し通すこともできますが、できれば納得するまで考えてみたいと思います。

ドイツではヌーディズム(裸体主義)という考え方の元、決められた場所(公園やビーチ)において全裸で散歩や日光浴、スポーツを楽しむ人々がいます。彼らの目的は決して性的なものではなく、「体の自由」が基本的なコンセプトで、2019年時点で3万人を超える会員がいるとのこと(※1)。
ヌードを許可された区域の中では、「隠さねばならない」という意味においてのプライベートゾーンは消失します。
私はドイツが大好きで大学時代に2回行っているのですが、ビーチ(ヌーディストビーチではなく一般的なビーチ)に行った際、日本よりずっと体に対する「こうあるべき」という規範がゆるいように感じました。

さまざまな年齢、体形の人が堂々をビキニを着ていたり、女性がわき毛を生やしたままであったり。「おなかの脂肪が恥ずかしい」「ムダ毛処理不足かも」といった不安から解放され、とても過ごしやすかった記憶があります。
もちろん、ドイツでもヌード許可区域外ではプライベートゾーンのルールが適用されています。

しかし、「隠さなければいけない」という社会規範が「隠したくない(衣類を身に着けたくない)」人々の権利に対し無条件で優越するわけではなく、そのバランスの取り方を探っているところが大変興味深いですよね。

というわけで、息子には「今の日本の社会のルールでは、おまたはプライベートゾーンからはずすことはできないんだけど、そうではない国もあるんだよ。裸って気持ちがいいから、裸で過ごす権利を大切にする人たちもいておもしろいよね」と伝えてみようと思います。

文・監修/岡田百合香先生、構成/たまひよONLINE編集部

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「自分の体は大切で、自分だけのものであること」を教えるプライベートゾーンと性教育。幼児期から伝えることで、性犯罪から子どもを守ることにもつながると考えられています。伝え方についての情報もたくさん出ていますが、それぞれの家庭ごとにも考えていきたいものです。

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(※1)参考/ヌードとは自由である、というドイツ人が尊ぶ「自由な体の文化」 :朝日新聞GLOBE+ (asahi.com))

●記事の内容は2024年6月の情報で、現在と異なる場合があります。

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