『アンメット』“大迫”井浦新の深い愛情 杉咲花と若葉竜也による長回しの対話シーンが圧巻

『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)第9話は、井浦新演じる大迫の本心が明らかになった。

綾野(岡山天音)と麻衣(生田絵梨花)が結婚の報告に訪れる。綾野病院は丘陵セントラル病院と合併し、綾野はカテーテル治療を担当することになった。ミヤビ(杉咲花)が思い出した三瓶(若葉竜也)と綾野、麻衣との食事風景は、事故に遭う前、南アフリカでのことだった。ミヤビと三瓶はそこで出会った。

点と点がつながり、忘れられていた記憶が蘇る。大迫に会いに行ったミヤビは、関東医大病院である人物に会う。西島(酒向芳)の隣にいた押尾(黒田大輔)は、ミヤビが記憶障害を発症した事故と関わりがあった。

ミヤビの記憶が戻ることを西島と大迫は恐れていて、不都合な真実がそこにあると想像できる。ミヤビが目撃したのは病院を拡張する理事会の裏工作で、賄賂を渡している現場だった。見てはいけない場面に居合わせたミヤビは、その直後に事故に遭った。

関東医大教授の大迫は、今作でもっとも謎めいたキャラクターである。植物を愛する大迫は腹の底が読めない人物であり、どこがワケありなオーラを放っていた。第9話で真実が明かされてから振り返ると、大迫の態度は終始一貫していたが、そう見えなかったのは、ミヤビの記憶障害と、関東医大を建て替える西島グループの計画のどちらにも大迫が関わっていて、その両者が複雑に絡み合っていたからだ。

わからないものをわからないものとして、そのまま差し出すことは時として勇気が要る。超精細MRIで映し出されたミヤビの脳の損傷は、ノーマンズランド、つまり外科手術が不能な領域にあった。三瓶がそのことを知ったら、わずかな可能性に賭けてでも手術に踏み切ったかもしれない。三瓶をよく知る大迫は、三瓶が暴走することを危惧して、あえて記憶障害の原因を伏せていた。

大迫の判断は医師としてまっとうである。重度障害を持つ家族を見て育った大迫は、多くの人を救うために安全で公平な医療システムを作ろうとした。けれども、西島の計画に協力する中で、腐敗した部分も目にすることになった。その大迫が西島を裏切った。それはミヤビのためである。三瓶を利用してミヤビをなき者にしようとした西島を許せなかったのだ。

目の前の患者と医療全体のどちらを優先するべきか。医師のジレンマに苦しみながらも、時として“悪”にも似た顔をのぞかせる井浦新の表情の見せ方、演技と編集のバランスが秀逸だった。

結果として浮かび上がってきたのは、ミヤビに対する大迫の愛の深さだ。と言ってもそれは性愛と異なっており、家族ぐるみの付き合いから生まれた先輩として見守る愛情に近い。ミヤビとの関係で、劇中で大迫と対比されているのが三瓶である。ミヤビのためにリスクを取る三瓶は一見すると無謀なエゴイストに見えるが、自分の身を投げうってでも目の前の患者を救おうとする三瓶は、苦しみの渦中にいる患者と家族にとって心強い味方である。

これまで大迫と三瓶は医療に対するスタンスの違いが強調されてきた。しかし、ミヤビのために西島の野望を食い止める大迫のあり方は三瓶と相似形を描いていた。西島に指摘されて気付いただけで、ミヤビを救いたい気持ちはずっと大迫の中にあった。

ミヤビの回復を祈り、待つ人だった三瓶の思いが報われた第9話。信頼が芽生え、記憶がつながって、失われた関係が修復されていく。仰々しい言葉ではなく、互いを知るための他愛のないやり取り、そこから語られる三瓶のファミリーヒストリー。役を生きるという言葉が誇張されて響くくらい、目の前に差し出された思いをそのまま素手で触れてしまえるような、杉咲花と若葉竜也の長回しによる対話が多くの人に届いたことを信じてやまない。

(文=石河コウヘイ)

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