【社説】カスハラ対策 働く人の尊厳守る社会に

客の理不尽な要求、悪質な嫌がらせに、店や企業が頭を痛めている。カスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれ、暴力の被害もある。

労使と官民が協力し、カスハラから従業員を守る仕組み作りを急がなくてはならない。消費者への啓発を強化して「客はもてなされて当然」の意識も改めたい。

厚生労働省によると、過去3年間に企業が従業員から受けた相談で、カスハラは増える傾向にある。減少傾向のパワハラやセクハラに比べ、対策は遅れているようだ。

カスハラは接客が多い小売り、サービス業で多発している。サービス関連の産業別労働組合「UAゼンセン」のアンケートによると、回答した約3万3千人の半数近くが直近2年間でカスハラ被害に遭ったという。

目立つのは「暴言」「威嚇・脅迫」「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」で、迷惑行為をした顧客の推定年齢は60代、50代が多かった。

カスハラが社会問題化した背景として、経済格差や新型コロナウイルス禍による閉塞(へいそく)感などから、いら立ちを募らせる人が増えたためと指摘されている。迷惑行為の様子を交流サイト(SNS)に投稿し、面白がる風潮も見過ごせない。

顧客への丁寧な対応は美徳とされてきた。その半面、過度な顧客第一主義がカスハラ対策の遅れにつながったという見方もある。

カスハラをきっかけに働く意欲を失い、仕事をやめる人もいる。心身に与える影響は大きい。こうした実情を消費者に知ってもらいたい。

明らかな迷惑行為には毅然(きぜん)とした態度で向き合えるように、職場を後押しする制度が必要だ。

厚労省は企業に対し、従業員を保護する対策を義務付ける法改正の検討に入った。カスハラの対応マニュアル、従業員からの相談を受ける社内体制を整備するとみられる。東京都もカスハラを禁止する条例を制定する方針だ。

企業はさまざまな対策に取り組んでいる。JR西日本は5月にまとめた基本方針で、カスハラに該当する場合はサービスや商品の提供を中止することもあると表明した。被害を受けた従業員は弁護士に相談できるようにする。

店員の名札や、公共交通機関の運転者の氏名表示をやめる動きも広がる。加害者がSNSに名前をさらして攻撃することもあり、やむを得ない対応だろう。

カスハラの判断には注意が必要だ。消費者として正当なクレームもある。

商品やサービスの向上に役立つ声に耳をふさいではならない。行政や企業が打ち出す対策は、具体例に沿ってカスハラとの線引きを分かりやすく示すべきだ。

私たちはカスハラの加害者にも被害者にもなり得る。相手の立場を尊重し、思いやる心を持ちたい。

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