【天風録】平和を思う代表戦

 これほど「平和」を口にするプロサッカー監督は、世界を見渡してもまれだろう。今夜も聞けるはずだ。広島で20年ぶりの日本代表戦が、エディオンピースウイング広島で開催される。森保一監督の感慨もひとしおに違いない▲長崎、広島と二つの被爆地で長く暮らしてきた。サッカーを通じ、世界に平和を発信する使命感は人一倍だ。サンフレ監督時代は地元戦当日に元安川沿いを歩き、犠牲者に祈りをささげていた。原爆に関する取材を受け感極まり、涙を流したことも▲「ピース」の名がつくサッカー場新設の功労者でもある。サンフレを3度優勝に導いて機運を高めるとともに、署名を集めるため自ら街頭に立った。建設地は二転三転の末に決まったが、一貫して平和記念公園から近い場所を望んでいたのが森保監督だった▲W杯アジア2次予選の最終戦で、相手はシリア。日本は最終予選進出を決めたが、消化試合と軽んじる気は毛頭なかろう。「平和について考える機会に」。きのうの会見でも口を突いた▲世界を見渡せば、内戦が続くシリアをはじめ、今も各地で爆撃音が途絶えない。被爆地に響き渡るホイッスル。その意義と尊さを私たちもかみしめたい。

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