【おんなの目】行きました

 ここ十年ばかり、私は半径五キロの世界で生きている。行きたいと思う場所があっても、「まあ、いいか」、と諦めてしまう。大儀なのである。頭も身体も錆びつきなまっている。

 ○日、朝起きる。何も考えずに機械的に出かける準備を始める。錆びつくのが嫌なら出かけろ、と唱えながら服を着る。靴の紐を結び玄関の鍵をかける。ほら、できたじゃないの。“カラーズ・自然の色のふしぎ展”(北九州、いのちのたび博物館)へ。GO‼

 駅で、JRの会員カードで三割引きチケットを買う。自動販売機の音声通りにキーを押す。うまくいかない。お客様、手帳が反対です。なんとか買って新幹線に乗り込む。片手にコーヒーカップ。なんか優雅。頭に涼しい風が吹く。乗り換えて会場へ。道を駅員に聞き大股で歩く。身体に血がぐるぐる巡る。館内の説明は掲示のQRコードを携帯電話にかざして読む。携帯電話がないので直接展示の動物と心で会話する。食べ物と住む地域と繁殖の時期等によって自然界の生き物は色を変える。本当に自然は良くできている。ホワイトタイガーの剥製に、ジャングルで出会ったら見逃してね、と心で懇願する。駅ビルの回転寿司でパネルを操作して烏賊など食べて帰還。できたじゃないの。すっきりした。

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