日本企業の物流軽視が招く”モノが運べない”危機 【第2回】日本の物流は、現場労働者のレベルとモチベーションの高さが世界トップレベル

はじめに

「物流重視」への転換でより良い日本の物流へ

ところで、以上の説明に対して違和感や反感を持つ読者も多いかもしれない。

「日本の物流はむしろ進んでいるのではないか?」と。

もちろん、日本の物流には良い面が多々あるし、また当然のことながら、すべての企業が物流を軽視しているわけではない。この点で誤解を与えないよう、あらかじめ説明しておきたい。

まず、日本の物流の一番の「強み」は、物流現場力の高さや、きめ細かなサービス品質である。現場労働者のレベルの高さ、モチベーションの高さの点で日本が世界トップレベルにあることには異論は少ないだろう。

東南アジア諸国等では、日本流の「カイゼン活動」を取り入れて品質向上に取り組んでいるような現地企業も多い。様々な問題を抱えながらも日本の物流が機能しているのは、優秀な現場労働者に支えられている側面が大きい。

もう一つ「強み」を挙げるなら、フォークリフトや自動倉庫などの物流自動化・機械化である。物流自動化・機械化では、日本企業が世界トップシェアを誇る分野が数多く挙げられる。

最近、アマゾンロボティクスなどによってこの分野への注目が高まっているが、世界に先駆けて物流自動化・機械化を進めたのは日本であり、例えば日本で自動倉庫の導入が進んだのは1980年代後半のバブル期に遡る。これは今から40年近く前のことである。

このような物流自動化の背景には、この分野に戦略的に投資を続けてきた企業の存在がある。

日本を代表するグローバル企業の中には、トヨタ自動車や花王、ユニクロのように、物流分野に戦略的にリソースを投入している企業が少なくないのだが、これらの企業は物流自動化の先進企業でもある(これらの企業については、第5章で改めて紹介する)。

以上の説明からも明らかなとおり、すべての日本企業が物流を軽視しているわけではない。全体として見れば物流を軽視する企業が多い一方、近年、「物流重視」に舵を切る企業が増えているようにも感じられる。

本書の狙いも、そのような流れを後押しすることで、「より良い日本の物流」を実現することであるということを強調しておきたい。

筆者について

本論に進む前に、筆者のバックグラウンドについて紹介しておきたい。

筆者は、1990年代末から物流分野の調査・研究・コンサルティング活動に従事してきた。また現在は複数の大学で物流分野の教育活動に携わっているほか、中小企業大学校などで物流業や荷主企業向けの研修活動にも従事している。

一般紙、業界誌・紙やウェブ媒体で物流をテーマとした原稿を数多く執筆させていただいている。

これまでの経歴をざっくりと説明すると、最初の10年は財務省系のシンクタンク、次の10年間は物流・ロジスティクス専門団体の調査部門に在籍したのち、独立し10年ほどになる。最初に所属したシンクタンクでは物流以外の業務も担当していたが、それ以降の20年間は物流分野(中でも企業物流)の専業である。

コンサル市場の実態は外からは分かりにくいが、企業物流分野のコンサル(具体的には、企業の物流戦略立案や物流改善支援等の業務)はニッチ領域である。

筆者はこのようなニッチ領域で(たまたまながら)長く活動してきた希少種ということになるが、そのような経緯もあって、企業の物流実務関係者との接点がコンサル業界内では多い部類であり、業界事情に日常的に接する立場にあると言える。

本書の内容も、物流実務家の方々との交流を通じて受けた示唆がベースになっている。また、本書の論考の一部は、筆者が過去に様々な媒体に発表したものをベースに新たに執筆したものである。

株式会社流通研究社・月刊マテリアルフロー編集部など、これまで執筆の機会を頂いた関係各位に御礼申し上げたい。また、データ引用を承諾いただいた公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会等にも感謝申し上げる次第である。

本書のテーマである物流軽視の問題─、すなわち、物流への軽視が物流高度化を阻んでいるという問題も、筆者独自の見解というよりは、筆者が交流してきた物流実務家の方々の多くに共有されている問題意識である。

このような問題意識を広く社会に知らしめることは、昨今話題の「物流危機」を克服するうえで重要だと考えており、これが本書の最大の狙いでもある。


※本記事は、2024年1月刊行の書籍『日本企業の物流軽視が招く”モノが運べない”危機』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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