NEC、コネクテッドカーなどに適したモバイルネットワーク向け高精度QoE予測技術を開発

by 三柳 英樹

日本電気株式会社(以下、NEC)は10日、安心・安全・効率的なモビリティ社会を実現する技術として、コネクテッドカーやドローンなどの移動体に安定した通信を提供可能な接続先を予測する、高精度QoE予測技術を開発したと発表した。

NECは、現在発生する、移動体に対するモバイルネットワークの通信品質低下が、移動体が通信する基地局の切り替え(ハンドオーバー)が不適切に行われることに起因することに注目し、十分な通信品質を維持できるよう不必要なハンドオーバーを抑制するための高精度なQoE予測技術開発に取り組んだ。

高精度QoE予測技術は、マルチモーダルAI技術により、モバイルネットワークの通信情報と移動体の映像情報から得られる通信ログや動画などのデータから、移動体のアプリケーション品質を高品質に維持できるネットワークまたは基地局を高精度に予測する。これにより、効率的なネットワーク選択、基地局のセル選択、そして運転支援を可能にする。不必要なハンドオーバーを最小限に抑制し、ハンドオーバー時の通信品質劣化を低減でき、基地局などの通信機器の消費電力も抑制するため、環境負荷低減にも貢献する。

技術の活用イメージ

移動体の映像品質やモバイルネットワークの通信品質は移動に伴って変動するため、国際標準化団体である国際電気通信連合(ITU)で検討されている車両の遠隔監視・遠隔制御を行うシナリオのQoE(ToD QoE:Tele-operated Driving QoE)で算出したスコアは、実際のQoEよりも高く評価されることがあり、実態に即していないという課題があった。開発した技術では、映像・通信品質の時間変動量がQoEに与える影響をスコア化してToD QoEを再計算することで、移動体に最適な評価基準を設定し、高精度なQoE予測を実現する。

また、移動体の走行環境や天候などの周囲の環境状況によってモバイルネットワークの無線通信品質は変化するため、移動体に対して高い通信品質を維持することが難しいという課題があった。そこで、映像認識AIとLLMを組み合わせ、ドライブレコーダーなどの映像から走行環境や移動状況および運転特性を理解する技術を取り入れた。同AI技術により、移動体がおかれた環境を映像認識AIで分析し、渋滞や建物の密集状況などを文章化し、LLMで総合的に文脈理解することで、これから先に起こるであろうことを判断して移動体に最適な基地局を提案することが可能となる。結果、移動体ごとに異なる複雑な環境状況にも対応したQoE予測を高い精度で実現する。

モバイルネットワークでは、一般的には無線通信品質に基づいて基地局をハンドオーバーしているが、モビリティの遠隔監視や遠隔制御のようにアプリケーションごとにデータサイズや通信時間が異なる場合、データ通信中のハンドオーバーによって通信応答性能が低下し、アプリケーションの品質を維持できなくなる課題があった。そこで開発した技術では、通信データ特性とQoEの予測結果からアプリケーションに必要なQoEを満たせないセルを特定し、RAN側に情報を提供することにより、通信途中の不必要なハンドオーバーを適切に抑制でき、高品質なモバイル通信を実現する。

NECは2024年度内に、技術を用いた実証実験を行う予定。その後も開発を進め、QoE分析・制御装置として、2025年度内に実用化することを目指す。さらに、映像認識AIとLLMを組み合わせたAI技術の応用ソリューションとして、運転操作の滑らかさを基準とした運転支援ソリューションを提供予定としている。

また、NECは同技術を、6月12日~6月14日に幕張メッセで開催される「Interop Tokyo 2024」で展示する。

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