大塚HDが7年ぶり上場来高値 業績拡大も待ち受ける「特許の壁」とは

2024年1月、大塚ホールディングスが上場来高値を更新しました。5977円まで取引され、2017年1月の高値(5895円)を7年ぶりに上回りました。上昇は続き、足元では6000円~6500円で推移しています。

【大塚HDの業績】

※2024年12月期(予想)は同第1四半期期時点における同社の予想

※2024年5月22日、2024年12月期の中間予想を修正(売上高:1兆0370億円→1兆1000億円、純利益1260億円→740億円)。通期の予想は7月31日に公表予定。

出所:大塚HD 決算短信

出所:Investing.comより著者作成

大塚HDに買いが集まるのはなぜでしょうか。大塚HDは市場評価性(PBR基準)の高さから「JPXプライム150指数」にも選ばれています。大塚HDの概要と業績をチェックしてみましょう。

「ポカリ」の生みの親 子会社には「チオビタ」の大鵬薬品

大塚HDは大手の製薬メーカーです。1921年に徳島県で化学原料メーカーとして創業しました。多角化を目指して参入した医薬品事業を中核に、食品や化学品の製造、運輸・倉庫業などを展開しています。

食品は知名度の高い製品を多く持ちます。「ポカリスエット」や「オロナミンC」、「ボンカレー」などが代表的です。また「チオビタ・ドリンク」は、完全子会社である大鵬薬品工業の製品です。なお持分法適用会社にはアース製薬やニチバンがあります。

【セグメントの状況(2023年12月期)】

※グローバル4製品:レキサルティ、エビリファイメンテナ、サムスカ/ジンアーク、ロンサーフ
※NC:ニュートラシューティカルズ

出所:大塚HD 決算短信

大塚HDの地域別の売り上げは以下の通りです。過半が海外に由来しており、特に北米地域が全体の4割を占めています。1970年代から海外進出に取り組んだこと、また抗精神病薬「エビリファイ」といった競争力のある製品の開発に成功したことなどが奏功しているとみられます。

【地域別売上高(2023年12月期)】
・日本:6709億円(33.2%)
・北米:8734億円(43.3%)
・欧州:2187億円(10.8%)
・その他:2557億円(12.7%)
・(参考)連結:2兆0186億円
※()は構成比

出所:大塚HD 有価証券報告書

11期ぶり最高益に暗雲 開発中止で減損1000億円

株価の上昇が続く大塚HDですが、足元の業績はどうなっているのでしょうか。今期(2024年12月期)の計画を確認しておきましょう。

大塚HDは2024年2月、今期に純利益が2500億円に達する見通しを公表しました。2014年3月期(1510億円)を大きく更新し、11期ぶりに最高益を更新する計画です。好調な株価の背景には、業績の拡大期待もありそうです。

純利益の更新は、もともと2023年12月期に計画していました。しかしアルツハイマー型認知症の治療薬「AVP‐786」の試験が未達となり、減損が生じてしまいます。期首では純利益を前期比17.5%増の1575億円と見積もっていましたが、結局1216億円と一転して減益(▲9.2%)の着地となっています。

出所;大塚HD 有価証券報告書より著者作成

大塚HDは今期こそ最高益を更新する予定です。しかし、その実現は早くも危ぶまれています。原因は、またしてもAVP‐786です。

大塚HDは2024年5月22日、AVP‐786の開発中止を発表しました。試験で期待した結果が得られなかったことを受け、開発を断念したようです。無形資産の帳簿価額がゼロとなったことから、今期でも再び減損を計上する見込みとなりました。減損額は約1000億円としています。

これに伴い、大塚HDは今期の中間までの業績予想を修正しました。為替前提の見直しと織り込んでいなかったマイルストン収入から、売り上げと事業利益は上方修正しています。しかし減損が反映される営業利益と純利益は4割の下方修正となりました。

【業績予想の修正の内容(2024年12月期第2四半期まで)】
・売上高:1兆0370億円→1兆1000億円(+6.1%)
・事業利益:1645億円→1850億円(+12.5%)
・営業利益:1680億円→950億円(▲43.5%)
・純利益:1260億円→740億円(▲41.3%)
※()は前回予想からの増減率

出所:大塚HD 業績予想の修正及び減損損失の計上に関するお知らせ(2024年5月)

期首の予想純利益2500億円から減損見込み額1000億円を差し引くと1500億円となります。過去最高(2014年3月期、1510億円)にわずかに届かない金額です。ただし大塚HDはグローバル4製品やニュートラシューティカルズ事業が堅調に推移しているとしています。

大塚HDは減損をこなし最高益を更新できるのでしょうか。通期の予想は2024年7月31日に公表の予定です。

主要4製品が収益の過半 気を付けたい「特許の崖」

最後に、大塚HDがよく指摘される「パテントクリフ(特許の壁)」について押さえておきましょう。パテントクリフとは、特許切れ後に製薬会社の売り上げが落ち込む現象を指します。

新薬を開発した製薬企業は、特許権が存続するうちは新薬を独占的に販売できます。しかし特許が切れると販売を独占できません。後発医薬品が販売され、開発した新薬に関する売り上げは一般に大きく落ち込みます。これがパテントクリフです。

パテントクリフは製薬企業に広く当てはまるリスクです。大塚HDが指摘されることが多いのは、収益の多くが特定の製品で構成されるためだと思われます。

大塚HDの収益の約7割は医療関連事業セグメントです。そして医療関連事業セグメントの収益は、同社が「グローバル4製品」と位置付ける以下の製品群が過半を占めています。

【グローバル4製品の売上高(2023年12月期)】
・エビリファイメンテナ:2025億円
・レキサルティ:2125億円
・サムスカ/ジンアーク:2317億円
・ロンサーフ:801億円
・(参考)医療関連事業計:1兆3644億円
・(参考)連結:2兆0186億円

出所:大塚HD ファクトブック

グローバル4製品は特許切れを間近に控えているとみられます。

大塚HDが2024年6月に公表した第4次中期経営計画(2024年度~2028年度)では、2028年度までの成長を支える製品群(グローバル10プラス2)が紹介されました。そのリストに、現在のグローバル4製品で記載があるのはレキサルティとロンサーフのみです。その他2品目は特許切れを迎えるとみられます(出所:大塚HD 第4次中期経営計画説明資料)。

収益の多くを稼ぐグローバル4製品の特許切れは、大塚HDの経営に大きなダメージを与える可能性があります。大塚HDは中期経営計画において、主要製品のLOE(※)で2028年度は売上収益ベースで3100億円のマイナス影響を受けると試算します。

※LOE:loss of exclusivity。特許独占期間の満了

大塚HDは製品の育成に注力し、グローバル4製品に代わる成長ドライバーの開発を急ぎます。大塚HDは、2028年度までの5年間で1兆5000億円の研究開発費を投じる計画です。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

© 株式会社想研