カスハラはなぜ生まれる? スーパーのポイントにキレる60代男性、飲食店で人格否定する女性客 業種ごとに特徴

東洋大の桐生正幸教授

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、業種によって被害の特徴が異なることを、犯罪心理学の観点からカスハラ研究に取り組む桐生正幸・東洋大学教授と、日本カスタマーハラスメント対応協会の島田恭子代表がまとめた。

流通やサービス業などの労働組合でつくる「UAゼンセン」が行った大規模調査を分析したもので、6月10日に参議院議員会館で開いた院内集会で報告した。

●UAゼンセンの調査 2人に1人がカスハラ被害

UAゼンセンは2024年1~3月にサービス業の組合員を対象に、カスハラの実態を調べるアンケートをとり、約3万3000件の回答を得た。

調査によると、「2年以内にカスハラ被害にあった」と答えた人は46.8%で前回調査(2020年)に比べて10ポイント近く減ったが、依然として2人に1人がカスハラ被害にあっている。

桐生教授らは多様なカスハラの実態を調べるため、UAゼンセンのデータを分析し、4つのグループに大別した。(一部要約)

(1)第1グループ(スーパーマーケット、ドラッグストア関連など) カスハラをする人は60代男性が中心で、対応は女性が多いなど典型的なカスハラ・グループ。カスハラのきっかけとして、例えばポイント制度に関することが多く、要求内容は上司などの謝罪。全てのグループの中で、対応策が最も検討されていない可能性がある

(2)第2グループ(ホテル・レジャー、家電など) カスハラをする人は50代男性が中心。カスハラが1時間以上続くという特徴を持つグループ。言動には理詰め、揚げ足取りといった特徴がある。要求内容は現金の要求、土下座強要、過剰サービスの要求など。

(3)第3グループ(フードサービス・住生活関連など) カスハラをする人が女性の割合が多く、対応者は男性の割合が多い特徴がある。対面による苦情の言動は、人格否定や威圧的である割合が他のグループより高い。要求は支払い拒否、景品要求などがあり、長時間の拘束傾向がある。カスハラ対応では謝り続ける割合が他のグループよりも高く、対応者の対応スキルが求められる。

(4)第4グループ(パチンコ関連、医療・介護・福祉) カスハラ行為者は60代、70代が多く、対応者は女性の割合が高い。被害にあう回数が多く、被害にあう期間も長い特徴を持つ。セクハラに関する被害は他のグループより多く、カスハラ行為者による大声や威圧的な言動の割合が高い。対応者は毅然とした態度や危険退避が他のグループより多く求められる。

桐生教授は「カスハラの程度や種類は、業種や業態によって異なります。対策マニュアルやガイドラインを作る上で、特質を踏まえて作成しないと現場では役に立ちません」と話した。

また、日本カスタマーハラスメント対応協会の島田恭子代表は、UAゼンセンのアンケートでカスハラを得点化し、ストレスとの関係などを調査した。カスハラの得点が高いと、仕事へのやりがいを感じにくくなるなど、カスハラとワーク・エンゲージメントに関連があることを報告した。

●UAゼンセン・松浦会長「法整備を訴えていく」

パワハラやセクハラ、マタハラといったハラスメントは、法律で企業に対策が義務付けられているが、カスハラは法制化されていない。現在、厚生労働省が検討会を開き法整備の議論を進めている。

この日、UAゼンセンの松浦昭彦会長は「直近2年以内で迷惑行為による被害にあったとする回答は10ポイント近く減ってはいますが、依然として約半数の方々が被害にあっているのも事実です。法整備の必要性を引き続き訴えていきます」と話した。

(ライター・国分瑠衣子)

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