サッカー日本代表が、ワールドカップ・アジア2次予選を戦っている。6月6日のミャンマー戦は、5対0の完勝に終わったが、その結果だけではなく、大きな収穫があった。11日のホームでのシリア戦も含めて、この2試合をどのように活用すべきか、サッカージャーナリスト後藤健生が考察する。
■最終予選は「一段上のチーム」と対戦
こうして素晴らしい内容の試合となったミャンマー戦だが、当然、相手との実力差は大きかったので、すべてを手放しで喜ぶことはできない。
9月からは最終予選が始まり、アジア相手の試合とはいえ、2次予選で戦った相手とは1段階上のチームと対戦することになる。
ミャンマー戦で試みたように、いくつものトライが同時にできる試合はほとんどないだろう。
だが、それでもこのミャンマー戦で見せた日本代表の新しいオプションを、より強い相手に対しても使っていくことによって、3バックの形もチーム内に浸透することになるだろう。
ミャンマーとの戦いを終えた日本代表チームは6月7日に帰国し、8日に広島入り。シリアとの2次予選最終戦に臨む。
6月のシリーズは、ヨーロッパのシーズンが終わった後の時期となった。シーズン中には、週末の試合を終えて急きょ帰国した選手たちが1日か2日の調整を行っただけで木曜日の試合に臨まなければならない。だが、シーズンオフの6月は、選手の多くは日本に帰国してしばらくしてからの活動開始というスケジュールとなった。
長距離移動の疲労からの回復も、時差の調整も必要ない状態でトレーニングができたのだ。海外組が多い最近の日本代表にとっては、実に貴重な機会である。「3バック」という新しい試みも、こうした実質的なトレーニングができる6月シリーズだからこそのトライだったのだろう。
■「気になる」選手たちの疲労と故障
だが、一方では長いシーズンを終えたばかりの選手たちは疲労を蓄積した状態であり、また、故障を抱えている選手も多い。
最近は日本人選手の多くも各国リーグで優勝争いに絡むチームでプレーするようになり、またチャンピオンズリーグなどヨーロッパのカップ戦に出場する選手も多く、それだけ試合数も増えるし、試合の強度も高くなった。
しかも、2023-24シーズンには、1月から2月にかけてアジアカップがあり、そこでの疲労も重なっている(アジアカップで敗退した後、クラブに戻った選手たちは故障が発生したケースも多かった)。
最終のシリア戦では、基本的にはミャンマー戦で出場しなかった(あるいは、出場時間が短かった)選手が起用されるだろう。新しい顔ぶれで再び3バックに挑戦するのか、それとも従来通りの4-2-3-1もしくは4-1-4-1をブラッシュアップするのか、いずれにしてもなるべく多くの選手に異なったポジションでプレーさせて最終予選の戦いにつなげていきたいところだ。
■消化試合は新しい選手を使う「絶好の機会」
ただ、前記のように疲労をため込んだ状態を考えるのであれば、故障や疲労のある選手に無理はさせたくない。なにしろ、9月以降は月に1度、ヨーロッパから日本(あるいは、他のアジア国々)への長距離移動が控えているのだ。なるべく、オフ中に万全な状態に戻しておく必要がある。
たとえば、アーセナルの冨安健洋は2023-24シーズン序盤から故障がちだったが、アジアカップで無理をさせたために、その後も出場機会が増えず、ようやくシーズン終盤になってプレーが可能になったばかり。あまり、無理をさせる必要はない。
久保建英も、シーズン開幕直後は素晴らしいパフォーマンスを見せてゴールを量産していたが、アジアカップ以降は明らかに調子を落としていた。そして、5月末に行われた東京ヴェルディ戦でもハムストリングに違和感があって後半開始早々にピッチを後にした。ミャンマー戦ではベンチからも外れたが、状態が万全でないのならシリア戦も出場は回避する必要があろう。
出場が不可能な選手が多いのは、真剣勝負の場だったら憂慮すべき緊急事態ということになるが、すでに“消化試合”となった2次予選であれば、むしろ新しい選手を使うための絶好の機会と見なすことができる。
シーズンを通じて絶好調を続けた南野拓実のような選手はシリア戦でもぜひ見てみたいが、ミャンマー戦ではフラストレーションをため込んだであろう鈴木唯人をはじめとした若い選手たちが、活躍してくれることを祈りたい。