2024年5月の「物価高」倒産 87件に急増 コロナ禍以降の物価高騰で月間最多を更新

2024年5月 「物価高」倒産状況

物価上昇スピードに追いつかない価格転嫁、人件費や借入返済などのキャッシュアウトでコストアップに耐え切れない倒産が右肩上がりで増加している。2024年5月の「物価高」に起因する倒産は87件(前年同月比47.4%増)と、コロナ禍以降で最多を更新した。一方、負債総額は194億4,100万円(同90.0%減)。
4月29日、米ドル/円は一時、1ドル=160円を突破し、政府・日銀は総額9兆7,885億円(4月26日~5月29日)の為替介入を実施したが、円安は続き、様々な物価上昇が企業の体力を奪っている。

産業別では、最多はサービス業他(前年同月比54.5%増)、製造業(同41.6%増)、建設業(同6.2%増)の各17件。資材や原材料、燃料などの価格が上昇する一方で、価格転嫁が難しく、収益面の悪化が深刻さを増している。
負債額別は、負債1億円以上が44件、同1億円未満が43件と拮抗している。ただ、増加率は、同1億円未満が95.4%増(同1億円以上18.9%増)と際立ち、事業規模が小規模ほど物価高に耐え切れないことを示している。
形態別は、破産が79件(前年同月比51.9%増)と9割(構成比90.8%)を占めた。

「物価高」倒産は、2024年1月から5月まで5カ月連続で前年同月を上回っている。1-5月累計は327件(前年同期比30.2%増、前年同期251件)と、1.3倍に増加している。物価上昇は売上増につながる半面、仕入コスト増も招き企業の資金需要を押し上げている。だが、コロナ禍の支援で過剰債務を抱え、新たな資金調達が難しい企業も多い。さらに2024年4月にゼロゼロ融資の返済開始が最後のピークを迎え、借入返済などのキャッシュアウトも嵩んでいる。このため、物価高が倒産を押し上げる状況が強まっており、窮境に陥った企業への実効性ある対応が求められる。

※ 本調査は、2024年5月の企業倒産(負債1,000万円以上)のうち、①仕入コストや資源・原材料の上昇、②価格上昇分を価格転嫁できなかった、等により倒産(私的・法的)した企業を集計、分析した。


5月の「物価高」倒産は87件、前年同月の約1.5倍増

2024年5月の「物価高」倒産は、コロナ禍以降で最多の87件(前年同月比47.4%増)発生し、前年同月の約1.5倍に急増した。2024年1月から5か月連続で前年同月を上回っている。
一方、負債総額は194億4,100万円(同90.0%減)と、大幅に減少した。
政府・日銀は4月26日~5月29日、総額9兆7,885億円の為替介入を実施したが、為替相場は一進一退で6月も1ドル=155円台を挟んで推移している。このため、物価下落の要因は見当たらず、価格転嫁が追い付かない中小・零細企業の「物価高」倒産は増勢をたどる可能性が高い。

【産業別】8産業で増加

産業別は、8産業で増加した。
最多は、サービス業他(前年同月比54.5%増)、製造業(同41.6%増)、建設業(同6.2%増)の各17件。次いで、運輸業が12件(同50.0%増)、卸売業11件(同175.0%増)の順。
政府・日銀の為替介入以降も、円安が続く。資材や原材料、燃料などの価格上昇に対し、下請企業が多い建設業や製造業、運輸業、消費者に近いサービス業他では価格転嫁が追いつかない難しさを浮き彫りにしている。

【業種別】最多は道路貨物運送業の11件

業種別(業種中分類)は、最多が道路貨物運送業の11件(前年同月比37.5%増)。次いで、総合工事業の10件(同42.8%増)。10件以上の2業種は、コロナ禍前から人手不足が続いていた。さらに、燃料や資材価格の高騰によるコストアップが、資金繰りに大きな負担となった。
このほか、飲食店9件(同80.0%増)や食料品製造業(同33.3%増)と飲食料品卸売業(同300.0%増)が各4件と食品関連業種が続き、人件費や食材費、光熱費などの上昇が影響した。

【形態別】破産が9割

形態別は、破産が79件(前年同月比51.9%増)で、9割(構成比90.8%)を占めた。
このほか、取引停止処分の6件(前年同月比100.0%増)、民事再生法の2件(同33.3%減)。
円安などによる原材料や燃料・エネルギーなどの価格高騰が続くなか、企業規模が小さいほど価格転嫁が難しい。業績回復が見込めず、資金繰りもひっ迫し、債務整理のために破産を選択するケースがほとんどを占めている。

【負債額別】1億円未満が急増

負債額別は、最多が1億円以上5億円未満の35件(前年同月比40.0%増)。以下、1千万円以上5千万円未満が27件(同170.0%増)、5千万円以上1億円未満が16件(同33.3%増)の順。
1億円以上(44件)と1億円未満(43件)が拮抗している。ただ、増加率は1億円未満が95.4%増で、1億円以上の18.9%増を大きく上回った。

【資本金別】中堅規模以下で増加

資本金別は、最多が1百万円以上5百万円未満の31件(前年同月比106.6%増、前年同月15件)。次いで、1千万円以上5千万円未満の30件(前年同月比30.4%増)、5百万円以上1千万円未満の13件(同8.3%増)と続く。
経営体力がぜい弱な企業ほど、コストアップ分の吸収が難しい。

【地区別】6地区で増加

地区別は、9地区のうち、6地区で前年同月を上回った。増加率の最大は、九州の前年同月比333.3%増。次いで、北陸の同200.0%増、中部の同116.6%増と続く。
都道府県別は、増加が20道府県、減少12都県、同件数が15県だった。
最多は、大阪の8件(前年同月5件)。以下、北海道(同6件)と福岡(同2件)の各7件、静岡6件(同ゼロ)、宮城(同ゼロ)と愛知(同2件)、岡山(同3件)の各5件の順。

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