「会ったことのない他者を悼むことは出来るのか」スクリーンからの問いかけ 映画「骨を掘る男」

沖縄戦の戦没者遺骨を40年以上掘り続ける遺骨収集ボランティア、具志堅隆松さんを追ったドキュメンタリー映画「骨を掘る男」が、今月22日「慰霊の日」の前日に公開される。具志堅さんを追いかけながら、監督自身が沖縄戦で亡くした大叔母を “慰霊する” 作品だ。

公開に先駆けて行われた試写会では、本作の主人公、遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」と呼ばれる具志堅隆松さんが登壇した。およそ40年以上もの間、沖縄戦の戦没者の遺骨を収容し、遺族のもとに帰す活動をしてきた具志堅さん。

スクリーンに映る自分を見て、その感想は―

▽舞台挨拶で具志堅さん
「今日ここに来てから、本当にまな板の上の鯉だなと。上映しないでよと、始終いっていたんですよ」 ▽奥間勝也監督 「2か月前まで言っていた。初めて今日具志堅さんに見て頂いた」

まな板の上の鯉ならぬ、舞台の上のガマフヤーを笑っていなすのは奥間勝也監督。具志堅さんをファインダー越しでのぞく監督自身も、もう1人の主人公だ。

沖縄戦で大叔母、正子さんを亡くした奥間監督。生前の正子さんを知る親族と、全く知らない自分との間に大きな “隔たり” を感じ、その溝を埋める事が出来るのかという、監督自らの疑問から映画は始まる。

▽映画「骨を掘る男」より
「ともに生活したものがもつ、死者を悼む感情。会ったことのない他者を悼むことは出来るのか」 ▽奥間勝也監督
「(戦没者との)距離感・断絶にどうやって近づいていけるのか。具志堅さんを見ながら考えていく映画だったと思う。具志堅さんに導かれているのは間違いなくあった」

カメラ越しに具志堅さんを見つつ、戦没者と語らいながら。監督が自らの問いへの答えを探す濃厚な時間。それは一方で…

▽映画「骨を掘る男」より 「私たちは決して見ることが出来ない。この洞窟の中で、誰がどんな最期を迎えたのかを」

米軍のフィルムでしか沖縄戦を見たことがない私たちに、住民側から、あのガマの中から、沖縄戦を想像する視点を授けてくれる。

▽奥間勝也監督 「僕たちの沖縄戦の表層ってアメリカ軍側から撮られたアーカイブに規定されていると思うんですよ。あの資料しかないから。自分はガマの外と逆のアングルから具志堅さんを中から撮るんだ。映像を奪い返すじゃないけど。そういう意識はありましたね」 ▽試写会に訪れた人
「沖縄戦との向き合い方をこの映画を見たら得られるんじゃないかと思う。人の痛みに向き合うみたいな」
「自分が接したことがない時代の人たち、ひいお婆さんもそうだけど。ずっと抱えながら考えて生きていきたいと思う」

壇上ではあまり話さなかった具志堅さんは―。

▽具志堅隆松さん
「命の尊厳をテーマにしようとしている。なくなった命に対して悼む気持ち。それを撮ろうとしているんだな」

奥間監督作品「骨を掘る男」は今月22日から桜坂劇場などで公開される。
(取材:今井憲和)

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