大学生らがパーパスを基に「いま求められる新しい学校」を考える――SB University 2024

サステナブル・ブランド ジャパンは、リジェネラティブな(再生型の)社会へのシフトを加速するため、次世代を担う大学生向けの育成プログラム「SB University 2024」を実施。応募のあった30人を積水化学工業の協力のもと、SB国際会議2024東京・丸の内へ招待した。参加した大学生は、各々基調講演やセッションを聴講し、本会議2日目にプログラムのまとめとなるワークショップ「パーパスを掲げた事業でトレードオフにならない社会課題解決方法を考えよう」に臨んだ。(いからしひろき)

三浦仁美・積水化学工業 ESG経営推進部 担当上席部長
野澤育子・積水化学工業 ESG経営推進部 担当課長
進行
入江遥斗・nest [SB Japan Youth Community] プロデューサー
足立萌愛美・nest [SB Japan Youth Community] メンター

オリエンテーションでは、まず、積水化学工業の三浦仁美氏と野澤育子氏が、サステナビリティ戦略について説明。同社が重視しているのは、企業理念を軸に「パーパス」と「シナジーとトレードオフ」の観点から事業を推進することだ。

三浦氏によれば、「パーパス」とは、自社の製品・サービスが社会にどのような意義をもたらすのかを示すもの。一方、「シナジー」は一つの課題解決の取り組みが他の課題解決にもつながること。「トレードオフ」は課題解決の効果と引き換えに生じる、ネガティブな影響を指すという。大学生には、これらの視点を意識しながら臨むようアドバイスした。

多様なアイデアが飛び交ったグループワーク

ワークショップでは、それぞれ異なるパーパスを掲げた団体の職員になりきって、新しい学校を作るという設定で各グループに分かれ、早速入力用のノートパソコンを囲みアイデア出しに取り掛かった。

積水化学工業の三浦氏と野澤氏はメンターとして加わり、議論が円滑に進むようサポート。進行役の入江遥斗氏と足立萌愛美氏は「完璧なアイデアを出そうと思わなくていい」「途中経過でもどんどん共有を」と同世代の大学生に声をかけていた。

課題発表では、各グループが導き出した学校のコンセプトと特徴、ハード面・ソフト面での工夫、シナジーポイントなどをグループ5からグループ1に遡る順番で発表した。

グループ5は、「自然と地域とつながり、子どもの人生の基盤をつくる」学校を提案。子どもの多様性を尊重し、好奇心を伸ばす教育環境の整備を掲げた。教室の机や椅子は固定せず、用途に応じて自在にレイアウトを変えられるように設置する。地域の人々とも交流しながら、子どもたちが社会とのつながりを育める場を目指すという。

「自然、地域、子どもたちをつなぐハブとしての学校」というコンセプトを打ち出したのは、グループ4だ。校舎の敷地にとらわれず、地域全体を学びの場にすることで、多様なバックグラウンドを持つ人々が共生できる環境を目指す。地域の自然環境を積極的に活用し、身近な素材を使った校舎づくりも提案された。食堂では地産地消を心掛け、世代を超えた交流の場としても活用する案が出た。

グループ3は「答えのない問いを考え続けられる力を育む」学校を提案した。生徒が主体的に学び、教師や地域の大人とも学び合う双方向の関係性を重視している。日々の授業では学生同士が刺激し合いながら学ぶことを大切にする。知識の詰め込みよりも、課題発見や解決力を問われる場面を数多く用意するという。社会で直面する難問に立ち向かう「考え抜く力」を磨くのが狙いだ。学校行事では地域と一体となったプロジェクト学習を充実させ、学生の主体性とリーダーシップを育てる工夫も盛り込まれた。

グループ2は、完全オンラインの「デジタル・バリアフリー・スクール」の構想を発表。国籍や障がいの有無に関わらず、誰もが同じ場所で学べるインクルーシブな教育の実現を目標に掲げた。参加者からは「コロナ禍で広まったオンライン授業の枠組みを応用すれば、より多様な学生を受け入れられる」との声が上がった。デジタル教材の充実やAI活用による個別・最適化学習の導入など、ICTの可能性を存分に生かした提案となった。

最後に登壇したグループ1は、「学校と地域をつなぐ『学広』」というコンセプトを披露した。ソーラーパネルの設置や校内農園の運営など、地域と一体になったサステナブルな取り組みが特徴だ。再生可能エネルギーを生かしてエネルギー自給率を高める一方、地場の食材を育て、食育にも生かすという。また、キャンパス内の施設を地域に開放し、多世代交流を促進するのもポイントだ。こうした幅広い地域連携の中で、学生が主体的に課題解決のプロセスを学ぶ環境を整えるという。

結果ではなく議論のプロセスが大事

全グループの発表を受けて三浦氏は、「若い皆さんがここまで考えを巡らせているのを見て驚いた。社会に出る前にいろいろな経験を積んでほしい」とエールを送った。続けて、「意見をまとめていくときは、相手を説き伏せるのではなく、共感することが大事。皆さんの姿を見て大人も見習うべきだと感じた」とまとめた。

野澤氏も、「現実にはシナジーとトレードオフの両立は難しい。片方の課題解決だけでも前進だと認識し、諦めずに取り組んでいくことが大切」と社会課題への向き合い方をアドバイス。その上で、「考え方のプロセスが大事。それを意識しながらさまざまなことにチャレンジしてほしい」と参加者を激励した。

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