【解説】 欧州議会選、主要各国ではどんな結果となったのか 極右の伸長が目立つなか

開票が進む欧州議会選挙では、フランスで極右政党「国民連合」が勝利し、エマニュエル・マクロン大統領が解散総選挙を電撃発表したことが話題をさらっている。だが、他の欧州連合(EU)の国々でも各政党が、お互いの議席増減について理由をさまざまに検討している。

6~9日にEU加盟27カ国で実施された今回の選挙では、極右政党やナショナリスト政党が議席を増やした。他方、中道右派政党も健闘して議席数を伸ばし、最大勢力を維持した。

中道右派はドイツ、ギリシャ、ポーランド、スペインで最多議席を獲得。ハンガリーでも大きく伸長した。

以下、欧州各国の主な結果について、特派員が報告する。

ドイツ:連立政権が敗北も解散総選挙はなし

デイミアン・マクギネス(ベルリン)

ドイツの3党連立政権にとっては残念な結果となった。だがオラフ・ショルツ首相は、マクロン仏大統領のように総選挙を求めることはしないとしている。

「社会民主党(SPD)」、「緑の党」、リベラル派の政党による連立は、前々から危ういものだった。ロシアがウクライナを侵攻すると、ドイツは経済およびエネルギー面でロシアと関係を断ち、かつての平和主義的な感情は国民の間から無くなった。

こうした状況が、一部のコアな与党支持者の熱を奪い、政党間の亀裂を生み、全体的に有権者を動揺させた。移民の急増も地方議会の財源を圧迫した。

政府は軍事費を増やし、安価なロシア産エネルギーからの脱却に成功した。だが、財政は行き詰まっている。

そこに、平和と繁栄を早期に取り戻すと約束する、ポピュリストの極右と極左が割って入った。「プーチン(ロシア大統領)と交渉し、ロシアのガスをまた買おう」。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」はそう訴えた。

結果、今回の選挙で「AfD」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ氏のSPDは同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」だった。

「私たちは戦争を終わらせたい。ウクライナへの武器提供をやめ、移民が来るのを止めろ」。元共産主義者で扇動的な政治家ザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏が率いる、ポピュリストの極左新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)」はそう主張する。

国内の有権者や政治家のほとんどは、ロシアや移民への対処が簡単ではないと考えている。半数以上はウクライナを支持している。

しかし、不安と不確実性の時代には、単純なメッセージのほうが魅力的だ。

イタリア:首相の人気投票に

ラウラ・ゴッツィ(ローマ)

イタリアではジョルジャ・メローニ首相が、国内政治での支配力を確実なものにした。

極右政党「イタリアの同胞」を率いるメローニ氏は、投票用紙の同党の欄の一番上に自身の名前を記載。今回の選挙を利用して、自らの人気上昇を狙った。そのギャンブルは結果的に成功。得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。

ただ、成功を収めたのは同党だけではない。中道左派の野党「民主党(PD)」も期待されていた以上の健闘をみせ、得票率は2014年以降で最も高い24%に達したのだ。

この結果によって「PD」は存在感を大きく増し、エリー・シュライン党首も信頼を高めることになる。シュライン氏は、国内最大の野党の党首になってまだ1年余りだが、足場を固めたようだ。

連立政権を組んでいる小政党にとっては、いくつかの問題が浮かび上がった。伊メディア界の大物、故シルヴィオ・ベルルスコーニ元首相が創設した政党「フォルツァ・イタリア」は、マッテオ・サルヴィーニ元内相が党首を務める「同盟」をわずかに上回る票を獲得した。「同盟」はかつては強大だったが、最近は低迷している。

その「同盟」を創設したウンベルト・ボッシ元制度改革担当相は、同党の方向性への不満の表明として、「フォルツァ・イタリア」に投票すると明言。一方、マッテオ・レンツィ元首相の政党など中道2政党は、欧州議会に議員を送り込むことができなかった。

こうした国内事情はあるものの、イタリアは珍しいことに、欧州議会選の結果、自分たちは政治的にかなり安定した国だと示すことになった。少なくとも一部の近隣諸国に比べれば、はるかに安定していると。

オランダ:緑の左派と極右が伸長

アンナ・ホリガン(オランダ・ハーグ)

オランダでは昨年11月の総選挙で、反移民を掲げる「自由党(PVV)」の党首、ヘルト・ウィルダース氏が、衝撃的な勝利を収めた。ウィルダース氏は、フランスで「国民連合」を率いるマリーヌ・ル・ペン氏の長年の盟友でもある。

今回の欧州議会選でも、オランダの国民感情は昨年からあまり変わっていないことが、開票予測からうかがえる。

ニュースの見出し的に表現するなら、「緑の左派政党が最多議席を獲得、自由党は議席を最も伸ばす」というところか。

その一方で、「中道右派政党が大健闘」という言外の意味もある。

オランダとEUの政界ベテラン、フランス・ティメルマンス氏は、「オランダで過半数が望むのはヨーロッパの強化だ。決してその破壊など望んでいない」と選挙結果について話した。

ウィルダース氏は最近まで「ネクジット」(オランダのEU離脱)の国民投票実施を公約していたが、今回の結果を受けXに赤いハートの絵文字5個を投稿。「5議席を増やした。今でも最大の勝者だ」と書いた。

興味深いことに、私が9日夜に議事堂のバーで見たところ、一番派手に祝っていたのは、政治的に対極に位置する比較的新参の2党だった。

欧州議会議員がゼロから2人に増えた、親EUの「VOLT(欧州緑の党系の政党)」は、青と黄色の風船のアーチの下で歓声を上げ、乾杯していた。

回転ドアの外では、「農民市民運動党(BBB)」の紛うことなきリーダー、キャロライン・ファン・デル・プラス氏が、同党から新しく欧州議会議員になったジェシカ・ファン・ルーウェン氏と一緒に、新鮮な空気を吸っていた。

両党とも当初は、欧州議会で2議席を獲得すると予測されていた。しかし最新の推計では、「BBB」は1議席にとどまる見通しだ。

ハンガリー:新たな野党が出現

ニック・ソープ(ブダペスト)

ハンガリーでは、オルバン・ヴィクトル首相の右翼政党「フィデス」が、欧州議会選と地方選の両方で勝利した。

しかし、この夜の真の勝者は、中道右派の政党「ティサ」を率いる43歳の弁護士、マジャル・ペテル氏だった。同党は古い野党に取って代わって選挙戦に臨んだ。

得票率は「フィデス」が44%、「ティサ」は30%だった。「ティサ」は3カ月前に設立されたばかりだ。欧州議会での議席数は「フィデス」が11、「ティサ」は7で、同党は最大会派「欧州人民党(EPP)」への加盟を申請する予定だ。

「私たちは新旧の野党を打ち負かした」とオルバン氏は支持者を元気づけた。

だが実際には、オルバン氏が築いた政治システム(つまり、「フィデス」が「中心的な力場」となり、その中でいくつかの弱小政党が活動せざるを得ない仕組み)は、終わりを告げたのだった。

オーストリア:極右政党が「新時代」を宣言

ベサニー・ベル(ウィーン)

オーストリアでは「自由党(FPÖ)」のヘルベルト・キックル党首が、同党の勝利は「政治の新時代」の到来を告げるものだと、歓声を上げる支持者らに語った。

そして、次に狙うのは首相官邸だとした。

同国では秋に議会選挙がある。「FPÖ」の党首を務めたハインツ・クリスティアン・シュトラッへ氏とイェルク・ハイダー氏はともに、同党を第1党にできなかった。だが同党はいま、自信に満ちている。

中道左派寄りの現地紙デア・スタンダードのゲロルト・リードマン編集長は「FPÖ」について、「移民について懸念し、プーチンをさして悪人だと思わず、予防接種やコロナウイルスで屈辱を覚え、気候保護など不要だと考え、みんなに説教をたれたい人たち」のるつぼになっていると書いた。

開票がほとんど終わり、得票率は「FPÖ」が25.7%で、保守的な「国民党」の24.7%をわずかに上回った。「社会民主党」は23.3%、「緑の党」は10.9%、リベラル派の「ネオス」は10.1%だった。

(英語記事 A night of drama in Europe as EU parliament moves to right

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