TSMC熊本進出で未活用の“森”が動き出す?工場から離れた場所にも広がる企業誘致の波

TSMCの熊本県進出による企業誘致の波が、工場周辺に留まらず県内各地に広がっています。この波はどこまで広がるのでしょうか。

「工場の隣町」に半導体企業続々

今年2月、菊陽町でTSMCの国内第1工場が開所しました。

TSMC 劉徳音会長(当時)「現地調達を活用し、強力な半導体サプライチェーンを構築して参ります」

菊陽町の隣にある大津町では2021年に工場進出が明らかになって以降、30社が新たに進出していて、そのうちの70%が半導体関連の企業です。そして、この企業進出の流れは近隣地域に留まりません。

「炭鉱の町」に半導体の波が来た

TSMCの工場から車で約1時間ほどの距離にある、かつて炭鉱の町として栄えた荒尾市。ここに現在、造成工事が進められている土地があります。

荒尾市役所 企業誘致推進室 池畑基志室長「昔は炭鉱で働く人たちのための炭鉱住宅があった場所です」

この一帯は1950年代に炭鉱住宅が整備され、多いときには500戸が入居していました。しかし…

荒尾市役所企業誘致推進室 池畑基志 室長「閉山後は住宅も取り壊されて、そのままになってそのままになって、どんどん木が生えてきて、この一帯が森のようになっていた」

この土地を活用するため、荒尾市は去年8月、元々住宅に限られていた土地の使い道を工業用に変更して工場を建設できるようにしました。

すると…変更から3か月の間に、2社の半導体関連企業の進出が決まったのです。

理由は「人材確保競争」

そのうちの1社が、秋田県に本社がある『第一電材エレクトロニクス』です。半導体の製造装置の配線などを手がけています。

半導体関連の需要が高まる熊本にビジネスチャンスを感じ進出を決めたと言いますが、なぜ、菊陽町から離れた荒尾市だったのでしょうか。

第一電材 九州営業所 石黒一信 所長「菊陽・大津周辺は人がなかなか集まりにくいことは当初から想像できましたので、同じ熊本県でも県北に工場を作って従業員を確保するということで荒尾に進出した」

人材の争奪戦が激しいTSMC周辺の地域を避け、荒尾市と隣接する大牟田市とあわせて人口約15万という都市の規模も、人材確保に有利と判断しました。
▼荒尾市・・・49411人 (2024年4月時点)
▼大牟田・・・106145人(2024年3月時点)

第一電材は今年12月の操業時点では従業員50人ほどの想定ですが、今後、拡大も視野に入れています。

石黒所長「仕事がうまく回れば工場を3棟くらい作りたいと考えている。150人、あるいはもう少し、それくらいの規模の工場にしたいと考えています」

長い間使われていなかった土地を活用する動きは、他にもあります。

再起の時を待つ「19.2ヘクタールの自然」

記者「現在、熊本県が公募をおこなっている高森町の『阿蘇ソフトの村』です。あたりは豊かな自然に囲まれています」

『阿蘇ソフトの村』は、バブル期の1987年度に、ソフトウェアの研究や開発をする企業を誘致するという計画でした。県が19.2ヘクタールの用地を確保しましたが、バブルは崩壊。約4億8000万円を投じましたが企業の進出はなく、30年以上活用されていませんでした。

こうした現状を打開しようと、県は今年4月から公募を始めました。

熊本県産業支援課 辻井翔太 課長「TSMCの熊本進出を契機として非常に熊本に注目が集まっている。こういった気運を捉えながら、今回土地の公募をさせていただいた」

19ヘクタールほどの土地を一括で譲渡する計画で、売り出し価格は約1250万円。土地の利用方法は、半導体関連に制限せず受け付けています。

活用されなかった土地をTSMC進出の波に乗って再び動かそうという狙いで、既に複数の問い合わせがきているといいます。

辻井課長「ペンションや休暇施設、ワーケーションの拠点、いずれにせよ地域の方々に受け入れていただけるような計画をお待ちしている」

今年4月、TSMCの国内2つ目の工場が菊陽町に建設されることが発表されました。熊本県の関係者は「第2工場の建設を受け、熊本進出を考えているTSMCの台湾のサプライヤーや取引先が数多くあると聞いている」と期待を寄せます。

自治体が整備を進める工業団地や、これまで活用されていなかった土地が受け皿となるか、そしてその動きが熊本県全体に広がるかが注目です。

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