【今週のサンモニ】少子化を促進させた『サンモニ』報道|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

メディアが結婚・出産に対する否定的感情を強化

2024年6月9日の『サンデーモーニング』では、改正子ども子育て支援法の成立を受けて、少子化問題に関する話題が取り上げられました。

アナウンサー:少子化に歯止めがかかりません。去年の出生率(合計特殊出生率)は過去最多を更新、なかでも東京は0.99と全国で初めて1を割り込みました。背景にあるものとは…

小池百合子都知事(VTR):子育てに対する不安、それから結婚そのものが人生のリスクだと考えていることが一番の問題ではないか。

アナウンサー:東京都に住む○○さん、夫と幼稚園に通う子どもと3人で暮らしています。20代で愛知県から上京、30歳で結婚、35歳で出産。両親は遠方在住。定員オーバーで保育園に預けられなかったと言います。(中略)今の若い世代からはこんな声が…

子ども一人の夫婦(VTR):今ちょっと一人で手一杯かなって言う感じ。家計への打撃とかもあったりとかして2人目は東京だとどうかなと。

子ども一人の夫婦(VTR):2人目は難しい。時間だったり、経済面だったりって考えると企業と国がもっと協力しあって考えてやっていかないと。

大学生(VTR):子どももキャリアもどっちも大事にしたいけど、まだまだ女性が子育てをするみたいな文化が浸透しているから、どっちかを諦めないといけないかなと思っています。

アナウンサー:水曜日、岸田政権の目玉政策の一つ、改正子ども・子育て支援法が成立。子どもを望む人が安心して産み育てることができる社会は実現できるのでしょうか。

まず、この件についての小池都知事の主張には一定の合理性があります。

それというのも、ここ数年来、『サンデーモーニング』をはじめとするマスメディア報道が「保育園がない」「子育ては金と時間がかかる」という口コミを大衆に与えて政府批判に利用し続けたことで、結婚・出産は人生を狂わす大きなリスクであるという強い認識を国民に植え付けたと同時に、その責任は政府にあるという安易な気持ちの捌け口を作ってしまったことにあると考えます。今回の『サンデーモーニング』の報道もその典型です。

勿論、結婚・出産は個人の自由です。しかしながら、近年のマスメディア報道は、明らかに結婚・出産に対する否定的感情を強化し、肯定的感情を弱化しています。

思えば、戦前の「産めよ殖やせよ」は国家によるプロパガンダでした。柳沢伯夫厚労相の「女性は産む機械(2007)」発言も女性の意志の存在を無視したものであり、批判は妥当であったと考えます。

しかしながら、柳沢氏の発言を契機に、政治家による出産に関する発言は、『サンデーモーニング』をはじめとするマスメディアによって不合理に歪められ、話題作りのための恰好の餌食になりました。

以下にそのダウ表的な事例をいくつか紹介したいと思います。

不当に批判された政治家の出産をめぐる発言

菅義偉官房長官:(福山雅治氏の)結婚を機にママさんたちが一緒に子どもを産みたいという形で国家に貢献してくれればいいなと思う。たくさん産んでください(2015)。

桜田義孝元五輪相:お子さんやお孫さんにぜひ、子どもを最低3人くらい産むようにお願いしてもらいたい(2019)。

これらの発言は出産を強要するものではありませんが、戦前の「産めよ殖やせよ」を彷彿する発言として、マスメディアの非難の対象になりました。マスメディアは、政治家個人が出産についての願望を口にすることを禁じたのです。

山東昭子元参院副議長:子どもを4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか(2017)。

これも、出産を強要するものではなく、出産して命を育んだ結果に対して感謝しようとするものですが、マスメディアの非難の対象となりました。

麻生太郎副総理兼財務相:年を取ったやつが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるが、それは間違い。子どもを産まなかったほうが問題なんだから(2019)。

この発言は、言葉が乱暴であり、善悪に触れているため、誤解を生じさせるものですが、その論旨は、少子高齢化の要因は出産の減少にあるとする至極当然な分析結果です。

「金がなくて結婚もできない」という不合理な俗説

麻生太郎財務相:独身者に「おまえ、結婚は夢があるぞ」と堂々と語っている先輩の人はほとんど聞いたことがない。結婚だけはやめとけ、大変だぞ、とみんな言うから。結婚は夢がある、子どもを育てるのはおもしろいって話がもっと世の中に出てこないと、なかなか動きにならないんじゃないかというのが正直な実感(2020)。

この発言は、現在の日本社会において結婚に対する肯定的価値観がほとんどなく、否定的価値観が溢れているという的を射た分析結果です。

しかしながら、結婚できない経済的状況を作っている政治家がそんなことを言うのはけしからんという根拠で、マスメディアの非難の対象になりました。これは完全に不合理です。

経済的状況を好転させたければ、住居を共有し税制の優遇も受けられる婚姻制度を利用する方が有利ですが、マスメディアが流布する「金がなくて結婚もできない」という不合理な俗説を潜在意識に植え付けられた大衆が、結婚しない元凶として政治家を怒りの捌け口にしたのです。国民はマスメディアにまんまと認知操作されています。

桜田義孝元五輪相:男の人は結婚したがっているんですけど、女の人は、無理して結婚しなくていいという人が、最近増えちゃっているんですよね。嘆かわしいことですけどもね。女性も、もっともっと、男の人に寛大になっていただけたらありがたいなと思っている(2022)。

麻生太郎自民党副総裁:(少子化の)一番大きな理由は出産するときの女性の年齢が高齢化しているからです。(複数の子どもを出産するには)体力的な問題があるかもしれない(2023)。

これらの発言には統計的な根拠が存在しますが、いずれも婚姻率の減少を女性のせいにしているとしてマスメディアの非難の対象となりました。例えば『サンデーモーニング』は、意味不明な理由で麻生氏を叩きました。

20代会社員(VTR):昔の人の考えかなって思う。

30代会社員(VTR):はたしてちゃんと育てていけるかという不安の方が大きい。

浜田敬子氏:麻生氏の発言に象徴されるように、日本では政治家が常に少子化の原因を女性の生き方の問題に帰結してきたことに問題がある。

自民党関係者でなければ失言ではない

ここで注目したいのは、発言者が自民党関係者でなければ、同じ内容の面白半分の発言でも失言に認定されることはないということです。

蓮舫議員:これ、面白いなと、面白いと言っちゃいけないんですけど、男性は低収入と未婚率が比例しているんです、収入が低いのと結婚をしない率と。女性は逆なんです。高収入と未婚率が比例しているんです。こういう部分はやっぱり細かく、どういうふうにマッチングをしていってさしあげればいいのかというのを、これ厚労大臣にお願いをしておきます。

とりわけ産む性である女性が非婚化、晩婚化、晩産化という問題をどうやってクリアをしていくのか。とりわけ人口減少社会で消滅都市となるリスクの大きな条件は、二十から三十九歳の女性がその都市からいなくなることです。今生まれている赤ちゃんの九割の親はこの年齢のお母さんから生まれている。だから、この年齢人口の女性が、その生まれ育った地域で働き、結婚し、子育てができる環境を整えることがまさに地方創生になる(2016)。

要は、マスメディアによる少子化問題の批判は、問題解決が目的ではなく、政権叩きが目的なのです。この日のスタジオトークでも無責任な論評が続きました。

膳場貴子氏:産みたいと思った時に踏みとどまらせてしまう状況があるというのが問題だと思うんですけど。

その踏みとどまらせてしまう状況を作っているのは、将来不安を過剰に煽ってすべてを政府のせいにしてきたマスメディア報道です。

辻愛沙子氏:国会では女性割合が16%、男性が84%。子育ての役割が女性の役割になっている話もあったが、84%が男性で占められている国会の中で、議員は果して自身で子育てをやった経験があるのか。どれくらいの負担があるか時間的にも経済的にもあるのかを、どれくらいリアルに把握しているのか懐疑的に思う。さらに東京都で見ると、0.99という衝撃的な数字があったが、例えば卵子凍結の助成を東京都が決めて、私も東京に住んでこれから出産を考える者として凄く有難いところはある。

国会という多種多様な議論が展開される場において、子育ての経験という特定の専門性は、国会議員全員に必要とされるものではありません。必要なのは論者の存在であり、国会議員のうち、その専門性を有している議員が議論をリードすればよいのです。

あえて言えば、子育ての経験のない人が子育てのことを議論することを懐疑的に思うことは差別的です。もしそうであるのならば、出産経験のない辻氏がこの問題に対して立派にコメントしていることも懐疑的に思わなければなりません(笑)。

浜田敬子氏の矛盾した主張

浜田敬子氏:日経新聞の読者調査によれば、少子化対策に対して7割が期待していないと答えている。何をやってくれれば一番いいのかという問いの1位は小学校から大学までの学費の無償化だった。これが圧倒的に望んでいることだ。経済的な負担が大きいが、これの中に教育費が非常に大きい。あるNPOが試算したところでは無償化に年間かかる予算は3.5兆円。これくらい大胆なことをやらないと少子化は解決しない。

もう一つ、少子化が深刻な国に共通しているのが、男女の役割分業が非常に根深い国、日本と韓国だ。女性に家事育児の負担が偏っている。男性の長時間労働。家族に優しくない職場の環境。ここをセットで買えることが大事だ。

浜田氏が主張する対策は、過去の日本社会が多産であった事実と完全に矛盾しています。子どもを増やすという意味での少子化対策に有効な方策があるとすれば、それは生命を優先する価値観への転換以外にはないと考えます。

いずれにしても、少子化対策として確実に求められるのは、池田信夫さんが主張するようなコペルニクス的転回です。

【Vlog】本当の少子化対策は子供を増やすことではない

「女性が輝く社会」「女性活躍」「ジェンダー平等」を実現することと、少子化を止めることは、必ずしも両立することが保証されているものではありません。

この両立を至上命令とし、実現できないことを政府の責任にしてひたすら叩いている『サンデーモーニング』をはじめとするマスメディアの無責任さには呆れるばかりです。「うみの苦しみ」に言及した大臣を非難している場合ではありません。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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