秋元康による“四字熟語曲”、なぜ神曲多い? 櫻坂46筆頭に考えるタイトル含めたコンセプト作りの妙

櫻坂46の9thシングルが6月26日にリリースされる。タイトルは『自業自得』。CDリリースを前に表題曲「自業自得」が先行配信され、MVも公開となったが、シリアスな手触りのなかで過去の愛情について自問自答しながら、葛藤の末の答えを探し求める姿が描かれている。連続したシンコペーションで貫くサビの印象的なメロディと、フォーメーションダンスの中心でセンターを務める三期生・山下瞳月のブレない佇まいが芯の強さを物語っており、MVラストに映る彼女の勝ち誇ったような笑みもその表れだろう。

SNS等で、今作タイトルが“四字熟語”であることに注目しているリスナーが散見された。そこで本稿では、これまでの秋元康による楽曲の“四字熟語曲”をピックアップし、その傾向と共通項について考察してみようと思う。

■存在する四字熟語をタイトルに掲げた櫻坂46の楽曲

まずは、櫻坂46の楽曲について振り返ってみたい。1stシングルカップリング曲「半信半疑」、4thシングルカップリング曲「車間距離」、1stアルバム『As you know?』リード曲「摩擦係数」、7thシングル表題曲「承認欲求」と今作9thシングル表題曲「自業自得」そして欅坂46時代の楽曲に「不協和音」がある。そのどれもがもともと存在する四字熟語であるが、マイナーコードを軸としたサウンドメイキングであることが共通しており、特に「承認欲求」と「不協和音」は、鮮烈なエフェクトが効いた層の厚いアレンジでリスナーにセンセーショナルなインパクトを残してきた。

さらに歌詞とタイトルの関連性について一曲ずつ深堀りしてみると、サビ後半で〈話聞いてよ もっと頷いて/具体的に褒めて欲しい〉と食ってかかるように要求するあたり「承認欲求」そのものだし、「摩擦係数」では〈黙るってのは敗北だ〉〈殴るよりも殴られろ〉と感情の摩擦をとげとげしく綴り、〈僕はYesと言わない/首を縦に振らない/まわりの誰もが頷いたとしても〉で始まる「不協和音」もまた周囲とのズレに対する反抗心を一言でずばり表現した四字熟語のタイトルである。これらは時代性や社会性を鋭く切り取ってきた櫻坂46のアティテュードを前面に押し出した楽曲で、四字熟語の持つ視覚的インパクトと言葉の響きの強さをもって、楽曲の説得力を増幅させている。はたまた、同じ坂道シリーズである日向坂46の楽曲には、ひらがなけやき時代も含めて四字熟語がタイトルとなっている曲は存在しない。櫻坂46の楽曲に四字熟語曲が多いことは、何か特別な意味を持つのだろうか。

■乃木坂46らの“造語的”四字熟語曲

では、櫻坂46以外のグループにおける秋元作詞の四字熟語曲についてはどうなのか――。乃木坂46で考えると「指望遠鏡」、「設定温度」、ユニット曲の「孤独兄弟」が挙げられるが、楽曲の持つメッセージを表す四字熟語曲というよりは、どちらかと言えば情景描写を表したワードという印象が強い。その点で櫻坂46とは別のアプローチであると言えるし、サウンド面の共通項は見出せない。また、「孤独」+「兄弟」、「指」+「望遠鏡」のように造語的な成り立ちでもあり、これは「ロマンティックいか焼き」、「猫舌カモミールティー」、「マシンガンレイン」などと同様に、ふたつの単語を足したものが結果的に四字熟語になった、と言ってもいいだろう。

次に、48グループの楽曲をピックアップしてみると、AKB48の劇場曲に「純情主義」、「前人未踏」、「炎上路線」があり、すべてマイナーコード主体の構成なうえに、サビでタイトルをコールする点で共通しているのが興味深い。NMB48は、「卒業旅行」、「途中下車」はともにスローテンポのアコースティックナンバーなのに対し、「北川謙二」は当時のAKB48映像担当アシスタントプロデューサー、つまり人名をそのままタイトルにした異色作である。ほかにもHKT48の「仮想恋愛」、「大人列車」、NGT48のデビュー曲「青春時計」などがあるが、やはりサウンド面に明確な共通項は見当たらないのである。

■秋元康が語る「タイトルを含めたコンセプト作り」が鍵に?

秋元は過去のインタビューで、「僕は『詩』ではなく『詞』をつくる流行歌の書き手ですから、タイトルを含めたコンセプト作りに重点を置きます」と語っている(※1)。千差万別なコンポーザーから持ち寄られた大量の楽曲群を、アーティストごとに振り分けながら各作品のテーマに沿って歌詞を紡いでいく。インタビューやラジオなどで秋元自身が明かしているように、いわゆる“曲先”という手法で歌詞を手掛けているとすると、歌詞が入っていない状態の楽曲、つまりオケとメロディのみの状態でアーティストとの親和性を掴んでいることになる。それを考えると、先述の通り櫻坂46の四字熟語曲が「マイナーコード主体のサウンド」で共通している、その傾向を読み取るヒントが見えてくる。

2020年10月の櫻坂46始動後にリリースされた秋元による四字熟語曲としては、NMB48のTeam BⅡの楽曲「青春念仏」、22/7からの派生ユニット・蛍光灯再生計画の楽曲「交換条件」、WHITE SCORPION「非常手段」などが挙げられ、そのどれもがマイナーコードでロックな仕上がりという点で、櫻坂46の四字熟語曲との共通項を見出すことができる。あくまでも歌詞のテーマは楽曲ごとに多種多様で、メジャーコードの四字熟語曲も一部存在するためすべてではないが、ひとつの傾向として読み取れるのではないだろうか。そして、そのなかでもシングル表題曲、アルバムリード曲に積極的に採用され、活動歴から見ても登場回数が多いことを考えると、櫻坂46のアーティストイメージと楽曲のメッセージを伝えるうえで「四字熟語とマイナーコード」という関係性は切っても切れないものであることは、少なくとも現時点で否定できないだろう。

ここで「自業自得」の歌詞を見ると、〈誰のせいでもない/決めたのは自分自身なんだ〉と言い聞かせ、〈いつか知らぬ間に/痛みになって返って来る〉と自問自答しながら「自業自得」な君に毅然と立ち向かう様子が描かれている。サウンドはやはりマイナーコードがベースで、サビの入りはDmをルートとした♭Ⅵ→Ⅴ→Ⅰm→Ⅲの進行だが、その後♭Ⅵ→Ⅴ→ⅠでDに帰結し、主人公が抱く希望を託した響きを植えつけている。〈寂しさから逃げるな〉〈思い出より残酷だ〉といった冷酷とも取れるフレーズもあり、ここにも「自業自得」が伝えたいメッセージの強さが窺える。同じような意味を持つ言い回しに「身から出た錆」ということわざがあるが、やはりこのメッセージの強度を保ったまま届けるためには「自業自得」のほうがしっくりくるのだ。

そもそも四字熟語の定義のなかでも、昔から伝わる教訓や知識にかかわることわざを言い表す狭義の四字熟語として考えると、「自業自得」は単に漢字が4つ並んでいるだけではない「真の四字熟語曲」と言える。今後もきっと四字熟語曲が生まれていくはずだが、櫻坂46の楽曲において本稿でまとめた共通項が当てはまるのかどうかは気になるところ。新たな神曲に出会えるのが楽しみだ。

※1:https://www.jasrac.or.jp/sakka/vol_3/akimoto_in.html

(文=栄谷悠紀)

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