「責任能力という点でひっくり返るのはかなり珍しい」殺人事件で不起訴が一転、起訴に 検察審査会が果たした役割を解説

2021年5月、静岡県富士市内で男性(当時37歳)を金属バットで殴り、殺害した罪に問われている男の裁判。この事件をめぐっては男の鑑定留置の結果、検察が殺人容疑を不起訴処分としていましたが、その後、検察審査会が「不起訴不当」と議決、検察は一転して「責任能力が認められて刑事責任を問える」と判断し、2023年6月、男を殺人の罪で起訴しました。発生から3年越しの裁判となりますが、これまでの経過を振り返ります。

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<東部総局・竹川知佳記者>
「静岡地検沼津支部は犯行前に覚醒剤を使っていた被告の男の精神状態などを調べるため、2021年6月から鑑定留置を実施しました。その結果、覚醒剤取締法違反の罪では起訴しましたが、被告の男が覚醒剤を使った影響について鑑定留置などの結果をふまえ、殺人容疑については不起訴処分としていました」

「しかし、2022年2月、被害者の遺族が検察審査会に『不起訴処分は不服』と申し立てたことを受けて、検察審査会がさらに捜査するべきだとして、『不起訴不当』と議決。この議決を受けて地検が再び捜査した結果、『刑事責任を問える』と判断し、不起訴から一転、殺人の罪で起訴しました」

<LIVEしずおか 井手春希キャスター>
異例の経過をたどる裁判ですが、ポイントはどこになるでしょうか。

<東部総局・竹川知佳記者>
「刑事裁判に詳しい元裁判官の西愛礼弁護士は『責任能力という点で、一度、不起訴になった事件が検察審査会でひっくり返るのはかなり珍しい。一番大事なのは覚醒剤を使用した結果、どのような症状が出て犯行にどう影響を及ぼしたか』と話しました」

「また、争点となる責任能力について、善悪をまったく判断できない『心神喪失』の状態であると判断された場合には責任能力が無いとして『無罪』に。善悪の判断が著しく低下している『心神耗弱』と判断された場合には責任能力が限定であるとして『減刑』になる」と話し裁判のポイントにあげています」

「今回の裁判は、市民目線でチェックする検察審査会の『議決』がなければ、法廷で争われることもありませんでした。遺族の一人は裁判が始まったことについて、『3年も待ったから裁判であの日何があったかを明らかにしてほしい。被害者への償いをしてほしい』と語りました。被告が無罪を主張する難しい事件を裁判員が責任能力の程度をどう判断していくのか、注目されます」

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