【社説】捜査書類の管理 「適宜廃棄」は冤罪を生む

正義に反する言語道断の愚行である。

鹿児島県警が捜査書類の適宜廃棄を促す内部文書を作成し、捜査員に周知していたことが発覚した。刑事事件の裁判のやり直しを求める再審請求などで、弁護側の証拠に利用されるのを防ぐ目的も書かれている。

インターネットメディアに「組織的な隠蔽(いんぺい)の奨励」などと報道された直後、問題の部分を訂正したというが、責任は免れまい。

通常の刑事裁判では、捜査当局が有罪方向の証拠しか出さず、被告に有利な証拠を隠す傾向が指摘されている。

裁判所に未提出の捜査書類を警察が廃棄すれば、意図的に隠されたり、埋もれたままになっていたりした被告の無罪を証明する証拠が失われる可能性がある。「適宜廃棄」は冤罪(えんざい)を生みかねない犯罪的行為と言っていい。

問題の文書は昨年10月2日付の刑事企画課だよりだ。

「適正捜査の更(さら)なる推進について」と題し「最近の再審請求等において、裁判所から警察に対する関係書類の提出命令により、送致していなかった書類等が露呈する事例が発生しています」「未送致書類であっても、不要な書類は適宜廃棄する必要があります」と説明している。

さらに「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません!!」と強調しているのに驚く。注意を呼びかけるように警笛を鳴らす警察官のイラストも添えた。文面の軽さと問題の重大性のギャップはあまりに大きい。

鹿児島県警は2003年の県議選を巡り、全員の無罪が確定した志布志事件でずさんな捜査を厳しく指弾された。12人の冤罪犠牲者を生んだ反省を忘れてしまったのか。憤りを禁じ得ない。

この文書は地方公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴された元巡査長が、外部に流出させた資料に含まれていた。

鹿児島県警の内部情報漏えい事件では、国家公務員法(守秘義務)違反の容疑で逮捕された前生活安全部長が「県警本部長が不祥事を隠蔽しようとした」と名指しで主張している。警察庁は事件の全容を早急に調べ、結果を公表する必要がある。

過去の再審事件で、検察が「存在しない」と説明した証拠が裁判所の勧告によって開示され、無罪につながったケースは少なくない。

鹿児島県警の文書が明るみに出たことで、捜査当局による証拠隠滅が実際に行われかねないと、疑念を持たれても仕方あるまい。

今春、再審法(刑事訴訟法の再審規定)改正に向けた超党派の国会議員連盟が発足した。日本弁護士連合会などが求める捜査記録や証拠品の適正保管はもちろん、法的ルールがない再審請求段階の証拠開示を義務化する議論を加速させるべきだ。

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