【井上孝司の「鉄道旅行のヒント」】路線図とは裏腹に、素通りされる駅がある

by 井上孝司

地図で見ると、豊橋から北西に延びている飯田線の途中から名鉄名古屋本線が分岐しているように見える(青い矢印の位置)。その途中にあるのが下地駅(赤い矢印の位置)と船町駅。しかし時刻表の索引地図を見ると、飯田線と名鉄名古屋本線は別々に描かれている(国土交通省の地理院地図を加工して作成)

前回は、「路線図では離れた駅同士、あるいは離れた路線同士に見えるが、地図で確認すると実際には近接している事例がある」という話を書いた。今回は、その逆パターンを取り上げる。

名鉄は素通りする下地と船町

時刻表の索引地図で東海地方を見ると、豊橋駅の西方に、船町駅と下地駅がある。いずれもJR東海・飯田線の駅だ。ところが、この場所を地図で見ると、名鉄名古屋本線も一緒くたになっているように見える。

第57回でも書いたように、豊橋駅から平井信号場までの区間は、飯田線と名鉄名古屋本線が線路を共用している。その、共用している区間の途中に、船町駅と下地駅がある。しかし、この両駅はあくまで「飯田線の駅」であるから、名鉄名古屋本線は全列車がこの両駅を素通りする。名鉄名古屋本線にとっては「物理的には存在するが、論理的には存在しない駅」というわけだ。

これが下地駅。2024年3月に供用を開始したばかりの新駅舎では、廃車になった東海道新幹線の車両からリサイクルした再生アルミ素材が使われている
下地駅と船町駅は名鉄名古屋本線にとっては「存在しない駅」であるから、全列車が素通りする
それどころか飯田線でも、一部、下地駅と船町駅を素通りする列車がある

伯備線の列車が素通りする伯備線の駅

似たような話が、中国地方の山中にもある。

倉敷と米子・出雲市方面を結ぶ伯備線。その途中にある新見駅は、姫路からの姫新線が伯備線と合流する駅。西方には芸備線が分岐するが、これは新見駅ではなく、米子方に2駅行った備中神代駅から分岐する。

そして、新見駅と備中神代駅の間に、布原という駅がある。れっきとした伯備線の駅だが、伯備線の列車は1本も停車しない。よしんば停車することがあっても、それは対向列車との行き違いが目的で、乗降はできない。業界用語でいう「運転停車」である。

布原駅に停車する列車はすべて、新見から備中神代を経由して芸備線に直通する列車。だから、伯備線の布原駅に行くには、伯備線ではなく芸備線の時刻表を見なければならない。

そもそも布原という駅、昔は行き違いのための信号場で、ついでに(?)客扱いもしていた。1970年ごろには、D51形蒸気機関車の三重連がここを通ることで知られており、それを撮影する人が大量に押し寄せていた。

しかし、もともと駅の周囲は辺鄙な山村で、人家はきわめて少ない。利用者の数は推して知るべし。だから「芸備線の列車だけ止めれば用は足りる」という事情らしいが、ホーム長が1両分しかない事情もありそうだ(伯備線の普通列車は、電車だと最短で2両編成)。

これが布原駅のホーム。いかにも短い
下りの「サンライズ出雲」に乗ったら、布原駅で上りの普通列車と交換したことがあった。ただし、どちらも客扱いは行なっていない

片方の路線にだけ駅がある

船町、下地、布原の各駅はいずれも、「ホームがあるのに素通りされる」駅。ところがそんな事例ばかりではなく、「地図や路線図の上では駅があるのに、行ってみたらホームがなくて素通りされる」駅もある。

いわゆる緩急分離の複々線、つまり各駅停車の線路(緩行線)と、急行・快速の線路(急行線または快速線)が並んでいて、そのうち緩行線にだけホームがある事例なら、めずらしくもなんともない。では、緩急分離ではない複々線では?

そこで、まずは阪急電鉄。大阪梅田~十三間は、東から順番に京都線、宝塚線、神戸線が並ぶ三複線になっている。そして時刻表の索引地図を見ると、駅は大阪梅田~中津~十三と並んでいる。

ところが、中津駅のホームが存在するのは宝塚線と神戸線だけで、京都線はホームがない。だから、中津駅に行こうとしたら、宝塚線か神戸線の各駅停車に乗らなければならない。知らずに京都線の各駅停車に乗ると降りられない。三複線にしたときに用地がなくて、こうなってしまったとの話。

そこから南下して、今度は南海電鉄。時刻表の索引地図を見ると、なんば~今宮戎~新今宮~萩ノ茶屋~天下茶屋と駅が並ぶ。そしてここは、東側が高野線、西側が南海本線の複々線になっている。

ところが、このうち今宮戎駅と萩ノ茶屋駅は高野線のホームしかない。南海本線の列車は素通りするから、高野線の各駅停車に乗らなければならない。こうした事情があるため、高野線では「各駅停車」、南海本線では「普通」と用語の使い分けが行なわれているのがおもしろい。

神戸線の車中から撮影した中津駅。右手に見えるホームは宝塚線のそれで、一番奥にある京都線にはホームがない様子も分かる
高野線では、各駅に停車する列車は「各停」表示
南海本線では、各駅に停車する列車は「普通」表示。今宮戎駅と萩ノ茶屋駅を素通りするので、こういう用語の使い分けになっている

地図と路線図の両方から確認

このほか、2つの路線が並行して走っており、そのうち片側にだけ駅が存在する事例もある。陸羽東線の南新庄駅(目の前を素通りするのは奥羽本線)、それと八高線の北藤岡駅(同じく高崎線)が有名だ。先に挙げた下地駅も、目の前を東海道本線が走っているが、そちらに駅はない。

地図上では1本の線で描かれているが、乗る列車の路線次第では素通りされてしまう。これは地図だけ見ていると間違いのもとになるので、路線図も確認しないといけないことになる。

南新庄駅に到着する陸羽東線の列車。ススキが生い茂っているので分かりにくいが、その隙間から、向こう側にもう1本の線路があるのが見える。これが奥羽本線(山形新幹線)の線路。ここも、地理院地図で見ると奥羽本線と陸羽東線がひとまとめにされているので、両方に南新庄駅があるように見えてしまう
先に挙げた下地駅は東海道本線も平行しているが、そちらに駅はないので素通りされる

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