特急「ふじかわ号」で富士川を下りながら車窓とビールと弁当を楽しむ!

特急「ふじかわ号」は、山梨県の甲府駅と静岡県の静岡駅を身延線経由で結ぶ特急列車。身延線は、富士川沿いに山あいを走る、風光明媚な路線である。初夏の気持ち良く晴れた休日、甲府駅から静岡駅まで、車窓を眺めながら沿線にちなんだビールと弁当を楽しんできた。

10:44 甲府駅

甲府は中央本線の特急「あずさ」で新宿駅から約1時間半、山梨県の中心都市である。駅ナカでビールと弁当を買い込んで向かったのは、身延線の発車する4番線。ここが始発の特急「ふじかわ6号」は発車準備中で、乗客はホームで扉が開くのを待っている。甲府駅は中央本線の途中駅だが、身延線はこの駅が終点。行き止まり式のホームに乗り鉄の私は軽い興奮を覚える。途切れた線路が、キッパリと「ここが終点、ここが始発」と主張しているようだ。

10:50 南甲府駅付近

列車は定刻に発車。座席は重厚なワインレッド色、それに合わせてカーテンも薄い紫と、ゴージャスな内装が気分を盛り上げる。車内の込み具合は、窓側の座席が埋まる程度。静岡駅まで2時間余り、快適な列車旅を楽しめそうだ。

発車してすぐの左側車窓には、近くの山々の稜線の向こうに、富士山の頭だけがチラッと見えた。まだ山頂には雪が残っている。初夏の雲の多いこの季節、少し見えただけでもラッキーと思うべきだろう。

11:05 市川大門駅付近

しばらくは甲府盆地の中を南下する。遠くには南アルプスの山々を望むことができるが、こちらにはもう雪は残っていない。田んぼや畑の中を、列車は快調に進んでゆく。

さて、いよいよビールをオープン。甲府駅で買ったのは、富士桜高原麦酒のピルス。ビールファンの皆様には今さら説明するまでもないだろう、ドイツスタイルのビールを得意とするブルワリーの、定番中の定番である。フローラルでかすかにスパイシーな味わいは、初夏の緑にあふれた車窓を眺めながら飲むと、ひときわ美味しく感じられる。

そして、ビールに合わせた弁当は「高原野菜とカツの弁当」だ。小淵沢駅を本拠とする駅弁屋「丸政」の定番商品である。全国に無数にある駅弁の中で、生野菜がメインとなっている駅弁は、これ以外に聞いたことがない。ここではチキンカツが脇役に甘んじるのである。レタスにきゅうり、カリフラワー、セロリ。しゃきしゃきの食感がしっかりと感じられて、野菜の新鮮さを存分に楽しめる。

これらの野菜が、富士桜のピルスによく合うこと!特にセロリの苦みは、ホップの苦みとベストマッチである。さらにこの弁当の楽しい点は、調味料が豊富に付属していることだ。ドレッシング、ソース、塩、マスタード。野菜にもカツにも自由に使って、味変のパターンを変えながら飽きることが無い。

脇役に控えしチキンカツも、本来ならば主役を張れる力量である。ジューシーで柔らかな鶏肉に薄い衣をまとい、塩、マスタード、ソース、どんな味でも美味しく頂くことができる。

11:45 身延駅付近

弁当に舌鼓を打っている間に、列車はいつの間にか甲府盆地から山あいに入り、富士川沿いを走り始めた。身延線は富士川の左岸を川の流れに沿ってカーブを繰り返しながら、ゆっくりと進む。乗っているのは特急列車ではあるが、このカーブの連続ではスピードも上がらない。しかし、その緩いスピードが車窓を楽しむのにちょうど良い。

ビールと弁当を平らげて、ちょっと車内を散歩。先頭車からは運転席越しに、前面の展望も楽しめる。川沿いから山あいへ入ったり、また川沿いに出たり。緑に囲まれた単線を、列車はくねくねとリズミカルに進む。

12:10 内船駅~富士宮駅

列車が進むにつれて、富士川の水量が増えてゆき、川幅も広くなってゆくのがわかる。今は穏やかな流れだが、河原で草が生えていない砂利の部分は、大雨が降ると川底になってしまう部分だろう。近年は毎年のように、夏から秋にかけて大雨による災害が発生しているが、今年は何事も無いことを願う。

線路は富士川をいったん離れ、沿線の主要都市である富士宮市の富士宮駅へと向かう。その途中の高台を走る箇所から、晴れていれば富士山の全容を望むことができるはずなのだが、この時はあいにく雲に覆われて山麓しか見えなかった。雲の多いこの季節では仕方なしと思うべきだろう。

12:40 富士川橋梁

富士宮駅の次は富士駅。列車は身延線から東海道本線に入り終点の静岡駅を目指す。その途中、先ほどまでずっと身延線と並行していた富士川を渡る。約30分前に車窓に見えた地点よりも、流量も川幅も段違いに大きくなり、すぐ先は駿河湾である。

13:02 静岡駅

列車はほぼ定刻に静岡駅に到着。2時間余りの列車旅は、車窓とビールと弁当を楽しむのにちょうど良い長さだ。山あいの甲府から山の幸とビールを楽しみながら着いたのは、駿河湾に面した静岡だ。今度は新鮮な海の幸と美味しいビールを探しに、早速街へ繰り出してみよう。

(取材 2024年6月8日 写真は全て筆者撮影)

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