忘れられない“タワシのコロッケ”…お茶の間を沸かせたドロドロの昼ドラ『真珠夫人』を振り返る

『真珠夫人』DVDセット

昭和から平成にかけて、平日12〜13時台に放送されていた「昼ドラ」。もともと主婦層をターゲットにして作られたドラマだというが、当時子どもだった人も夏休みなどに見た経験があるかもしれない。

そんな昼ドラはハートフルなドラマもある一方、男女の愛憎劇をテーマにしたドロドロの内容も多かった。なかでも2002年にフジテレビ系列で放送された『真珠夫人』は視聴者に強烈なインパクトを残し、今でも感情の渦巻く昼ドラの名作として有名だ。

今回はそんなドラマ『真珠夫人』について振り返りたい。

■原作は今から100年も前! 菊池寛の作品

視聴者が夢中になる愛憎劇が展開されている『真珠夫人』は、現代ドラマが得意な脚本家が書いたと思うかもしれない。しかし、本作は今から100年以上も前に誕生しており、その原作者は文藝春秋社を創設したことでも有名な小説家、菊池寛だ。

小説『真珠夫人』は1920年に「大阪毎日新聞」と「東京日日新聞」に掲載され、大衆文学として人気を博した。大正時代に書かれた小説ではあるものの、金力、名誉、女性の地位や純愛など多くのテーマが描かれており、今読んでも面白い。

大まかなあらすじは次の通りだ。主人公は元華族の娘・瑠璃子。もともと素直な女性で愛する婚約者がいたが、没落寸前の家を救うために望まぬ結婚を強いられる。やがて未亡人となった瑠璃子は自分の運命を変えた社会や男性のエゴに復讐するように、次々と男性たちを虜にして破滅させる妖婦へと変貌する……という内容だ。

■昼ドラはTBS、フジテレビ両方で…映画化もされるほどの人気

ドラマ『真珠夫人』を覚えている人は、2002年のフジテレビ系列での印象があるだろう。主演の瑠璃子役を横山めぐみさん、瑠璃子を愛する杉野直也役を葛山信吾さん、直也の妻・登美子を森下涼子さんが演じた。

しかし『真珠夫人』はフジテレビだけでなく、それ以前にTBS系列でも1974年に放送されている。このときのキャストは瑠璃子役を光本幸子さん、直也役を久富惟晴さんが演じた。

さらにそれより前の1950年には大映にて映画化もされており、前編として『眞珠夫人 処女の巻』、後半として『眞珠夫人 人妻の巻』という、ちょっとなまめかしいタイトルで公開されている。

映画化もされたうえ、異なるテレビ局でそれぞれドラマ化もされた作品というのは珍しい。細かな内容はそれぞれ違うものの、男女の愛憎劇を描いたドロドロ展開は昔も今も変わらず人気があるのかもしれない。

■真珠夫人といえばこれ!「タワシのコロッケ」

フジテレビの『真珠夫人』を一躍有名にしたのが、“タワシのコロッケ”のエピソードだろう。

直也の妻・登美子は、あるとき直也が瑠璃子と密かに会っていることを知る。その夜、登美子は直也に夕飯を準備しつつ「おかず何もありません。冷めたコロッケで我慢してください」といって皿を出す。そこにはキャベツの脇に置かれた2つのタワシが! 驚いてそれを指摘する直也に対し「どうかしたんですか? ソースかけてください」と続ける登美子。セリフも非常にシュールだ。

このほか、登美子は瑠璃子の写真の目の部分にたくさんの針を刺したり、破いたり。また夜の夫婦生活を直也に拒絶されるシーンでは、“300円であたしを買って! 売れっ子の上玉よ”と言い、パジャマを脱いで迫るなど、底知れぬ嫉妬心をあらわにするシーンが多く見られる。

そんな登美子を演じた森下さんは、本作をはじめ、昼ドラ『緋の稜線』でも主役をつとめるなど、ドロドロのドラマには欠かせない素晴らしい女優だった。現在は役者を休業されているようだが、またいつか活躍する姿を見たいものである。

感情の嵐が吹き荒れる昼ドラの代表『真珠夫人』。まさに真珠のような輝きを放つ主演の横山さんが美しく、その相手役である葛山さんもザ・昼ドラと言うようなドラマチックな演技が素敵だった。

フジテレビで放送された『真珠夫人』はDVDも販売されているので、愛憎が交錯する昼ドラを堪能したい人は視聴してみると良いだろう。

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