松下奈緒『ゲゲゲの女房』が今の自分を作ってくれている「あの経験があったから、今でも私は“なんでもできる!」

松下奈緒 撮影/三浦龍司

NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で、ヒロインを演じて一躍人気俳優になった松下奈緒。音楽大学在学中にピアニスト役でドラマデビューを飾り、現在も俳優、音楽家の双方で活躍。今年で20周年を迎えた。常に凛とした姿が印象的な松下さんの語るTHE CHANGEとはーー。

清廉さと強さを併せ持ったイメージの松下さん。真っ白なブラウスがよく似合う。

「プライベートでも白は多いですね。特に夏は白ばっかりです」

そんな松下さんは今年でキャリア20周年。いまだに「布美枝ちゃん」と呼ばれることもあると言う。そう、漫画家・水木しげる夫妻をモデルに、夫の成功を信じて家族を支える妻を演じた朝ドラ『ゲゲゲの女房』での役名だ。

「やっぱり『ゲゲゲの女房』で皆さんが知ってくださった実感はあります。あのドラマとの出会いによって、今もこうしていろんなことをやらせていただける環境にある。本当に感謝です」

――デビューは2004年、『ゲゲゲの女房』は2010年度前期放送でした。

「デビューして6年くらいのとき。それまでにもいろんな作品がありますが、毎日撮影に向かって毎日お芝居をするという環境は、学校に通っているようでした」

――朝ドラの撮影は過酷だと聞きます。

「私も“つらい、大変だ”と聞いていたんですけど、全然つらくなかったんです。“私って、意外とタフなんだな”と思いながら通いました(笑)、それが初めてのことだからできたんだろうなという気持ちも、どこかにありました」

大変さより楽しさの方が大きかった

――初めてのこと。

「こんなに毎日毎日、ずっと同じキャスト、同じスタッフさんで一人の役を約9か月演じ続けるということが初めてだったんです。その楽しさでカバーされてたんじゃないかなと。今になって思うことがあります」

――松下さんにとっては、大変さより楽しさが大きかったんですね。

「何の根拠もなしに“私は大丈夫”と思っているところがあったんです。けど、どうしてもしんどいときはありますよね。それでも“大変だった、つらかった”という気持ちより、楽しかったなと思えたのは、作品のいいところを、私自身が感じられていたからだろうと思います。好きすぎて間違って現場に行っちゃったこともあったんです」

――撮影がお休みの日に?

「はい。それだけ充実していたのは、作品のカラーもあったでしょうし、スタッフのみなさん、キャストのみなさんの力もあったと思います。あの現場で教えてもらったことは、今でも大切にしています。あの経験があったから、今でも私は“なんでもできる!めげない!”と思っているところがありますね」

――視聴者にとってもですが、松下さんにとっても大きな作品になりましたね。

「『ゲゲゲの女房』との出会いが、今の私を作ってくれている部分は大きいと思います」

――毎日撮影で、単純にセリフも動きも考えることが膨大だったと思います。松下さんは、いつも落ち着いていて、それこそ失敗しないイメージがあります。

「『ゲゲゲの女房』のときというわけではないですけど、これまでの経験のなかには、何十回言っても言えないセリフがあったりすることもあります。一度言えなくなると、ずっと言えなくなってしまって。“さっきまで言えてたのに!”って。急に涙が出なくなったり。焦るとよりできなくなりますし」

――そういったときは、休憩を挟んだりするのでしょうか。

「私、それはイヤなんです。現場を止めることが、私は一番イヤですね」

朝ドラの舞台裏が放送されると応援したくなる

――そういえば、以前、途中で諦めると自分で自分が許せなくなるとお話されていました。

「許せないです。現場を止めるというのも、自分では何かを諦めたような感じに思ってしまうので、絶対にしたくないので。どうにかして乗り切ります」

――そこにもタフさが覗いていますね。ちなみに、現在放送中の『虎に翼』の伊藤沙莉さんや、『風よ あらしよ』でも共演している『花子とアン』の吉高由里子さん、松下さんも出演した『まんぷく』の安藤サクラさんなど、松下さんのあとにも朝ドラのヒロインが何人も誕生していっています。そうしたヒロインを仲間、同志のように思う瞬間はありますか?

「ドラマ自体は作品として見ますが、たまにオフのシーンなどを目にすることがあると、“頑張ってるな”と思いますね。お芝居しているときは、みなさん完ぺきに作品の色になっていますけど、ふと裏側が見えるときに“体調大丈夫かな。頑張ってるんだろうな”と思います」

朝ドラという“学校”を体験したものだけが分かる思いがあるのだろう。

松下奈緒(まつした・なお)
1985年2月8日生まれ、兵庫県出身。2004年に俳優デビュー。2006年に『アジアンタムブルー』で映画初出演を果たす。同年、ピアニスト・作曲家として1stアルバム『dolce』をリリース。以降、8枚のオリジナル・アルバムを発表している。2010年、漫画家・水木しげる夫妻を描いたNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』でヒロインを演じた。主な作品にドラマ『まんぷく』『アライブ がん専門医のカルテ』、映画『砂時計』など。最新作はピアニスト役を演じた『風の奏の君へ』。数多くの映画、ドラマ、CMに出演、司会なども務め幅広い才能を生かしている。

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