銀行や証券会社は「資産運用のプロではない」…「美味しい投資話」を吟味する一つの基準

(※写真はイメージです/PIXTA)

富裕層に関するお金の問題解決にあたってきた江幡吉昭氏の新著『インフレ時代の投資術』(出版社名)より、著者の承諾を得て、いくつか内容を抜粋しご紹介していきます。本記事は第三段です。

美味しい投資話には一つだけ「例外」がある

○美味しい投資話には裏がある(国策に例外あり)

日本もついに資産運用の時代に入ったと思われるが、今後ますます投資話が自身の周りに巡ってくるだろう。一昔前は海外通貨、海外不動産、今なら暗号資産関連だろう。

詐欺話もあれば、投資対象自体は実在のものだったが、結果として大損するケースもあるだろう。エンジェル投資も「出資」したはいいが、実際にIPOやバイアウトで出口を迎えることができるのはごく僅かである。

このような投資話を吟味して正しい判断を下すために一つの判断基準を持っていたい。それは「長期国債以上に儲かる話か否か」という視点である。

日本の長期国債である10年債の利回りは0.7%(3月下旬時点)。これよりもプラスして5%以上高い利回りを出すような投資話は危ないと考えていいだろう。詐欺をする側からすれば「年利3%の投資なので投資してください!」と言ったところで、「美味しい話」にはならないのでカモが集まらない。

しかし「月利3%、年利36%の投資です!」と言われると、信用できなくてもちょっと投資しようか…と揺らいでしまう。なので法外な金利を出すところには簡単には投資しないということが肝要。その基準が長期国債にプラスすること5%以上か否か、だと考える。(そもそもこのような本を手に取った読者の方はだまされる心配はないのであろうが。)

ただし、美味しい投資話には一つ例外がある。それは国策である。国策に乗っかった投資が儲かるのは事実。例えば2011年グリーン投資減税があったときの太陽光発電の投資。太陽光というとなんだかインチキ臭い印象を持たれる方も多いが、実際これは儲かった時代があった。現在進行形の話ではなく、あくまで「終わった話」ではあるが、国策は儲かるということの事例として紹介したい。

2011年の東日本大震災時に脱原発を民主党政権が掲げた。当時の菅直人首相がソフトバンクの孫正義からのアドバイスを受け、太陽光投資に関して即時償却(要は投資した金額がすべて損金になる)かつ、同時期に太陽光発電などの再生エネルギーに関して20年間固定の値段で電力会社が買い取るというFITを制定した。

これによって、太陽光投資は富裕層や儲かっている企業に大きく広がったわけだが、これにいち早く投資した人たちは相当儲かった。利回りで年間15%前後。例えば一億円の太陽光発電所に投資すると年間1500万円前後の売電収入が東京電力から入ってくる。

6年強でペイするわけで、元本は戻ってこないが(20年間買い取ってくれるがその後は続けるか、設備そのものを廃棄するかの二択)、不動産と比べるとメリットが大きい投資であった。不動産よりも賃借人リスクが低い。賃借人に相当するのが電力会社と太陽なので、とりっぱぐれがないからである。

しかも法律で太陽光などの再生可能エネルギーにより発電した電気は高値で固定されて20年間買取し続けることが定められていたためである。このような条件で投資しない理由はない。実際、日本の大手商社や欧米の外資もこぞって参入した。

固定買取の値段は当時1キロワット当たり40円前後。海外では売電収入がキロワット当たり10円前後だった国も多かったので大盤振る舞いであった。実際の電気代としては当時キロワット当たり当時25円前後だったため、投資家にとって破格の政策だったわけだ。25円だったものをわざわざ法整備までして40円で買い取ってくれるのだ。このような国策に乗らないのは損だということである。

「太陽光=なんか怪しい」といって投資をしなかった人も多かったが、先入観で損をした。きちんと国の動きを見て、「それが本当かどうかファクトチェックをし、陳腐化する前に投資をする変わり身の早さが投資には重要と考える。ちなみに今の太陽光投資に関しては現時点では大きなメリットはない。

「太陽光投資の再来」になりうるもの

このような太陽光投資の再来になるのではないかと個人的に考えているものがある。それが株式投資である。

なぜ株式投資が国策になりうるのか。それはコストプッシュインフレから始まるインフレの萌芽によりいよいよ30年に続いたデフレ脱却の芽が出ていることによる。政府や日本銀行はこのチャンスを逃すとデフレが再度続くこと、日本病の継続を恐れているため、様々な方向からこの脱デフレの外堀は埋まりつつあると考える。

まず第一に東証のPBR1倍割れ解消のアナウンスである。証券取引所が企業に対してそのような前代未聞の要請をするという異常さを考えるとその本気度も推して知るべし。

第二にウクライナ戦争を機に中国やロシアなどの権威主義国家から日本への工場移転が進みつつある。製造業の国内回帰である。もちろんこれらの問題は様々な問題があり一筋縄にはいかないがTMSCの熊本工場など世界の工場の日本回帰による産業の空洞化の解消が進む。

そして第三に貯蓄から投資へアクセルを踏む、新NISA(とiDeCo)である。もともとNISA自体は年間一00万前後の「やってもやらなくてもどちらでもいいような小額」であったものが、今回の新NISAでは最大1800万まで枠が拡大され、年間最大360万投資することができるようになる。従来の制度に比べて魅力的なものになった。

第四に歴史的な円安と原材料高である。円安になることで多くの輸入品の値段が上がる。そうすると当然のことながら物価が高くなりインフレ=円の価値の減価は否応でも意識される。当然、なにかしらの投資をしなければどんどん目減りするのは自明。

また1990年代のバブル崩壊の記憶が鮮明に残っているのが今の50代以上の世代だとすると、今の消費の世代である40代以下はバブルの痛み自体を経験していないため、それほど大きく投資=バブル崩壊=損をするもの、という投資に関するネガティブイメージもなく、投資に第一歩を踏み出すには抵抗のない世代と言えるだろう。

このような複合要因がほぼ同時期に重なることで今回の脱デフレのタイミングは最後に政府・日銀が背中を押すことでデフレ脱却となると考える。事実、2024年3月にマイナス金利の解消とYCC※の取りやめが日銀の政策変更が決定された。

※YCCとはイールドカーブコントロールの略。金利を一定の水準にするために、中央銀行が国債やその他の金融資産を購入する金融政策。

○金融機関は運用のプロではなく、商品販売のプロ

このようなインフレ下に何で投資をすればいいのだろうか? 自分で勉強するのも大変だし、どこまで効果があるのかは疑問である。そこで、多くの方はアクセスしやすい金融機関に相談しようと思われる方が多いと思う。

しかし、読者の方に注意してほしいのが、銀行や証券会社は資産運用のプロではなく、商品販売のプロだということだ。彼らはインサイダー取引の規制などがあり、積極的に証券投資ができない。

さらにインサイダー取引規制以外にも、金融機関内部の独自規制が別に存在している。NISAやiDeCo以外の運用には、上司の承認が必要だったり、かなり面倒な状況になっており、アクティブな資産運用をそもそもしていない人も多い。

つまり、NISAやiDeCoなど毎月積み立てインデックス投資をしている程度であるわけだ。つまり皆さんと同様の投資経験ということである。

例えば、皆さんが魚屋に行って、「今日のいい魚何?」と聞いても「いや~、私自身、魚をあまり食べちゃいけないのでわからないです。私自身は魚わかりませんが、店からはこれを勧めろと言われています」という状況なのである。

資産運用のプロではないが、商品販売の売り方のトレーニングやロールプレイングをしっかりやっている商品販売のプロということなのだ。説明は上手。しかし本当のところは魚を食べたことがない、好きではない人がやっているということになっている。

販売手数料を稼ぐため…金融庁が問題視する銀行の「販売手法」

また、金融業界は基本的に毎月のノルマが重く。どうしてもお客様に動いてもらわないと手数料が発生しない業界である。今は預かり資産営業にシフトしつつあるが、それでもその色合いは強く残る。社風や業界風土は何十年も短期売買・回転売買の風土が長く、そう簡単にその風土が治るものではない。

実際、私が相談者のポートフォリオを見ていると感じるのは2022年以降、普通に投資すれば3-40%儲かっているはずなのであるが(実際私自身の証券投資のポートフォリオは40%増となっている)、対人営業の証券会社と取引している方はほぼ儲かっていない方が多い。全国規模の証券会社は営業マンも多く抱えているため、担当者はお客様に損をさせたとしても、異動させれば済むというのも構造的な問題だろう。

「前任の担当者はお客様に損をさせて申し訳ありませんでした、新担当者の僕は頑張ります!」という体だ。実際リーマンショック後には大きな人事異動が各証券会社であった。

よってお客様に生涯寄り添ってくれる相手かどうかが制度的に担保されているのかどうかが重要なポイントだろう。実際2024年の4月、金融庁が銀行の外貨建て保険の販売手法を問題視しているという報道がされた。

「金融庁は3日、外貨建て保険の販売で購入から4年間で約6割が解約しているとの調査結果を発表した。解約後に同じような保険商品に乗り換えさせて販売手数料を稼いでいる実態を問題視。改善を求めた。銀行各行は窓口での保険販売で対応を迫られる。」

という内容である。本来外貨建ての保険商品は10年以上保有する目的の商品であるが、最近の円安傾向で「少し儲かりましたから売りましょう」と言って現金化させた後、「儲かるからもう一回やりましょう」ということで販売手数料を稼いでいるのだ。以前の投資信託の乗り換え営業と全く同じ構造であり、どの金融機関も「顧客重視」や「資産形成長期投資」を標ぼうしているが、本音と建て前は異なるということである。

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本記事では、9箇条のうち7、8つ目をご紹介しました。

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