リハビリ医にとって絶対に欠かせない能力はなにか?【正解のリハビリ、最善の介護】

ねりま健育会病院院長の酒向正春氏(本人提供)

【正解のリハビリ、最善の介護】#32

リハビリ医が「攻めのリハビリ医療」を進めるには、患者の全身管理を行う能力が必須です。特に高齢者の全身管理に関する知識が必要で、すべての病気に対して集中治療室治療と手術以外は対応できる力が求められます。回復期リハビリ病院で患者を担当したとき、初期診察評価と全身管理を自分でできないリハビリ医には、攻めのリハビリは難しいでしょう。

担当のリハビリ医が対応できない病態が生じた場合、専門の医師の治療が必要になります。大学病院や総合病院であれば、他科への受診依頼になるでしょうか。しかし、回復期リハビリ単科の病院では、他科受診ができません。そのため、日頃から「いい医者連携」が必須になるのです。いい医者連携については、今後あらためて詳しくお話しします。

冒頭で触れたリハビリ医に求められる全身管理能力の中で、特に必要なものが「再発を予防する医療」です。回復期リハビリ病棟には、脳血管疾患、運動器疾患、廃用症候群の3群の患者が入ります。そこで、それぞれで再発予防を考えます。まず脳血管疾患は、「脳卒中」「脳挫傷」「急性脳症」「脳炎」「脊髄損傷」「脊髄梗塞」「四肢切断」などの病態があります。中でも最も再発予防が重要なのは「脳卒中」で、これは①脳梗塞、②脳出血、③くも膜下出血の3群に分かれます。

①脳梗塞では、脳動脈狭窄(ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞)であれば抗血小板剤、心房細動(心原性脳梗塞)であれば抗凝固薬を使って血液を固まりにくくします。脳動脈や頚動脈が今にも詰まりそうなほど狭窄している患者では、急いで動脈を拡張する手術が必要になるケースもあります。

また、動脈が狭窄する原因は、高血圧、糖尿病、高脂血症ですから、それぞれに対する管理も行います。高血圧に対しては、降圧剤で130/85(㎜Hg)以下に管理します。

糖尿病は、リハビリのトレーニングで筋肉を使うことで良好に血糖値が下がるため、筋負荷で良好に管理できます。中には、リハビリを行うことで経口糖尿病薬を減量したり中止できるケースもあります。一方、リハビリが順調に進まず、十分に筋肉を使うことができない場合は、内服やインスリン注射に頼ることになります。

高脂血症で、脳動脈や頚動脈の狭窄が強い場合(アテローム血栓性脳梗塞)は、血管内で肥厚している血管内皮を退縮させるために、LDLコレステロールを70以下にする内服管理で、手術や再発を防げる可能性があります。脊髄梗塞はまれな疾患なので、今までに説明した以上の特別な再発予防策はありません。

■くも膜下出血の治療後はてんかんが起こりやすい

②脳出血の再発予防は血圧管理が重要です。降圧剤を使って120/80以下にコントロールします。また、体重が増加すると、血圧も上昇します。このため、体重は<身長-100>を目安に管理するのが基本です。

高血圧性脳出血以外の場合は、脳腫瘍、脳動静脈奇形、モヤモヤ病といった原因が考えられるので、必ず脳神経外科の専門医との連携が必要です。

③くも膜下出血の再発予防は、脳動脈瘤ができないようにするために、これも血圧管理が重要です。脳出血のケースと同じく、降圧剤で120/80以下にコントロールします。くも膜下出血の治療後は、脳動脈瘤の再発のほかにも、てんかん、水頭症が発生しやすい病態になります。とりわけ、くも膜下出血の治療後1~3年はてんかん発作が起こりやすいので注意が必要です。けいれん発作が2回生じると、「てんかん」という病名が付き、抗てんかん薬の内服が必要になります。脳神経外科医は、くも膜下出血の手術後にはてんかん発生の予防のために抗てんかん薬の使用を開始することが多くあります。

このほか、水頭症が発生した時は手術治療が必要になります。

「脳挫傷」の再発予防は、転倒しないための体づくりと、外傷への注意力が重要です。また、脳挫傷の治療後もてんかん発作が起こりやすいので、必要時は抗てんかん剤の内服が必要です。「脊髄損傷」も交通事故や転倒・転落により生じるので、再発予防は転倒しない体づくりと外傷への注意力が重要になります。

「急性脳症」は飲酒や薬物などが過剰にならないこと、規則正しいバランスの取れた食生活をすることが大切です。「四肢切断」の原因は、かつては事故がほとんどでしたが、現在の高齢化社会では動脈閉塞による壊死が大きな原因になっています。ですから、脳梗塞と同様に、高血圧、糖尿病、高脂血症の管理が重要になります。

次回は「運動器疾患」と「廃用症候群」での再発予防策についてお話しします。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)

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