再婚やシニア婚が増加している日本。長い人生、愛するパートナーと暮らせるのは幸せですが、その一方で、相続の面では、なかなか複雑な状況になることもあるようです。実情を見ていきましょう。
夫婦の4組に1組は再婚、近年ではシニア層の再婚件数が増加中
厚生労働省によると、夫婦の4組に1組は再婚で、とくに近年はシニア層の再婚件数が増えています。世代別の再婚件数を見ると、50代以上の比率は夫が約3割、妻が約2割に上ります。
[図表1]50代以上の再婚者の割合 (出所)厚生労働省「令和4年 人口動態統計」
春香さん(仮名)は30代の女性。高校生のときに母を亡くし、以後は父親と2人で暮らしていました。20代後半で会社の先輩と結婚しましたが、それを機に家を離れ、いまは夫の勤務先の都合で他県に暮らしています。
父親と春香さん夫婦の関係は良好で、定期的に連絡を取り合い、お盆やお正月には泊りがけで実家に帰省するなど、親しく交流していました。
ところが去年のシルバーウィーク、春香さんが帰省したところ、リビングには見知らぬ女性の姿が。春香さん夫婦面食らっていると、照れくさそうに女性を紹介する父親から「再婚しようかと思うんだ」との衝撃発言が…。
女性の年齢は父親より少し若い50代で、会社員とのこと。女性は10年前に離婚しており、シングルマザーとしてひとり息子を育ててきましたが、息子の結婚が決まって肩の荷が下りたということで、自分の再婚を考えるようになったということでした。
春香さんは父親がマッチングアプリをやっていたという話にも驚き、戸惑いましたが、配偶者に先立たれ、娘も嫁いで自分の家庭を築き、長年ひとりで頑張ってきた父親のことを思えば、むげに反対もできません。
「まあ、いいんじゃないかしら…。ねぇ?」
そういうと、夫とぎこちなく顔を見合わせました。
例の女性が帰宅したあとは、なんとも微妙な空気のまま、家族で休暇を過ごすことになりました。
父親はそれから1カ月後、例の女性と入籍。春香さんの自宅には、地元の写真館で撮影したという、2人のウエディングフォトが送られてきました。父親は、これまでにないいい笑顔で写っていました。
再婚から数カ月で、父親急死
しかし、それからわずか数カ月で不幸が襲います。なんと春香さんの父親が、脳梗塞で突然死してしまったのです。
「お父さん、どうしてこんなことに…!」
突然の父親の死に動揺する春香さんでしたが、やるべきことはどんどん押し寄せ、葬儀、四十九日はあっという間に終了。その後、自然と相続の話になりました。
父親の法定相続人は、現在の配偶者である後妻と、父親の実子である春香さんの2人。遺言書はありませんでした。また、子どもたちはいずれも養子縁組していません。
「お父さんと再婚してわずか数カ月。まだ50代で現役の会社員なのだから、ここはそっと身を引いておしまいでしょ…」
春香さんは密かにそう考えていましたが、現実は甘くありませんでした。
女性は「私は正式な妻ですから」「ここは法律通りで」と、法定相続分をきっちり主張。春香さんはそれ以上言い返すことができず、自宅と現金で合計1億円の遺産の半分が再婚相手のものに。
「あなたはすでにご夫婦で暮らすおうちがあるのよね?」
「私、自分の家がないの。お父さんのこと、しっかり守るからここに住まわせて…」
後妻を前に、笑顔の父親を思い出し、出て行けとはいえなかったという春香さん。
「…わかりました。父をよろしくお願いします。でも、裏庭にはかわいがっていた柴犬のコロちゃんのお墓があります。梅の木がある一角だけは、はどうか触らないで…」
「わかったわ、大丈夫よ」
しかし、そんな女性の思いも粉々に打ち砕かれてしまいます。
「ハルカのお家がなくなっちゃって、私、寂しいよ~!(涙)」
地元の幼馴染から送られてきたラインをきっかけに、相続完了後、自宅はすぐに売却され、他人の手に渡ったことを知りました。しかも、近くに住む幼馴染の情報では、女性は父親から相続したお金と、家を売ったお金を持って、息子と暮らす家を建てるといっていたとのこと。
「あの家は、両親が力を合わせて買った家だったのに…」
春香さんの無念な気持ちはわかりますが、法律とはそういうもの。配偶者の法定相続分は遺産の半分であり、一度相続されたものは、相続した人の自由です。
再婚カップル、シニア婚が増えた昨今、春香さんのような思いをする人も、出てくるかもしれません。
[参考資料]
法テラス「法定相続分とは何ですか。」