相次ぐ“望まない妊娠”  緊急避妊薬の試験販売開始から半年「買いたくても買えない」高いハードル

望まない妊娠を防ぐための「緊急避妊薬」。薬局での試験販売が始まってから半年以上が経過しました。

約8割が「今後も薬局で購入したい」

全国の薬局で2000件以上購入された一方で、6月10日に公開されたアンケート結果では、購入を試みたが買えなかった人も。必要な人にとってすぐに手に入れられるような環境は、いつやってくるのでしょうか。 緊急避妊薬は、性行為から72時間以内に服用すれば、妊娠を一定程度防ぐことができる薬です。 日本では、購入するのに医師の診察や処方箋が必要ですが、2023年11月から一部の薬局で、医師の処方箋なしで購入できる試験販売が始まりました。現在、全国145の薬局で実施されています。

購入には高いハードルが

6月10日、衆議院第一議員会館で、国会議員や厚労省も参加する院内勉強会が行われました。 厚労省が報告した日本薬剤師会の調査によりますと、2023年11月~2024年1月の約2カ月間で購入された緊急避妊薬は2000件以上、東海3県では132件(愛知県97件、岐阜県12件、三重県23件)でした。 全国で購入した人の約8割が、今後も「医師に診察を受けずに、薬局で薬剤師の面談を受けてから服用したい」と回答しています。一方で、支払った費用については「やや不満」「かなり不満」の声もあがりました。 費用など、購入へのハードルの高さについては、試験販売が開始した当初から指摘されていました。 現在の販売価格は7000~9000円ほど。購入できる薬局も限られていて、全国約6万の薬局のうちわずか0.2%です。 東海3県では9カ所のみで、愛知県では名古屋市、岐阜県では中津川市、三重県では四日市市と菰野町以外にはありません。また、薬は薬剤師の目の前で飲む必要があります。

対応する薬局が限られる現状

6月10日の院内勉強会でも、「購入できる薬局が少なすぎる」「一刻も早く、試験販売から次の段階に進んでほしい」という声があがりました。 緊急避妊薬の薬局での一般販売を訴える団体「#なんでないのプロジェクト」が発表したアンケート調査によりますと、試験販売での購入を試みた10~50代の68人のうち、85%の58人が買えなかったということです。 その理由として、対応している薬局が限られていて近くにないことや、購入までの手順の多さがあげられました。 一方、薬局で購入できた10人は全員が、48時間以内に飲むことができたそうです。こうした状況から、アンケートに答えた94%が「対象薬局が増えてほしい」としています。

繰り返される乳児遺棄事件

こうしている間にも、望まない妊娠に悩む人は後を絶ちません。緊急避妊薬を手に入れやすくすることは、悲しい事件を防ぐことにも繋がるかもしれません。 5月、名古屋市中区のマンションに乳児2人を遺棄したとして、38歳の女が逮捕されました。乳児は、キッチンの下の収納スペースに置かれた段ボール箱に入れられていました。 4月には、愛知県安城市内の住宅のクローゼットから乳児の遺体が見つかり、「自分で出産した」と話す女子高校生が逮捕されています。

産婦人科医があげる3つの課題

1日3~4人ほどに緊急避妊薬を処方しているという、名古屋市千種区にある「咲江レディスクリニック」。薬局での試験販売が始まり、医師の処方箋なしで手に入るようになったことで、変化はあったのでしょうか。 「大きな変化は感じていません。中絶する患者の人数もあまり変わらないです」(咲江レディスクリニック・丹羽咲江院長) このクリニックでは、今年に入ってからの5カ月間で15人が中絶。妊娠して受診した人の5人に1人が中絶を選んだということです。 「コロナ禍が明けてから、妊娠の患者数、緊急避妊薬の処方数は増加。性的アクティビティが戻っていると考えられます。ですから今後、予期しない妊娠が増える可能性は十分あると思われます」(咲江レディスクリニック・丹羽咲江院長) 現状の緊急避妊薬のアクセスについては… 「課題が3つあります。1つ目は、値段が高く、全額自費負担であることです。生活保護や母子家庭の人など、医療補助によって無料で受けられる人にも自己負担が発生してしまい、そもそも薬を手にいれられない人もいるのではないかと思われます」 「2つ目は、産婦人科受診のハードルの高さです。例えば、街角保健室で活動していると、新生児遺棄しそうなハイリスクな人は昼間に活動していないため、病院の受診時間には活動していません。そのため、病院や薬局での緊急避妊薬の購入は24時間体制の方が望ましいと思われます」 「3つ目は、緊急避妊薬の知識がない人が多いことです。そもそも確実な避妊は低用量ピルを毎日飲むことであって、緊急避妊薬は予期しない妊娠に対する失敗の時に使うもの。パートナーがいる人は、より確実に避妊ができる低用量ピルを飲むことが常識になるよう強く望みます。新生児遺棄をする人や、中絶の間に合わない時期に受診する人というのは、緊急避妊薬や低用量ピルの知識だけでは不十分で、妊娠出産そのものについての学習が必要かと思われます。学校での性教育を、義務教育の間に受けておく必要があります」(咲江レディスクリニック・丹羽咲江院長)

若者ほど緊急避妊薬の入手は困難

妊娠に関する悩みを抱える人の相談窓口「にんしんSOS愛知」も、大きな変化は感じていないといいます。5月だけで20件の相談がきていて、多いのは「妊娠したかもしれない」「予期しない妊娠をしてしまってどうしよう」というものです。 緊急避妊薬の試験販売に関して、課題も感じているといいます。 「販売している場所(地域)が一部に偏っています。例えば、各市に1カ所で、長時間あいてる薬局があるといいと思います。また、若年が購入するには金額が高いです」(にんしんSOS愛知) 年齢の条件にも課題が。現在、薬局で購入できるのは、調査研究への参加に同意した16歳以上で、18歳未満は保護者の同意が必要です。16歳未満の場合、薬局が産婦人科などを紹介することになっています。 「産婦人科を紹介されても、親の同意が必要となる可能性は高く、若い人ほど親には言えない場合も多いです。お金もない、生活圏も狭い、知識もないので、若ければ若いほど緊急避妊薬に遠く、入手困難だと思われます」(にんしんSOS愛知) 政府は試験販売について、さらなるデータが必要だとして、2025年3月末までの延長を決めました。 今後、試験販売を実施する薬局数を増やし、販売時間帯や利用者の傾向を分析する方針です。 (メ~テレ記者 廣瀬祐美)

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