沖縄県議選、「オール沖縄」は生き残れるか

目黒博(ジャーナリスト)

目黒博のいちゃり場

【まとめ】

・沖縄で重要な県議会議員選挙が6月16日に投開票される。

・玉城知事を支える「オール沖縄」が過半数を獲得できるかが最大の注目点。

・「オール沖縄」、自民党両陣営とも問題を抱え、情勢は流動的で、勝敗の行方は見えにくい。

全国ニュースで取り上げられることは少ないが、沖縄で重要な選挙が6月16日に投開票される。県議会議員選挙だ。本土では政治資金問題で自民が追い込まれ、岸田政権が存続するかどうかが話題になっている。だが、沖縄県議選では、玉城デニー知事を支える「オール沖縄」が過半数を獲得できるかどうかが、最大の注目点だ。

現在は、県政与党の「オール沖縄」と、野党(自公と中立など)が、ともに同数の24議席を有する。世代交代が進み、激戦になっており、勝敗の行方を予測するのは難しい。

勢いを欠く「オール沖縄」は生き残れるか

もし、知事支持派が少数与党に転落すれば、人事や予算など重要施策で野党(自民、公明、維新など)に妥協を強いられる。その結果、すでに低迷する「オール沖縄」陣営は崩壊しかねない。そして、2026年の知事選で、玉城氏の3選の道筋が危うくなる可能性すらある。

そのため、同陣営も背水の陣で選挙戦を戦っているはずなのだが、司令塔不在の玉城知事派の足並みは乱れている。

知事を支えるグループの中では、共産党の組織力、情報の収集・調査能力、発信力が突出する。また、この党は陣営全体のために活動すると主張はするが、実質的には自らの党の利益を押し出すことも多く、体質は硬直している。他の政党やグループの同党に対する警戒心は強い。

さらに他の政党の状況も複雑である。沖縄では長らく革新系の中心を担ってきた社会民主党が2021年に分裂し、半分以上の党員が立憲民主党に合流した。今回の県議選では、同じ選挙区で両党が競合するケースもある。たとえば、元社民党の仲村未央県議が立憲民主党の代表に就任し、沖縄市区から出馬する。その選挙区に社民党も候補者を立て、遺恨試合の様相を帯びる。

また、かつては、社民党(旧社会党)と並んで革新系を代表する存在であったローカル政党社会大衆党は、内輪もめが続き、組織だった選挙戦ができる状況にはない。

この選挙で「オール沖縄」が少数派に転落する可能性が語られるが、その危機感をこの勢力の候補者たちがどこまで共有しているかは疑問である。社民党や立民党も含めて、「オール沖縄」系の候補者たちは、選挙戦になると、個人的な基盤の強化をひたすら目ざす傾向があり、同陣営に遠心力が働く原因となっている。

県民の主な関心は、基地問題から生活と経済へと移っている

1990年代後半以降四半世紀にわたり、普天間飛行場の辺野古崎への移設問題を中心に、基地問題が沖縄の政治の争点になってきた。特に、故翁長雄志氏が辺野古移設反対を旗印に、保革にまたがる「オール沖縄」を形成して知事に就任した(2014年)時期には、国の政策を激しく非難する声が沖縄全体を覆い、旋風を巻き起こした。だが、代替案を提示しないなど、現実的な政策を追求しなかったため、感情ベースの辺野古反対運動は沈滞し、翁長知事(当時)のもくろみは空回りする。

時間がたつにつれ、裁判での敗訴が続いたこと、政府との対決路線に耐えられなくなった保守系、経済界の関係者が脱落したことも、陣営にとってはダメージとなった。運動が後退局面に入ったとき、指導層は理念や戦略を改めて検証し、体制を立て直さなければならない。だが、「オール沖縄」は翁長前知事の逝去後、内部の対立ばかりが目立ち、混乱しがちであった。そのため、戦略の練り直しはなおざりにされたまま、ひたすら「翁長路線」の継承を唱えるだけであった。

「基地問題」という政治色の強い争点がかすみ、県民の関心は生活に向かう。折しも、故翁長氏の後を継いで玉城デニー氏が知事に就任した翌年(2019年)には、新型コロナによって、沖縄観光は大打撃を被った。沖縄では土建の下請けのほか、宿泊、飲食、土産店、タクシー、レンタカーなど中小企業が多い。コロナは彼らを直撃し、多くの県民が仕事を失った。コロナが収まった2023年以降も、経済苦境が続いている。

2022年2月に始まったウクライナ戦争と円安の影響などで、燃料価格が高騰した。島嶼県という不利な地理的条件もあって、生活物資の価格も急騰する。また、県外からの巨額の投資が続いたため、地価が上がり、高い家賃の支払いに苦しむ県民も多い。生活苦を抱える一般県民にとって、基地問題はもはや有識者や(元)教員や(元)公務員など、エリートたちの優雅な話題に見える。「オール沖縄」系の基盤が崩れていくのは自然の流れであった。

玉城知事の行政手腕が問われている

2018年に知事に就任した玉城デニー氏は、端正な顔立ちに加えて、ラジオのパーソナリティ時代に鍛えたなめらかな話術、さらには好人物との印象もあり、抜群の人気を誇る。だが、玉城知事の政策ビジョンは、「誰一人取り残さない」「平和外交」など、抽象論に終始し、具体策は明示してこなかった。

同知事の人事政策にも確固たる方針が見られず、有能な県の幹部職員を更迭するなど、迷走気味であった。政策理念が明確でないままパフォーマンスに走る、玉城氏に対する県職員の視線は冷ややかだ。県職員の士気は低下し、県庁職員の数々の不祥事が発覚し、早期退職も続出した。

▲写真 沖縄県庁舎(2022年9月12日)筆者撮影

辺野古埋め立てをめぐる裁判闘争では、本年(2024年3月)最高裁で県敗訴が確定したが、玉城知事はその結果に従わなかった。県職員は法制度に従って働くことを基本とするので、知事の行動は県職員を当惑させる。また、本年(2024年)5月24日に知事が発表した中学給食無償化の方針も、物議をかもした。

この件は、沖縄県内の市町村が中学生の給食の半額を負担する場合は、残りの半額を県が負担する、というものだ。この政策に対し、保守系の11市長が猛烈に反発した。その理由は、市町村への事前の協議が一切なかったことに加え、財政力が乏しく給食費の半額を負担できない市町村は県の支援が受けられず、結果として保護者が負担することになることだ。市長だけでなく、町村長からも苦言が出た。

知事の「唐突な」発表の裏には、共産党の動きがあったという。「オール沖縄」からは、一歩前進と評価する声もあるが、立憲民主党や社民党、社会大衆党は、組織的に賛意を公表していない。だが、日本共産党沖縄県委員会のHPや「しんぶん赤旗電子版」は、この問題をトップニュースとして扱い、「共産党県議団の提案が実る」や「共産党繰り返し要望」などと、知事に対して共産党が強く働きかけ、それが実現したことを誇らしげに述べている。

問題は、知事が給食費無償化を政治的な争点にしたことだ。地元紙『琉球新報』は、知事は選挙応援に駆け付けるたびに「『県議会で野党が議席多数を取れば、必ず自民党はこの計画をつぶしにかかる』とまで語」ったとし、県政野党(保守、中立など)への「対決姿勢を鮮明にしている」と批判的なトーンで述べた(6月6日同紙電信版)。

この知事の提言を実現するには、2025年度予算案が県議会で可決されなければならず、県議会議員選挙で「オール沖縄」が勝つことが前提となる。だが、都市部に比して一部の町村は財政的な余裕がなく、知事案は都市部に偏った政策になっている。今回の県議選では、共産党の候補者7人がいずれも都市部から立候補しており、同党を後押しする「選挙対策」との批判が保守系などから出たのは無理もない。厳しい指摘を受けて知事はこの案を修正せざるを得なくなった。

なお、玉城知事が打ち出した給食費無償化案については、県庁幹部は事前に知らされていなかったという。知事が共産党と協議して独断で決定したというのである。他の諸政党、会派関係者とはあまりコミュニケーションを取らない知事だが、共産党とは積極的に話し合いを持つと言われる。玉城氏は共産党の組織力に依存しているのであろう。

この件で、知事のプラスのイメージは大きく損なわれた、との声が保守系を中心に上がっている。行政の政治化をもたらしたからだ。共産党にとってもプラスになるかどうかは分からない。選挙戦を有利に運ぶために、知事を利用したとも考えられるためだ。財政的に苦しい町村部などを軽視したようにも見える。共産党の獲得議席数がどうなるか、を注視する人も多い。

自民党も政治資金問題を抱え、万全ではない

県議会での多数派を目ざし、攻勢をかける構えだった自民党も、「政治資金」という思わぬスキャンダルに見舞われ、逆風に直面している。本土に比べると、安部派の議員がほとんどいないこともあり、沖縄では影響は限定的という見方もある。とは言え、有権者の一部から自民党への厳しいの声も上がっており、懸念する党関係者も少なくない。

また、昨年(2023年)12月には、陸上自衛隊がうるま市に訓練場を建設する計画が報道されたが、その後、関係自治会が全会一致で反対するという事態になった。候補に挙がった場所はベッドタウンとして開発された地域であることを、自衛隊は認識しなかったようだ。反発が余りにも強く、自民党沖縄県連も反対に回ったこともあって、この計画は白紙撤回された。

この件は自民党にとって大きな失点になりかねなかったが、いち早く自民党県連が反対を表明し、沈黙していた保守系寄りと見られる中村正人市長も反対を明言するなど、瀬戸際の「危機管理」によって、ダメージは最小限に抑えられた。

自衛隊基地が沖縄県内に次々と新設され、ミサイル攻撃を想定した住民避難訓練が行われている。安全保障上の危機を前提とした体制づくりには反対意見もあるが、広がる気配はない。中国の軍拡と強硬な対外政策への漠然とした不安を感じる県民が多く、自衛隊基地拡大を容認するムードがある。

ただ、自衛隊隊員が必ずしも、沖縄県民の戦争への忌避感の根強さを、深刻にとらえていない傾向もあり、時折、自衛隊は旧日本軍と変わらないのではないか、との疑念を県民が抱くこともある。安全保障の専門家や防衛省幹部の中には、沖縄県民の微妙な歴史観に対し、自衛隊が時折無神経な態度を示すことを危惧する声もある。

自衛隊と県民との関係については、自民党の役割が重要である。もし、県民の間に反自衛隊感情が強まれば、安全保障環境にとって大きな障害となる。旧日本軍とは根本的に異なる「自衛隊」のあり方に同党が責任をもって関与する必要がある。これは、安全保障を重視する自民党や保守系にとって、大きな課題である。

トップ写真:玉城デニー沖縄県知事 @沖縄県主催「デニー知事と考える沖縄と日本の安全保障」(2023年2月8日文京シビックセンター)筆者撮影

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