つばきファクトリー 新沼希空がグループに与えた凛とした強さ OGも集結した卒業公演

新沼希空がつばきファクトリーのリーダーを務めるなど、2015年の結成時に想像していた人がどれだけいただろうか。新沼はアイドルへの強い憧れと尊敬を持つメンバーだったが、結成当初からどこか落ち着いたキャラクターで、友達同士のようにはしゃぐオリジナルメンバーを見守るような存在だった。初代リーダーの山岸理子の卒業発表の後、新沼が新リーダー就任を発表した際にはそんなキャラクターだからこその驚きの声も上がっていたが、それと同時に納得していた人も多かったように感じる。新沼が多くは語らなくともつばきファクトリーを愛し、メンバーを見守ってきたことはメンバーの眼差しを見れば明らかだからだ。『つばきファクトリー コンサートツアー 2024 春「C'mon Everybody!」新沼希空 卒業スッペシャル ~ Ready Go!Now! ~』はそんな彼女らしさでいっぱいの夢のようなステージとなっていた。

武道館のメインステージに白いふわふわの衣装を着て新沼が登場。手には魔法のステッキのようなオブジェを持ち、彼女の魔法でメンバーが続々と姿を現し位置についていく。まだ1曲も歌っていないのに、新沼らしい可愛らしくて夢の中にいるような構成のステージに期待が高まると、1曲目に歌われたのは「ハッピークラッカー」。可愛らしくて楽しい、今回の公演を象徴するような選曲だ。「愛は今、愛を求めてる」、「最上級Story」と、新沼らしい“可愛らしさ”にフォーカスしつつも、グループが持つどこか切ない雰囲気も裏に透けるような楽曲で会場の空気を自分たちだけのものにする。

MCでは新沼が「最後まで感謝の気持ちを忘れずに頑張ります」と意気込みを語り、ここからは「新沼希空卒業スッペシャルメドレー」。新沼の前に卒業を迎えた山岸・岸本ゆめのの卒業公演では、かつて2人が帯同していたBerryz工房と°C-uteの楽曲を中心に2人のアイドルの歴史を紐解くようなメドレーだったのに対し、今回の卒業メドレーは『つばきファクトリー ライブツアー2019春・爛漫 メジャーデビュー2周年スペシャル』で新沼・谷本安美・小野田紗栞・秋山眞緒と披露した「乙女 パスタに感動」(タンポポ)を小野田と、『つばきファクトリー ライブツアー 2018秋 -微熱-』で新沼・岸本・秋山と披露した「FIRST KISS」(あぁ!)を秋山と、『つばきファクトリー ライブツアー2018春「初恋」』で山岸・新沼・谷本・岸本と披露した「BE HAPPY 恋のやじろべえ」(タンポポ)といった過去の公演と縁のある楽曲を過去のライブ映像と共に披露。後輩にあたる河西結心・八木栞・福田真琳・豫風瑠乃とは「スキップ・スキップ・スキップ」、今年2月に加入したばかりの石井泉羽・村田結生・土居楓奏とは「EZPZ!!」と最新アルバム『3rd -Moment-』収録楽曲を披露し、全体的に“新沼らしさ”が溢れるキュートな雰囲気を纏いつつ、過去と現在のつばきファクトリーを網羅するような選曲になっていた。

すっかりライブの定番曲になりつつある「アドレナリン・ダメ」で客席を盛り上げると、新メンバーの石井・村田・土居がステージに残り自己紹介。新沼にとっては最後だが、3人にとっては初めての日本武道館でのパフォーマンス。それぞれ好きな花と花言葉を紹介する。石井が「椿のように凛とした美しさと強さを持った歌手になれるよう先輩の背中を追って頑張りたい」と意気込みを話し、3人で「うるわしのカメリア」を披露。この楽曲はグループ初期からの楽曲であると同時に河西・八木・福田・豫風が加入したばかりの頃も披露されていた楽曲だ。こういったグループの伝統が徐々に生まれつつあるのも、つばきファクトリーが卒業と加入を繰り返し、長く続いていくグループになったからこそ。その後も加入時期ごとにメンバーが分かれて「ふわり、恋時計」、「ハナモヨウ」と“つばき”ファクトリーならではの楽曲を披露。楽曲リリース時と歌唱メンバーが変わったとしてもグループカラーをここまで色濃く保つことができるのはメンバー一人ひとりがつばきファクトリーとしてパフォーマンスすることを大切に思う気持ちがあるからこそ。

MCでは新沼が新メンバー3人に「うるわしのカメリア」の披露した感想を聞くと、新沼が直接レクチャーをしてくれたエピソードや3人で相談して練習をすすめたエピソードが披露された。

続いて披露されたのは8月28日発売予定のシングルより「ベイビースパイダー」。これまであまりなかった大人っぽい雰囲気の楽曲だが、長く“後輩”としてグループに色を与えてきた河西・八木・福田・豫風もすっかり大人っぽい雰囲気で歌いこなし、グループの幅をより広げているように見えた。

メンバーそれぞれが新沼へのメッセージを送った映像が流れると、ステージセンターには新沼の姿が。一人ひとりが「新沼さん」「にゃんさん」「きそちゃん」「きそ」とそれぞれの言葉で語りかける姿を見ていると、新沼がグループをしっかり支え、メンバーに頼りにされていた様子を感じ取ることができる。そのまま「I Need You ~夜空の観覧車~」でいよいよ卒業を実感していると、ステージ上にはOGの山岸・小片リサ・岸本・浅倉樹々の姿が。新沼と谷本もステージに残り、披露されたのは6人で駆け抜けたインディーズ時代の楽曲「気高く咲き誇れ!」。〈花ざかりな瞬間を 泣いたり笑ったり/ぜんぶ糧となり 一瞬でほころぶものだ〉という歌詞は当時デビューしたてのアイドルが歌うにはシビアな歌詞だったが、これまでの努力を噛み締め、一つひとつの活動を糧として胸に刻んでいくように見えた。メンバー全員がステージに勢揃いで披露したのはメジャーデビュー曲「初恋サンライズ」。小片が脱退し、二度と小片と浅倉が揃って披露することはないと思われていた楽曲を、去年9月の『「ALL FOR ONE & ONE FOR ALL!」ACT II.』で小片、浅倉と共につばきファクトリーとして披露。その際は岸本が休養中で不在、さらに思わず小野田が号泣してしまう姿が印象的だったが、岸本も無事に駆けつけ、今回は全員笑顔での披露となった。

MCで新沼は駆けつけてくれた山岸・小片・岸本・浅倉に感謝を伝えると、続いては新シングルより「青春エクサバイト」を披露。「涙のヒロイン降板劇」「アタシリズム」ではスタンドマイクを使って、表情と歌声だけで楽曲の世界観を表現した。最後のパートでは「今夜だけ浮かれたかった」や「妄想だけならフリーダム」といった客席を巻き込むような定番曲が続く。ライブもいよいよ終盤、客席のコールの熱力もどんどん高くなる。「My Darling ~Do you love me?~」であたたかい雰囲気のなか本編が終了。

止まらないアンコールに応えてメンバーカラーのライトブルーのドレスで登場した新沼が歌うのは森高千里のカバーで「私がオバさんになっても」。お互いに年齢を重ねても自分のことを愛してほしいとキュートに歌う楽曲を、芸能界引退を表明している新沼が最後のソロ曲で選ぶのもなんだか彼女らしいように感じる。手紙ではメンバーに向けてのメッセージと共に「グループとしての目標としてきた、“アイドル界”の主役になるということ。どうですかね?」と問いかけるといっぱいのライトブルーのペンライトと大きな拍手で客席が応える。「幸せな時間を作ってくださりありがとうございました。一生の思い出です。みんな大好きだよ」と愛を語った。

最後に「足りないもの埋めてゆく旅」を歌うとメンバーがステージに現れ新沼を抱きしめる。それぞれが新沼への感謝を話し、「帰ろう レッツゴー!」で明るく公演を締め括った。

今回の公演は新沼にとっておそらく最後のステージとなる。それでもOGが来たMCでは「みんなお知らせとかない?」と告知を呼びかけたり、最新シングルをセットリストに入れ込んだり。自分のことだけではなく、最後の最後まで他人を引き立て、グループのために行動する新沼の人柄が表れた公演になっていた。どこまでも他人のために動くことは彼女なりの“強さ”で、その強さはグループ全体に影響していたように感じる。そういう面で、どんどん変化していくグループのなかでも変わらない軸を作り上げたかけがえのない1人だ。つばきファクトリーは新沼が残した強さを手に、変わらないものを大切にしながらどんどん進化し歩いていく。

(文=佐々木翠)

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