“出生時664g”小さくても焦らず…「リトルベビー」を育てた母親たちの声生かし「低出生体重児」のための母子手帳

もう一つの母子手帳。早産などで小さく生まれた赤ちゃんのための手帳、「リトルベビーハンドブック」の配布が長野県内でも始まった。「小さくても焦らず、その子のペースで」。リトルベビーを育てた母親たちの声が生かされている。

(※外部配信先では動画を閲覧できない場合があります。その際はFNNプライムオンライン内でお読みください)

体重664gで出生

5月1日、長野県県立こども病院(安曇野市)

「ハッピー バースデー トゥー ユー~」

家族や病院のスタッフにお祝いされてごきげんな高橋吟糸(ういと)ちゃん。

4月、1歳になった。

「吟糸」の由来はー

母・高橋由里絵さん(伊那市在住):
「小さく生まれたっていうのもあるので、本当にゆっくりゆっくり、糸をつむぐような感じで育ってほしいなと」

切迫早産のため、妊娠24週で生まれた吟糸ちゃん。体重は664gだった。

自力での呼吸が困難で、今もこども病院で医療的ケアを受けており両親は交代で、毎日伊那市から通っている。

2人のお兄ちゃん(5・3歳)はこの日が初めての対面。

抱っこに挑戦ー

母・高橋由里絵さん:
「お尻重い、どう?」

兄:
「…(照笑い)」

母:
「うれしい?」

兄:
「うん」

母:
「やっと会えたね」

1年で体重は7kgに 着実に成長

体重は1年で10倍以上の7キロに増え、最近は、寝返りに挑戦するなど、着実に成長している。

母・高橋由里絵さん:
「毎日毎日いろんな処置がある中で、頑張ってるね」

父・竜也さん:
「最初の方はかなり不安とか悩むことも多かったですけど、自分たちもすごく成長させてもらったなと感じますね」

出生時964g こども病院でケア

一方、こちらは2歳の栗木智矢ちゃん。

母・栗木沙織さん(上田市在住):
「すごくやんちゃで困っています。体重がずっと追いつかなくて、そこだけはまだ心配かな」

智矢ちゃんも出生時は964gで2カ月、こども病院でケアを受けた。

智矢ちゃん(2):
「おいしー」

今はすくすく成長している。

「低出生体重児」のための手帳

高橋さんと栗木さんは、小さく生まれた子どもを持つ親のサークル「ひめりんごの会」の共同代表。

この春、2人に朗報があった。2023年から県に要望してきた、ある「手帳」の配布が始まったのだ。

高橋由里絵さん:
「本物?おおー」

栗木沙織さん:
「カラーでイラストもいっぱいあって見やすいなって」

「ながの リトルベビーハンドブック たいせつなきみ」。

2500g以下で生まれた「低出生体重児」のための手帳だ。

長野県 保健疾病対策課・嶋田マユミさん:
「お母さんたちが不安だったり、落ち込んでしまったりする部分の精神的なフォローが目的。ゆっくりですが、必ず成長していくので、子どもの成長を実感できる手帳として使ってほしい」

リトルベビーを育てた母親たちの声

県内の新生児は年間1万2000人余り。このうち低出生体重児は全体の約9%で、全国もほぼ同じ状況だ。

高橋さんや栗木さんのケースのような1500g未満の「極低出生体重児」も一定数いる。

手帳はこうした子どもを持つ親に配布され、従来の母子手帳に加え活用してもらう。

中心になって要望してきた栗木さん。自身の経験が行動のきっかけだった。

栗木さんは30歳で第1子を妊娠した。妊娠8カ月の時に切迫早産で入院。

羊水が少ないことがわかり、緊急帝王切開に。智矢ちゃんは31週で生まれたのだ。

当時の母子手帳にはー。

(当時の母子手帳)
「すごく小さく生まれてきて、本当に不安だし産声がなくて怖かった。ごめんね。生まれてきてくれてありがとう。大変だけど、一緒に頑張って大きくなろうね」

最初の「授乳」は、母乳を含ませた綿棒で。毎日、母乳を届け、コロナ禍で面会が制限される中、成長を見守ってきた。

栗木沙織さん:
「自分が退院先にしちゃうのが、申し訳なくて、なんかちょっと悲しくて。最初の方は、なんかちょっとノイローゼ気味というか」

2カ月ほどで智矢ちゃんは2700グラムほどになり退院したが、その後も育児への不安は尽きなかった。

母子手帳の成長の記録は、途中で止まってしまう。

栗木沙織さん:
「体重も、(発育曲線の)範囲外から始まってるので、途中まで書いていたんですけど、なんかもういいやって、なっちゃって。『初めてお座りをした日は何月何日』みたいな記入欄があって、覚えてない。記録してあげられなかったなっていうのは(涙)」

こども病院の医師と看護師が監修

不安や悩みを抱え、SNSなどで情報を探っていると、全国で「リトルベビーハンドブック」の導入が進んでいることを知る。

長野県にはなかったため、サークルを立ち上げ要望することにしたのだ。

栗木沙織さん:
「母子手帳だと書けないこととか、手帳を開きたくない時もたくさんあるんですけど、その子のスピードに合わせた成長を記録して、よりどころみたいになってほしいな」

手帳は子どもの成長に、家族がどう関わればよいか、リトルベビーの親目線で作られている。

NICY(新生児集中治療室)での過ごし方をはじめ、低出生体重児によくある「鉄欠乏性貧血」や「便秘」の悩みへのアドバイスも。

監修したのは、こども病院の医師と看護師。

長野県立こども病院 副院長・広間武彦医師:
「(ハンドブックがあれば)ご家族として過ごしていただく形で自信がつきますし、赤ちゃんが退院した後も、そこにつなげられる」

「成長の記録」は、栗木さんが要望したように体重0gからスタート。

「育児の記録」も指標はなく、成長に応じて書き込む。

長野県立こども病院・深尾有紀 看護師長:
「母子手帳だとどうしても『何カ月目で何ができる』というような表現のされ方が多い。今回は『何カ月で何ができた』っていう形。正解があるわけではないので、そのお子さんにとっての初めて記念日が積み重なるといいな」

小さく生まれても焦らず

先輩ママや小さく生まれた当事者からのメッセージも。

長野県立こども病院 副院長・広間武彦医師:
「家族にとって安心材料になる、大事な記録になる。そんな形になってほしいと思って作成。そもそも妊娠・出産・子育ては楽しいことですので」

SNSを通じて栗木さんと出会った高橋さん。ハンドブックを広めつつ自身の経験も伝えて、同じ境遇の家族の力になりたいと考えている。

ひめりんごの会・高橋由里絵さん:
「産科の主治医が『NICUにいる子たちは、かわいそうな姿じゃなくて頑張ってる姿なんですよ』って、それが今すごくわかって。経験だけで終わらせずに、私も生まれた息子も、この子たちも経験を伝えていくのが使命というと大きいですけど、そう思いながら過ごしています」

ひめりんごの会・栗木沙織さん:
「とにかく大変だったんだよっていうのと、大変だけど、こんなに元気に大きく君はなったんだよと。(智也ちゃんには)もう大丈夫だよ、何かあっても乗り越えられるよって伝えたいですね」

小さく生まれても、焦らず、その子のペースで。

リトルベビーハンドブックは県内10カ所の周産期医療施設で配布している。

(長野放送)

© FNNプライムオンライン