「マルチシリンダー エンジン」の灯は消えない!大排気量プレミアムユニットのヴィンテージイヤーは、これからやってくる!?

エネルギーや環境問題が取り沙汰されて、一時期は絶滅危惧種かと思われていた乗用車のマルチシリンダー エンジンだが、スーパースポーツカー メーカーを中心に新たなムーブメントが起きつつある。ここでは、注目のモデルを中心にマルチシリンダー エンジンについて考察してみたい。

いつの間にかフェードアウトした、V10エンジン

V10エンジンを搭載した最後の市販車となりそうな、ランボルギーニ ウラカン。後継モデルはV8ハイブリッドを搭載する予定だ。

マルチシリンダー、つまり多気筒という意味だから、極端にいえば単気筒以外のエンジンはマルチシリンダーということになる。ここでは、8気筒よりも気筒数の多いエンジンと定義しておこう。マルチシリンダーではV型もしくは水平対向のエンジン形式(かつては直列8気筒以上のものもあったが)となるため、シリンダー数は偶数となる。奇数では などがあるが、それはまた別の機会で紹介しよう。

V10エンジンといえば、1990年代に、ホンダやルノーのF1エンジンで注目を浴びたが、その後、レクサス LFA、ダッジ バイパー、BMW M5/M6、アウディ R8、ランボルギーニ ガヤルド/ウラカンといったスーパースポーツカーにこぞって採用された。V12よりは軽量小型ながらV8以上のパワーを発生するというメリットがあった。

だが、V12ほどではないもののスペースや重量はかさむし、ターボやハイブリッドといったテクノロジーの進化により、V8や直6エンジンでも過給器やモーターのアシストでV10以上のパフォーマンスを発揮し、しかも燃費も良くなったことから、次第にフェードアウトしていった。いまや、唯一のV10搭載市販車となったランボルギーニ ウラカンだが、間もなく登場する次期モデルではV8+モーターのハイブリッドを採用する予定だ。

フラッグシップ サルーンでもV12搭載車は減りつつある

日本車では唯一のV12エンジン搭載乗用車となった、2代目トヨタ センチュリー。

アンチ マルチシリンダー?のウエーブはV12エンジンにも及んでいる。かつて、V12エンジンをラインナップしていることは、そのメーカーの優れた技術の証しであり、ステータスでもあった。ヨーロッパのスーパースポーツカー メーカーはもちろん、プレミアム ブランドもフラッグシップにはV12エンジン搭載車を擁していた。トヨタも2代目のセンチュリーは国産乗用車では唯一のV12エンジンを搭載していた。

だが、21世紀も4分の1近くを過ぎようとしている現在、環境問題における燃費性能が重要視されていることから、V12搭載車は減りつつある。とくにプレミアム ブランドでは、BMWグループはロールス・ロイス車にはV12搭載車があるが、BMWは7シリーズでも直6ハイブリッドやEVが主流となった。メルセデス・ベンツとマイバッハには、まだV12搭載車が残っているが、次期モデルでは存続が微妙なところだ。

それでも、スーパースポーツカー メーカーたちはマルチシリンダー エンジンの灯を消すまいと、新たなテクノロジーも採用してチャレンジを続けている。そんな彼らの最新情報を紹介していこう。

ランボルギーニ レヴエルト

エンジン単体でも825hpと725Nmを発生する、レヴエルトの6.5L 自然吸気V12エンジン。

2023年にアヴェンタドールの後継モデルとして登場した 。歴代のフラッグシップモデルと同様、V12エンジンをミッドシップ搭載するが、3基のモーターと組み合わされたプラグインハイブリッド システムをランボルギーニのカタログモデルでは初採用した。

エンジン単体でも825hpと725Nmを発生する6.5Lの自然吸気V12エンジンだが、モーターとの組み合わせでシステム最高出力は1015hp、0→100km/h加速は2.5秒、そして最高速度は350km/h以上。モーターのみでのEV走行も可能で、このときの全体的なCO2排出量はアヴェンタドール ウルティマエよりも30%低く抑えられている。

ウルティマエは、まさにランボルギーニの謳う「HPEV(ハイパフォーマンスEV)」にふさわしいフラッグシップとなった。2024年には全モデルを電動化(フルEVという意味ではない)、2025年にはCO2排出量を50%削減、さらに2030年には80%以上の削減を目指している。

フェラーリ ドーディチ チリンドリ

ドーディチ チリンドリのフロントボンネットは前ヒンジで開き、美しいV12エンジンを見やすくしている。

2024年5月にワールドプレミアされ、6月には早くも日本で公開されたフェラーリの新たなフラッグシップ、 。イタリア語で「12気筒」を示す言葉をそのまま車名にするほど、フェラーリは12気筒エンジンにこだわっている。

それもそのはず、エンツォ・フェラーリが「すべては12気筒から始まった」と語ったように、フェラーリの歴史はV12エンジンの歴史でもある。1947年の創業時、最初に世に出たフェラーリのエンジンはV12だったし、日本では1960年代に「275GTB」がV12エンジンを搭載したフェラーリとして、初めて正規輸入されている。

しかも、ターボやモーターなどのアシストに頼らず、自然吸気でのパフォーマンスとサウンドを追求している。ドーディチ チリンドリのV12エンジンも従来のものを進化させ、最高出力は830ps、しかも最高回転数は9500rpmに引き上げ、それでいながら最大トルクの80%を2500から発揮する。

新たな排気システムは最新の排出ガス規制に準拠し、大径タイヤ8速DCTの採用で加速性能や高速での航続距離を向上させている。もはやフェラーリといえども、環境や燃費を無視したクルマ作りは、ありえないのだ。

アストンマーティン 新型ヴァンキッシュ

現在公開されている画像は、このエンジンカバーのアップのみ。

イギリスのスーパースポーツカー メーカーであるアストンマーティンも、V12エンジンにこだわりを見せるメーカーだ。最近では、 や にはメルセデスAMG由来のV8ツインターボを搭載しているが、2024年後半に発表予定のヴァンキッシュには、新開発のV12エンジンを搭載するという。

従来のV12エンジン(DBSでは5.2Lだった)のシリンダーブロックの強化、シリンダーヘッドの再設計、カムシャフトの形状変更といった改良を加え、排気量は未発表だが、ツインターボを装着し最高出力は835ps、最大トルクは1000Nmを発生。すでにヨーロッパではプロトタイプがテストコースを走行するシーンもスクープされている。

なお以下の動画で、エンジン単体とサウンドを、観て、聞くことができる。

ブガッティ 新型ハイパーカーはV16ハイブリッドを搭載

ブガッティのティザーサイトで公開されている、フロント部分のアップ。

フォルクスワーゲン グループのベントレーは、狭角V6エンジンを二つ合わせたW12エンジンをコンチネンタルGTなどに搭載していたが、2024年4月でW12の生産を終了。コンチネンタルGTの次期モデルからはV8エンジンにモーターを組み合わせた を搭載する。

同じフォルクスワーゲン グループのブガッティも、W16エンジン(こちらは狭角V8を二つ合わせた)を搭載したシロンの生産を終了。だが彼らは、その後継モデルとなるハイパーカー(車名は未発表)には、なんとV型16気筒!のエンジン(タイトル画像)に3基のモーターを組み合わせたハイブリッド システムを搭載するという。

詳細に関しては未発表だが、タイプ57 SCアトランティークやタイプ41ロワイヤル、そしてタイプ35といったクラシック ブガッティからインスパイアされ、美しさ、豪華さ、そしてパフォーマンスを軸にゼロから設計されている。新しいブガッティの時代を開くハイパーカーの発表は6月20日。それまでは下の動画からV16エンジンのアップとサウンドを確認しておこう。(文:篠原 政明)

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