【米大統領選2024】 バイデン大統領にとって息子の有罪評決は何を意味するのか

アンソニー・ザーカー北米担当編集委員

ジョー・バイデン米大統領の次男ハンター・バイデン氏が11日、拳銃の免許申請時に薬物使用について虚偽の申告をしたとして有罪評決を受けた。父親のバイデン大統領は個人として、壊滅的な打撃を受けることだろう。

現大統領は長男ボー氏を脳腫瘍で失うなど、個人的な悲劇やトラウマに見舞われてきた結束の固い一家の家長でもある。

そして今度は、生存している息子が、長期の禁錮刑を科される可能性のある3件の連邦法違反の罪で有罪評決を受けた。

ただ、ハンター氏の有罪評決が、11月の米大統領選における国民の投票に影響を与える可能性は低い。

投票用紙に載るのはハンター氏ではなく父親の名前だ。

大統領と息子の犯罪を結びつける証拠はない。国民がこの裁判を注視していることを示す証拠もほとんどない。

評決が出された後、大統領は声明を発表し、自分には二重の責務があると示唆した。

「私は大統領だ、だが父親でもある」と。

そして、息子を支え続けていくとし、今日の息子の姿を誇りに思っていると付け加えた。

裁判が始まった当初、バイデン氏は裁判手続きについてはコメントしないと述べていた。しかし、息子の裁判をめぐるドラマは、公務を遂行しつつ大統領選での再選に向けて選挙活動を行うバイデン氏に何週間もつきまとった。ハンター氏の量刑がまだ決まっていないことも同様に、今月末の重要な大統領選討論会への準備を進めるバイデン氏の気を散らすかもしれない。

「当然、大統領にとっては個人的に気が散る要因になるだろう。どんな父親にとってもそうであるように」と、マイケル・ラローザ氏は指摘する。ラローザ氏は、バイデン政権の最初の2年間、バイデン氏の妻ジル氏の報道官を務めた人物だ。「大統領としての職務を妨げるものではないが、一家の精神的負担になることは間違いない」。

トランプ氏と対照的な対応

先週、第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦から80年を記念する式典に出席するためフランスを訪れたバイデン氏は、息子に恩赦を与えるために大統領権限を行使することは検討していないと述べた。さらに、陪審員の評決を受け入れるつもりだと付け加えた。この対応は、ドナルド・トランプ前大統領とは対照的だ。トランプ前大統領は先月、「不倫口止め料」の支払いをめぐり業務記録に虚偽記載をしたとして罪に問われた裁判で、34件の罪状すべてについて有罪評決を受けたが、不正かつ腐敗したものだと評決を一蹴している。

ハンター氏の評決に対するトランプ前大統領の反応も、バイデン氏とは著しく異なるものだった。前大統領は自身の選挙陣営が発表した声明の中で、ハンター氏の裁判はバイデン一家が犯したより重大な犯罪から「目をそらすものでしかない」と述べた。

多くの共和党議員も同じ主張を繰り返した。同党のナンシー・メイス下院議員は、評決は「公正のベール」にすぎないとした。

ハンター氏をめぐっては、有罪を認める代わりに罪状を軽減する司法取引の交渉が進んでいたが、昨年7月に決裂している。

これには「有力者に有利な」司法取引だとの批判の声があがっていた。ハンター氏の裁判が前進したのは、連邦判事がこの司法取引を却下したからにすぎないと、ほかの共和党議員は指摘した。

大統領選への影響は

トランプ前大統領の裁判は最初から最後まで、党派間の乱闘と化した。共和党員はトランプ氏を支持し、裁判手続きを非難した。一方でハンター氏の有罪評決はまた違う雰囲気だった。この評決は、波乱に直面してきたバイデン一家の暗たんたる歴史の最たるものだった。

ハンター氏は兄ボー氏が脳腫瘍で亡くなったのと前後して、薬物使用に走った。裁判では、ハンター氏の回顧録の抜粋、ハンター氏のテキストメッセージや電子メールの内容、写真、ハンター氏に近しい人々の証言を通して、同氏の薬物中毒との闘いや、それが家族関係に与えた損失が、痛みを伴う詳細なかたちで示された。

その間中、ファーストレディーで継母のジル氏や妻メリッサ・コーエン・バイデン氏らハンター氏の友人や家族が、ハンター氏の後方に着席し、見守っていた。裁判の休憩時間にハンター氏を抱きしめたり、手を握ったりすることもあった。異母妹のアシュリー氏は、弁護人の最終弁論で涙を流した。

「ジルと私はハンターと私たちの家族のために、常に愛とサポートを持って寄り添っていく」と、バイデン大統領は評決後の声明で述べた。「これは、何一つ変わることはない」。

検察側は最終弁論で、提出された証拠はいまわしい、個人的なものだったとした。また、精神的に打ちのめすような性質のものだったが、ハンター氏が拳銃申請のための連邦政府の身元調査申告書に記入する際、意図的にうそをつき、薬物を使用していないと申告したことを示すために必要だったとも述べた。

最終的に、陪審員は全員一致で有罪を支持した。

バイデン氏と最初の妻の間に生まれた子供の中で唯一生きているハンター氏は、禁錮刑を科せられる可能性がある。バイデン氏の最初の妻と幼い娘は50年以上前に交通事故で亡くなった。

ハンター氏は量刑の言い渡しを待っているところだが、これが決まったとしても同氏の法的問題が終わるわけではない。同氏は脱税をめぐる罪でも起訴されている。

起訴状によると、2016~2019年に少なくとも140万ドル(約2億円)の連邦税を逃れようと画策したとされる。この裁判の公判は、大統領選まで2カ月を切るタイミングの、9月に予定されている。

今回のデラウェア州での法廷でのように生々しい感情は生じないかもしれない。それでも、大統領にとってはより政治的な損害を与える可能性はある。ハンター氏は、海外ビジネスやバイデン氏との金銭的つながりをめぐり、バイデン氏を非難する共和党員から継続的に監視の目を向けられている。

薬物中毒は多くのアメリカ人の人生に影響を及ぼしている。

一方で、金銭をめぐる不正や税金詐欺の疑惑は、有権者の同情を集めることはないかもしれない。

(英語記事 What son's conviction means for President Biden

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