「だるくて箸も持てない」コロナ後遺症に苦しみ続ける人たち 無理解と先行きの見えない不安…症状悪化の“反動”も

新型コロナウイルスの5類移行から1年がたち、社会には日常が戻った。その陰で、いまもコロナの爪痕に苦しむ人たちがいる。「コロナ後遺症」の症状は、周囲から見えない。
無理解に苛(さいな)まれながら、時間が過ぎていく…不安と葛藤を抱える患者を取材した。

仕事は退職 妻の扶養家族に

富山市に住む西山あつしさん(仮名・30歳)は、2年前からコロナ後遺症に苛まれている。西山さんの1日はストレッチから始まる。体は動かさず、ただ呼吸を整えるだけ。これを毎朝1時間以上欠かさず行っている。

帰宅した西山さんの妻が「調子よかった?」と尋ねると、西山さんは「3時くらいまで、やばかった」と答えた。

感染力が強いオミクロン株がまん延していた第6波。2022年3月、西山さんは新型コロナに感染した。それから2年以上、頭痛や倦怠(けんたい)感、記憶力が低下するブレインフォグなど、様々な症状に苦しみ続けている。外出もままならず、自宅での生活がほとんどだ。

西山さんに症状について聞くと「頭がんがんするので、痛みが少しある。痛みは耐えられるが、だるさが一番めんどくさい。だるいと耐えようがないので」と話した。

製造会社に勤めていた西山さんは、1年半以上仕事を休み続けた上、退職した。今は医療関係の現場に勤める妻の扶養家族になった。

「誰も理解してくれない」

後遺症を発症してから半年。症状をさらに悪化させた出来事があった。新型コロナのワクチン接種だ。

ワクチン接種後は38度の熱が数日続き、2週間程度、寝ても起きても頭痛が続き、どんな痛み止めを飲んでも効かなかったという。しかし世の中ではワクチンが推奨されているので、問題ないと判断したという。その後も症状は改善しなかった。
西山さんは「今考えれば打ちたくなかった」と後悔を口にした。

ある日、西山さん夫婦は週に1回の買い物に出かけた。買い物の際は西山さんに食事制限があるため、成分をよく見ていると話す妻。また、体に負担がかからないよう、重たい荷物は妻が持つようにしている。

コロナ禍の2021年の秋に2人は結婚。後遺症の症状が出る4カ月前だった。
それから、新婚生活のほとんどを家で送っている。

周囲から「働けばいいのに」「内職でもすればいいのに」と、よく言われると話す妻。
それに対し、「誰も理解してくれないと思う。仕事させればと言われるが、本人もそんな気持ちでしょと思いながら聞いている」という。

自死率が高い疾患

東京・渋谷に後遺症の専門外来を開く医院「ヒラハタクリニック」がある。この4年で7000人以上の患者が訪れた。

クリニックを訪れていたコロナ後遺症患者に話を聞くと、「だるくて箸も持てない。ずっと寝てなきゃつらい。まぬけではなく本当につらい(2年以上後遺症の症状がある男子高校生)」「見た目が元気そうと言われると、逆に落ち込んでしまう。すごく無理してこの状態をたもっているのが伝わりづらい(3年以上後遺症の症状がある50代女性)」と、症状への理解を訴えた。

院長の平畑医師は、7割近くの後遺症患者が休職や退職に追い込まれる実態を見てきた。

平畑院長は「周囲の無理解や今後の見通しの立たなさで悲観して亡くなってしまう。自ら死を選んでしまう。(当院では)コロナ後遺症、そのものの症状で亡くなる人はいないが、自死は少なくても3人。自死率が高い疾患」と説明する。

今、西山さんも平畑医師の診療をオンラインで受けている。

オンライン診療の様子:
西山さん「料理を5~10分しているだけで汗かいてきて、頭くらくらしてきて」
平畑院長「低血糖。(後遺症患者は)膵臓が弱い人が多い。その時はラムネ食べたら治ります」

平畑院長は「結局、アドバイスするだけで治すのは本人。運動も適切にすると改善するがやりすぎると悪くなる。やらなかったら治らない」と治療の難しさについて語った。

診療から2日後、処方された薬が西山さんの元に届いた。また、手元にはオンライン診療でアドバイスされたラムネも。「言われたものは全部試す」と西山さんは話した。

症状悪化…重い“反動”

ゴールデンウィークの1週間後。西山さんは、妻と1年ぶりに日帰り旅行に出掛けた。

向かったのは石川・金沢市で開かれた、珍しい多肉植物を集めたイベントだ。この2年間で新しい趣味となった。

その翌日に西山さんを訪ねると…。

2年前からコロナ後遺症・西山あつしさん(仮名):
調子悪くて寝てました

日帰り旅行の翌日、症状はこれまでになく悪化していた。
「調子を整えて会いたい友達に会うとか、行きたいイベントのためには、症状に反動がある。悪化する可能性があることを考慮して、それがないと生きている感覚がない」と、自らの今の状態について話した。

普通の生活を求めると起こる「反動」。先の見えない生活が続いている。
国は後遺症の症状を周知させようと、医療機関や企業向けのガイドラインを作成しているが、社会での理解は進んでいないのが実態となっている。

(富山テレビ)

© FNNプライムオンライン