イッセー尾形、12年ぶりの札幌公演! 「思いの丈をぶつけます」

イッセー尾形の一人芝居「イッセー尾形の右往沙翁(さおう)劇場 in 札幌」が、8月10・11日に共済ホール(北海道札幌市中央区北4条西1丁目1 共済ビル6F)で上演される。主催はイッセー尾形事務所、HTB北海道テレビ放送。日本における一人芝居の第一人者、イッセー尾形にとって12年ぶりとなる札幌公演。イッセー尾形にインタビューし、公演への意気込みやライフワークといえる一人芝居への思いについて聞いた。

──「なかなか津軽海峡を越えることが難しく、やっと今回たどり着いた」とコメントされていますが、札幌公演は実に12年ぶりです。お気持ちをお聞かせください。

「北海道に到着した時、大自然が目に飛び込んできました。札幌ではヒツジが出迎えてくれて(笑)。札幌は現代的な街ですけれど、大自然の中で現代人をやるんだな、という感覚です。札幌は、以前は公演地の一つに過ぎませんでしたが、ここでネタをやる意味について、深く考えています」

── 札幌へは1990年代から年1~2回公演に来たり、ワークショップも行うなどされてきました。何か印象的なエピソードはありますか。

「思い出すのは、あるご高齢の女性客のこと。『我思う、ゆえに我あり』という哲学者・デカルトの言葉をもじった私のセリフ『明日がある、ゆえに我あり』を繰り返し、『あれが刺さりました』と言われました。彼女の感想を聞き、そうやって時間は過ぎていくんだなぁ…と、しみじみ感じたものです。12年といえば、ひと昔以上前ですから、『もう一度観たい』『まだ、やっていたのか!』と言うお客さまたちと“再会”したいですね」

── 久しぶりの公演を楽しみにされている方も多いと思います。

「それと、新しいお客さまにも会いたい。『どんなものかうわさには聞いていたが…』という方々ですね。爆笑ネタがあるんですよ、自分で言うのも何ですが(笑)。札幌公演ではそれらをピックアップしようと考えています」

── 日本各地や海外と比べて、北海道・札幌のお客様の反応はいかがですか?

「おおらかですね。基本的に何でも受け止めてくれます。“どんといらっしゃい!”みたいな」

── そうですか! なぜなのでしょう。

「そういう人生が、皆さんにあるからだろうと思います。懐が深いので、どれだけネタを繰り出しても、きちんと受け止めてくれる。そういう印象を持っています」

── ありがとうございます。先ほど「札幌公演の意味について深く考えている」とおっしゃっていましたが、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。

「“再会する”というのは大きいと思うんです。フリー(※事務所から独立)になって12年間の中からピックアップしたものをお見せするということは、その反応次第で、この12年が無駄だったのかどうかが分かる…!? トップのネタの食い付きが良くなかったら、えらいことになりますよ(笑)」

── 観客も責任重大ですね(笑)。40年以上にわたり一人芝居をされてきたイッセーさんでも緊張されますか。

「歳を重ねるにつれ図太くなったのか、緊張はそれほどしなくなりました。ただ、12年ぶりとはいえ、舞台上でやることはいつだって同じ。このギャップ、言葉と実態のギャップには慣れていません。実は昨日夢を見ました。『歌ネタがあるのに、ギターを忘れた! やばい、どうするんだ!』というところで、目が覚めたんです」

── 大変な夢でしたね! 公演日まで1カ月以上ありますので、安心してください(笑)

「そうですよね。8月の札幌は暑いでしょうね。札幌には20年ほど公演で通ったのですが、最初は冬で、パウダースノーに驚きました。年2回となって初夏の6月に来てみると、白いフワフワしたもの(※ポプラの綿毛)が飛んでいて、東京では見られない光景が珍しかったのを覚えています。当時の会場『かでる2・7』のそばにある北大植物園には、よくお世話になりました。本番前、あの広い空間で1人になって木々と対話して…。あと、道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)も印象に残っています。モネの作品のような見事な池がありますね。今回も行けたらいいなと思います」

── 市井の人を観察し、一人芝居として体現されるイッセーさんにとって、北海道という土地はインスピレーションを与えますか?

「釧路を舞台にしたネタがあるんです。地元のバーに飛び込んでママになった女性の“没落と再生”をテーマにしたネタです。今質問されて、それが真っ先に思い浮かびました」

── 2024年から新たに掲げられた公演タイトル「右往沙翁劇場」に込めた思いをお聞かせください。

「フリーになって活動規模を縮小し、『何をやろうかな』と思った時、実は現代人が目に飛び込んでこなくなったんです。それで、夏目漱石の小説世界に登場する脇役にスポットを当てた一人芝居を『妄ソーセキ劇場』と題して公演しました。その後、近代文学から現代に乗り込めるんじゃないか、とネタを作り始めたんです。いわば、60歳から“第二の人生”ですね。『妄ソーセキ劇場』を考えてくださった元朝日新聞社の今村修さんが、今回のタイトルも名付けてくれました。先日、シェークスピアの戯曲を題材にした短編小説集『シェークスピア・カバーズ』を上梓したのですが、『沙翁』といえばシェークスピアのこと。表面よりはもう少し深いぞ、というイメージでしょうか」

── 4月の大阪公演では新作を8本披露されました。

「大阪も久しぶりでした。反応が厳しいんですよ、大阪は。ツボにハマるかハマらないか、取捨選択がある。今回もありましたね。『あれはあかんで』みたいな(苦笑)」

── そうした反応を踏まえての札幌公演となるのでしょうか。

「札幌は、この12年間の“自己証明”と言ったら大げさかもしれませんけれど、12年分の思いの丈をぶつけたい。私は、時事ネタは極力避けているんです。どの時代にも通用するネタがあるはずだ、という信念があるものですから。そうした集積となる札幌公演に『古い』『新しい』はありません。自分にとって、この12年間が無駄じゃなかったと思いたいです」

── 公演ネタは、いつお決めになるのですか。

「4、5本は決まっているのですが、トップに何を持ってくるかが悩みどころ。定番ネタの一方、『そう来たか!』というネタもあり。本番1週間前には決める予定です。悩んでいる今が、一番楽しい時期です」

── 札幌公演を楽しみにされている方々へメッセージをお願いします。

「お久しぶりです、札幌。12年間の思いの丈をぶつけます。お互い、いい歳でしょうから(笑)。…肯定しましょう、自分の人生を。『これで良かったんだ』みたいな気分になりたいですね」

公演は8月10日午後6:30開演、11日午後3:00開演の2ステージ。料金は5500円(全席指定、未就学児入場不可)。チケットの購入方法など、詳細は公式サイトに掲載中。

【プロフィール】

イッセー尾形(いっせー おがた)
1952年2月22日生まれ。福岡出身。A型。1971年演劇活動を始める。一人芝居の舞台をはじめ、映画、ドラマ、ラジオ、ナレーション、CMなど幅広く活動。 2012年の独立を契機に新たな活動も展開中。近年の主な出演作にNHK大河ドラマ「どうする家康」(23年)、22年のドラマ「PICU 小児集中治療室」(フジテレビ系)「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」(TBS系)など。

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