森保監督が与えた「オモチャ」と中村敬斗の「進化」、代表で「一番」のプレー、三笘薫との「W起用」【日本代表「W杯2次予選」と「最終予選」の激論】(1)

サッカー日本代表で日々、存在感を増している中村敬斗。撮影/原壮史(Sony α1使用)

サッカー日本代表の6月シリーズが終了した。2026年北中米W杯アジア2次予選を戦い、ミャンマー代表とシリア代表を相手に、2試合とも5-0で大勝した。この2試合を戦う前から、次のステージである最終(3次)予選への首位通過はほぼ決まっており、ある意味、消化試合ともいえる状況下で、森保ジャパンは何をつかんだのか。9月に控える最終予選への課題、台頭する新戦力の存在なども含め、ベテランのサッカージャーナリスト大住良之と後藤健生が語り合った。

■チーム力が違うから「完勝しても当然」

――2試合とも5-0という大勝でしたが、サムライブルーにとって、充実の6月シリーズになったのでしょうか。

後藤「日本とはそもそもチーム力が違う相手だから、完勝しても当然、という話だけどね」

大住「森保一監督はうまくやったな、というのが僕の感想。言ってみれば、首位通過までほぼ確定している状況での消化試合だったわけだよね。一方で、ワールドカップ最終予選前、日本代表として最後の活動だった。そう考えると、あらためて考え方を統一するなど、最終予選に向けての準備にもしなければいけなかった。でも、やはり人間だから、長かったシーズンの疲れもあるし、消化試合は気が緩むものなんだよね。そこで森保監督は、3バックの採用や冨安健洋のサイドバック起用など、選手たちが“なんだろう?”と考えて、前向きに取り組めるような課題を突きつけた。それが、2試合ともの大勝につながったと思うんだよね」

後藤「新しいことをやるにしても、今までやったことがないメンバーばかりで試したことがないことに挑戦しても意味はないけど、これまでの積み上げと目新しさのバランスが非常に良かった。継続性を出しながら新しいものを加味して、シリア戦では後半から4バックに移行したりと、いろいろなことをやっていた」

大住「森保監督はシリア戦後、選手がしっかりしているから自分は何もしていないと言っていたけど、そんなことはない。シリア戦の後半を見れば分かるよね。さすがに緩みが出てきてしまった」

後藤「それはしょうがないよ」

■選手たちが目を輝かせた「攻撃的3バック」

大住「疲れているし、3点差がついた。そうなると、確かに緩んでもしょうがない面はあるけど、2試合合計180分間をそういう状況にしなかったからこそ、森保監督はうまくやったな、と思ったんだよ。どうやったら皆が意欲的に取り組んでくれるんだろうかと考えて、攻撃的な3バックに挑戦させたら、新しいオモチャを与えられた子どものように、選手たちが目を輝かせて課題に取り組んだ」

後藤「この6月シリーズでは、選手たちが急いでヨーロッパから帰ってきて、帰国2日後に試合をするような状況じゃなかったから、ちゃんとした準備もできた、実は貴重な機会だったんだよね。それと同時に、消化試合であることは確かで、ヨーロッパの選手たちは1シーズンを戦い終えた後で疲労をためていて、コンディションの難しさがあった。その両面がある中で、うまくマネジメントしましたね」

――3バックはどう評価しますか。

大住「後藤さんはミャンマー戦の後、サッカー批評で左右の攻撃に差が出たと書いていたけど、あれは必然の結果だと思う。ウィングバックに左は中村敬斗、右には菅原由勢と、起用した人材の個性があるわけだから。攻撃的な3バックと言いながら、シリア戦のように右に堂安律を使うのとは違って、ミャンマー戦では本来サイドバックの菅原を入れたのは、森保監督らしい手堅さだったね」

後藤「シリア戦では左右ともに攻撃的な選手を入れて、後半からは4バックに変えていた。同じ3バックではあるけれど、2試合通じて、いろいろな形をやっていたね」

大住「その中でも中村からは、個人の力として一段と良くなったなという印象を受けた」

後藤「調子が良いんだろうなというのが、はっきりと出ていましたね」

■中村に2人が引っ張られて「誰かが空いた」

大住「突破できる、決め切る、決めさせるパスを出す。あらゆる形で、すべての得点シーンに絡んでいるんだからね。特にシリア戦の2点目の演出が素晴らしかった。左サイドに追い詰められたかのような場所から、すぐ隣ではなくて、1つ飛ばしたところにいる久保建英を見つけて、すごいパスを通した。今回の2試合を通じて、日本代表で一番のプレーだったんじゃないかな」

後藤「これまではシュートがうまい選手だなという印象だったけど、ドリブルもパスもできる非常にハイレベルな選手に成長していますよね。シリアの右サイドバックのアムプントゥル・ラチマン・ウエスはなかなか良い選手だったけど、その相手チームのナンバーワンのDFを相手に、完全に主導権を取っていたからね」

大住「シリアは途中からもう1人の選手を配して、中村が切り返して使いたい内側のスペースを消しにきていたよね。中村のプレーは少し制限されることになったわけだけど、そうなると中村に2人が引っ張られるわけだから、日本代表の誰かが必ず空くという状態になる。中村は最終予選でも、十分に攻撃の中心になれると感じたね」

後藤「今の調子を維持すれば、レギュラーだよね。三笘薫も安泰ではいられない。2人とも調子が良くて、どちらが先発になるにせよ、もうひとりが交代で出てきたら、相手としたらたまったものじゃないよね」

大住「そうだよね。たとえば3バックにして2人をシャドーとウィングで同時に起用して、次々と入れ替わってプレーされたら、相手は泣くよね」

後藤「すごい選手層になってきたね」

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