殺気立つ民衆が軍将校をリンチ…北朝鮮「権力不信」の末期症状

インドのチャッティースガル州のアランで7日早朝、牛を運んでいたトラックが15人から20人の自警団に襲われ、ドライバー2人が死亡、1人が重傷を負ったとタイムズ・オブ・インディア紙が報じた。トラックは牛の密売を疑われ襲撃されたものと見られる。

日本では1923年の関東大震災の後に、悪質なデマが原因で朝鮮人や中国人が多数、虐殺される出来事があった。現在でもインド、南米、アフリカなど警察力が信用されていない国を中心に、民衆が犯罪者と決めつけた人を襲撃して殺してしまう事件がしばしば起きる。このようなリンチを「モブ・ジャスティス(暴徒の司法)」と呼ぶ。

警察が信用されていないのは北朝鮮も同じだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、北朝鮮で起きたリンチ事件について報じた。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、恵山(ヘサン)市の恵城洞(ヘソンドン)で先月20日、10歳の少年A君がトラックに轢かれて死亡する事故が起きた。

運転していたのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の建設部隊に所属する軍官(将校)のB氏。仕事ぶりは非常に真面目で、皆が嫌がることも率先して行う人だった。情報筋は、事故の状況を次のように説明した。

「学校から帰宅する途中だった小学生A君が、道路工事の現場を通りすぎようとしたとき、砂利を積んだトラックのドライバーB氏が対向車線からやってきた車を避けようとハンドルを切ったが、すぐ脇にいたA君に気づかなかった」

事故の知らせを聞いて駆けつけてきたA君の親族と近隣住民は、トラックの運転席からB氏を引きずり下ろし、子どもを返せと無慈悲に集団暴行を加えた。

現場に駆けつけた安全員(警察官)により、B氏は現場から救出されたが、全身と顔面に大怪我を負い、病院に搬送された。

北朝鮮では、飲酒運転や道路インフラの未整備による交通事故が多発しているが、被害者はまともな補償を得られないこともある。事故そのものがもみ消されてしまうこともしばしばだ。安全部(警察署)や警務部(憲兵隊)はチカラとカネのある側の味方だ。

そもそも安全部は、市民の生命と財産を守るのではなく、市民を押さえつけ、抑圧体制を末端から支えるために存在している。そんな警察に、公正な捜査を期待できるわけがないと庶民は考えているのだ。

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