セールスフォース・ジャパン、AIサービスの日本での提供時期などを発表

by 三浦 優子

株式会社セールスフォース・ジャパンは、6月11日・12日の2日間、「Salesforce World Tour Tokyo/CRM + AI + Data + 信頼 の力でビジネス成長の未来を切り拓こう」を開催した。

「CRM + AI + Data + 信頼 の力でビジネス成長の未来を切り拓こう」がテーマ

2日間にわたってさまざまな講演や事例紹介などが行われたが、11日に開催された基調講演には、代表取締役会長兼社長である小出伸一氏が登壇し、SalesforceのAI「Einstein」の最新動向に触れたほか、ソニー・ホンダモビリティ、ふくおかフィナンシャルグループなどの活用例が紹介された。

Einsteinの最新動向では、提供時期が明らかになっていなかった日本語版の提供開始時期が発表された。CRMのための対話型AIアシスタント「Einstein Copilot」の日本語対応ベータ版を2024年10月から提供開始する予定となっており、2024年後半に日本語で利用できるサービスが出てくる見通しだ。

また、ユーザーとして登壇したふくおかフィナンシャルグループは、グループ全体で複数のSalesforce製品を導入し、グループ横断の情報基盤として活用していくことを発表した。

AIをビジネスに活用するAI Enterpriseへ5つのステップで移行を

今回のイベントの狙いについて小出会長は、「今回のカンファレンスのタイトルは、Welcome to the AI Enterprise・データがビジネスの未来を切り拓くというテーマで、AI企業の変革というテーマで議論を深めていきたい。2日間と短い時間ではあるが、皆さまのAIトランスフォーメーションのヒントやインスピレーションをお持ち帰りいただければ」と冒頭に説明した。

セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長兼社長の小出伸一氏

Salesforceでは2016年に独自AIであるEinsteinを発表したが、現在はAIの変革期にあると指摘した。

「当社は予測型AIが登場してきた時期にEinsteinを発表したが、私自身もEinsteinを使いながら事業計画、事業の予測などに活用した。そして、昨年大変なブームになった生成AIが誕生し、なんと2.5カ月で全世界1億人ユーザー獲得を達成してしまった。今までのテクノロジーのスピードを変えてしまったと言われるのがこの生成AIだ」と前置き。

「そこからAIは進化を続け、自立型エージェントAIと言われるものが、単に画像や文書を生成するだけではなく、コマンドを実行し、メールを送信するというようなことまで実際に行われる時代に変わってきた。そしてこれからは。第4の波と言われている汎用AIへと変革しようとしている。汎用AIはまさに人間と同じような対応ができる。感情表現も含め、表現するものへと進化すると言われている。こうした大きなAI変革の波の中で、私がお会いするほとんどの企業の経営者の皆さまは、AIはすべての企業を強化していく、生産性を変え、高い利益率を確保するだろうと考えている」(小出会長)と述べた。

さらに、企業向けAIは一般向けAIとは決定的な違いがあると指摘する。それは信頼すべきデータの存在だという。「ビジネス用AIとして皆さんが使われるデータは、自身の企業内データであり、顧客データ。その質が高ければ、AIから回答クオリティが高くなる。つまり、この企業内にあるビジネスデータをいかに正しくAIに提供できるかということが次の課題になってくる」というのだ。

また、企業内データが重要であるにも関わらず、「実際に皆さんの企業内のデータはどういう構造になっているか。私どもの独自調査だが、72%のお客さまがアプリケーションとデータが分断されていると回答している。つまり、当然のことだが、お客さま社内にはまだレガシーシステムがあり、そこで使われているデータベースには、それぞれフォーマットが異なるデータがある。さらに、データウェアハウスで使われているデータ、メールで使っている非構造化データもある。もしかすると90%を非構造データが占めている可能性もある。分断されたデータでは、いくらAIにデータを提供しても、正しい回答は返ってこない。企業がビジネスで使えるAIを準備するためには、データ問題を解決する必要がある」という点を指摘。

さらに、「セキュリティ、プライバシー問題も課題のひとつであり、今話題になっている有害性、ハルシネーションの問題なども課題といえる」とし、データを活用するための体制が整っていないことが、大きな問題となっていると強調した。

ビジネス向けのAIを実現するための課題

またSalesforceを活用し、AIをビジネスに活用するAI Enterpriseに変革していくためには次の5つのステップが必要になると説明する。

(1)Customer360の構築
(2)データを統合する
(3)AIと働く環境を構築
(4)AIによるデータ分析
(5)信頼できるAIを実装

AI Enterpriseへ変革する5つのステップ

(1)のCustomer360は、以前からSalesforceが提供する顧客データ基盤。この顧客データ基盤から、サービス、セールス、デジタルコマース、アナリティクスと複数のアプリケーションを利用できる。

「そこにAI機能を搭載した。AI機能が搭載されたことで、Sales CloudではAIが最優先の商談を特定し、精度の高い売上予測を行い、成約までの時間を短縮する。Service Cloudでは、AIが顧客に合わせた返信や提案を生成し、顧客の満足度をさらに高めることにつなげていく。Marketing Cloudでは、AIが顧客データから興味や関心をとらえ、データ分析やコンテンツの生成も行う。Commerce Cloudは、AIが売り上げを高めるために商品説明を生成し、関心に合わせたプロモーションを提案してくれる。SlackについてもAIが会話データを要約し、検索することで働き方をもっと効率的にしてくれる。Tableauは、データ分析が必要な際、AIが準備と分析を行って自動化し、意思決定をさらにスピーディにしてくれる」

Customer360

産業別クラウドであるIndustry Cloudについても、AI連携を進めていく。

「AI企業へとトランスフォームするためには、信頼できるAIをサポートするプラットフォームが必要となる。そこで我々が提供するのがEinstein Platform。Einstein Platformは、統合型でインテリジェンス指向であり、対話型AIを組み込んでいく」と、AIによる企業変革を全面的にサポートしていくことを強調した。

明らかにされていなかった各サービスの日本語版登場時期が明らかに

続けて米本社のVPでプロダクトマーケティング担当のサンジャナ・パルレカー氏が登壇。データ統合について説明を行った。

米Salesforce VP, Product Marketingのサンジャナ・パルレカー氏

AI Enterpriseを目指す2つ目のステップとなるのがデータ統合。パルカレー氏は、「調査によれば、企業のデータの72%が分断されている」とアプリケーションごとにデータが分断され、利用が難しくなっている現状を指摘した。

その状況を変えるものとして、Salesforceが提供するハイパースケールデータエンジン「Data Cloud」によって状況を変えていくとアピールした。「Data Cloudによって、複雑な導入手続きなしに、分断されていたデータを活用できるものへと変えていく」。

社内にあるあらゆるデータをData Cloudに接続し、これまでAI活用に利用できなかったデータもマッピングすることで活用できるデータへと変換する。「Data Cloudを導入することで、企業はAIを戦略的に活用するAI Enterpriseへと転換をはたすことができる」とした。

Data Cloudの仕組み

また、企業がAIを活用していく際に協業できるパートナーの拡充も行う新しい仕組み、「Zero Copy Partner Network」がスタートした。この仕組みは、米国で4月25日に発表されたもので、Salesforce Data Cloudとのセキュアで双方向のゼロコピー統合を構築し、Salesforce Einstein 1 Platform全体でデータを活用できるようにするための、テクノロジーおよびソリューションプロバイダのグローバルエコシステムとなっている。

パートナーには、「Zero Copyテクノロジーパートナー」、「導入支援SIパートナー」、「データエコシステムパートナー」の3種類のパートナーが存在し、企業のAI導入を支援していく。

さらに、これまで日本語版の提供開始時期が明らかになっていなかった、CRMのための対話型AIアシスタント「Einstein Copilot」は、日本語対応ベータ版を2024年10月に提供開始予定であると発表した。「Copilotに関しては、今後、すべてのCloudに搭載し、より効率的なビジネスにつながるよう進めていく」(パルカレー氏)。

Zero Copy Partner Network

ビジネスでAIを活用する際、重要になってくるのはデータの信頼性だ。そこでSalesforceでは、CRMアプリと「Einstein Trust Layer」を経由して、データをセキュアに取得し、安全にデータを利用する仕組みを作っていく。

CRMと連携しリアルタイムにアクションを行う「Copilot in Slack」は2024年10月から提供開始。Slackはこれ以外にも、営業活動を支援する「Sales Elevate」、すべてを検索してまとめる「Slack AI」は提供開始しており、レコードについて会話する「Record Channels」は2025年1月までに提供予定だ。

SlackでAIを使った働き方へ

分析に利用するTableauは、いつでも、どこでもAIがインサイトある分析を実現する「Tableau Pulse」を2025年1月末までに日本語対応予定となっている。「Einstein Copilot for Tableau」は2025年7月末までに日本語対応予定だ。これが提供されるようになると、データ準備から可視化までの時間を圧倒的に短縮できるという。

Tableau Pulse

予測とアクションを自動化する「Einstein 1」は、プロンプトビルダーを提供開始しており、この後さらにコパイロットビルダーを2024年10月に提供開始予定で、モデルビルダーは提供開始している。自動化についても、ノーコード、ローコードで実践していく。

ソニー・ホンダモビリティ、ふくおかフィナンシャルグループの2社が導入企業として登壇

ユーザーとして基調講演に登壇したのが、ソニー・ホンダモビリティ、ふくおかフィナンシャルグループの2社だ。

ソニー・ホンダモビリティは、リアルとデジタルを融合させたカスタマーサービス提供を目指し、カスタマーサービス領域にSalesforceを導入した。ブランド名「AFEELA」として、自動車内で過ごす時間をエンターテイメント空間、感動空間へと変えていく世界を目指している。

会場で流れたコンセプトビデオの中で、代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏は、「車両を購入していただいてからがお客さんの顧客体験のスタート。車にはさまざまなセンサーが搭載され、どういう状態で運転しているか、誰と一緒に乗っているか、今どこを走っているかなどをリアルタイムで把握しながら、最適なカスタマーサービスを実現していく。AFEELAのカスタマーサービス領域において、全般的にSalesforceを活用していく」と導入の狙いを説明した。

また会場で水野氏は、「モビリティの変革期にどうやったら生き残れるかという課題に向けこの会社を設立し、今に至っている。車はご存じの通り、A地点からB地点へ人を動かすと移動のトランスフォーメーションとしての役割があるが、我々はトランスフォーメーションだけではない、人の気持ちまで動かしたいと考えている」と従来の自動車にはないコンセプトを実現しようとしていると強調した。

なお、セールスフォース・ジャパンの小出会長が、米本社のマーク・ベニオフ氏とソニー・ホンダモビリティについて話し合ったところ、「ソニーとホンダがタッグを組んだモビリティの会社であれば、とんでもない車ができあがるよね、ぜひ購入したいと言っていました」と笑顔で話した。それを聞いた水野氏は、「日本では2026年末までにはなんとかデリバーしたいと考えている」と答え、早くも登場する新車のユーザーが決定したようだった。

ソニー・ホンダモビリティの事例

ふくおかフィナンシャルグループは、会場で流れた企業紹介ビデオで、Salesforce導入の狙いを次のように説明した。

「ふくおかフィナンシャルグループは、明治10年から約150年にわたり地域とともに成長をさせていただいてきた。融資するのが仕事だと思っていない。お客さまの事業の成長にコミットすることが仕事だと考えている。AIを活用することによって、お客さまに対して高い価値を提供できる、そんな世界が実現できると期待している。グループ内のいろんな種類のデータを一元化できて、かつ営業現場で行われていることを見える化できる。これを実現できるのがData Cloudだと期待している」と前置き。

「お客さまが今何に関心があるか、次に何をしたらいいか、必要なタイミングでアクションを起こすことができるようになる。対話型AIアシスタントを社員が使うことで、稟議(りんぎ)書を書き、スムーズな提案書の作成、スピーディな提案に結びつけることができるんじゃないかと思っている。セールスフォースにAIとデータの力が加わることによって、事務処理の時間を圧倒的に削減し、空いた時間をお客さまとのコミュニケーションに使っていくことができるようになる。お客さまから聞き出した課題を持ち帰って回答ではなく、その場で答えることができるようになる。我々のヒューマン力を高めるものだと考えている」。

また取締役社長の五島久氏は、会場で、グループ全体のデータ基盤としてSalesforceを採用した背景として、「一言で言うと、攻めと守りの機能が充実していること。攻めとは、やはり私たちはサービスを提供する営業会社でもある。営業担当者はデータが集約されたプラットフォームを活用して、営業展開を行う。守りとしては、企業の中に存在するデータをしっかり集約し、業務を効率化していく。それから、グループ間で情報連携をすることも導入の背景となっている。私たちのグループには、5つの銀行とさらに関連会社がある。全社のデータをしっかり統合していく。これによってお客さまに幅広い解決策、ソリューションを提供できるようになる。さらに開発者にとっても、ローコード、ノーコードも活用しながら、内製化が進みやすくなるというメリットがある。銀行として欠かせない、信用、信頼を守るためのセキュリティレベルがあることも選択理由となった」と説明した。

ふくおかフィナンシャルグループの事例

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