【環境考察/気象の変化】春の渇水、農業直撃 ダムの水不足深刻

水が少なくなった羽鳥ダム。春先に水が不足すると農作業に影響が出る=2023年8月、天栄村

 「去年はひどかったけど、今年もだ」。羽鳥ダム(天栄村)を水源とした農業用水を管理する矢吹原土地改良区(矢吹町)副理事長の佐藤幸一郎(76)はため息をついた。ダムの水不足が深刻だった昨年と同様の状況にあり、春先の通水開始時期を例年より2週間程度遅くしたからだ。

 水利用見通し立たず

 たびたび水不足に悩まされてきた。東北農政局によると、羽鳥ダムの過去10年間の5~9月の最低貯水率は6.5~53.2%。田植え前の5月1日時点の貯水率は80~90%台で、63.6%という年もあった。「春先に水が少ないと、(田植え前に水田の状態を整える)代かきなどの農作業に影響が出る」と佐藤は危惧する。

 特に近年は変化が大きい。土地改良区事務局長の鈴木禎一(57)は「東日本大震災前後で大きな違いが出てきている。ここ5年くらいは過去の実績が通用せず、水利用の見通しを立てにくい」と話す。

 「春先の水不足は降雪量と関係がある」。洪水対策や水資源管理などに詳しい日大工学部教授の朝岡良浩(47)は指摘する。

 朝岡によると、冬場に積もった雪が気温の上昇で解けて流れ出し、ダムに蓄えられるため、冬場の降雪量が少なければ、春先のダムの貯水量は少なくなる。さらに、気温上昇の時期が早まれば解け出しも早まるが、ダムの貯水量は決まっているため、一定量に達すれば放流してしまう。こうした要因が重なることで、春先の田植え作業で必要な水が足りなくなる事態になるという。

 雪解け終了一月早く

 朝岡が行った大川ダム(会津若松市、下郷町)の流入量と積雪に関する研究では、このまま地球温暖化が進めば、雪解けによって川の水が増える「融雪出水」が1カ月程度早く終わるとの結果が出た。温暖化対策をしなければ、2080~2100年には3月中旬に積雪がなくなることも判明した。

 県内には水力発電に活用するダムもある。「雪は農業や発電などで貴重な資源。福島は資源としての雪に恵まれている」と朝岡。その上で降雪量が減れば「(除雪などの面で)生活面でいいかもしれないが、農業などへの影響が大きくなるだろう」と懸念を示す。

 温暖化対策を進めることは重要だが、効果を発揮するには長い年月がかかる。朝岡は「適応策が大事」と指摘。農業やダムの在り方、水の使い方などに言及し「農業を中心に、今の時代に即した在り方を議論していくべきではないか」と提案した。(文中敬称略)

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 融雪出水 雪解けが進み、水が沢に流れ出して川の水の量が増すこと。「雪代(ゆきしろ)」とも言われる。

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