知りませんでした…「年金月25万円」の66歳男性、給与アップの喜びつかぬ間、年金機構から「年金支給停止」を告げるハガキが届いたワケ

(※写真はイメージです/PIXTA)

複雑怪奇な日本の年金制度。きちんと理解していないと、思わぬ損をすることもしばしば。そこなかでも理解が難しいのが、働きながら受け取る「在職老齢年金」。場合によっては「年金支給停止」という、なんとも悔しいことが起きることもあるようです。みていきましょう。

ある日、日本年金機構から届いた「支給額変更通知書」

原則、65歳から受け取る老齢年金。納めた保険料や加入期間によって、その支給額は変わり、いったん年金額決定した後も変更が生じることがあります。そのようなとき、日本年金機構から送られてくるハガキ「支給額変更通知書」。

そこには変更となった理由が色々と記されていますが、たとえばこんな文言。

「勤務先からの届出により、標準報酬月額(標準的な給与の額)が変更されたため、年金の支給停止額を変更しました。」

――支給停止!?

なんとも不穏な言葉。そう、年金を受け取りながら働いていると、もしかしたら「年金支給停止」を理由に「支給額変更通知書」が届くかもしれないのです。

仕事をしながら(給与収入を得ながら)年金をもらっている場合に知っておきたいのが「在職老齢年金制度」。60歳以降に厚生年金(共済組合)に加入して働きながら受給する年金を「在職老齢年金」といい、「年金」と「給与」が一定額を超えると、その年金が一部停止、または全額がになります。年金カットの基準は、2024年4月から「50万円」となりました。

では「働きすぎて年金支給停止」の実態を考えていきましょう。

大学卒業以来、大企業で働くサラリーマン。ずっと平均的な給与を得て60歳で定年、以降は再雇用され非正規社員として勤務。その給与も平均額だとします。そんな平均的な大企業勤務のサラリーマン、65歳から受け取れる老齢厚生年金は「月12.9万円」。老齢基礎年金と合わせると「月19.7万円」が手にできる計算です。

仮に加給年金なども含めて「月25万円」を手にしているとしましょう。先ほど「基準額=50万円」になったといったので、「給与が25万円以上あったら、年金が停止にされちゃうの?」と思うかもしれませんが、少々違います。まず年金のどの部分が停止になるかというと、老齢厚生年金=報酬比例部分。老齢基礎年金や加給年金、特別支給の老齢厚生年金は対象外となります。つまり「給与をもらい過ぎて年金がゼロ円に!」ということはなく、年金総額25万円のうち、老齢厚生年金=報酬比例部分にあたる12.9万円に関しては、給与によってはゼロになる可能性がある、ということになります。

66歳の大卒サラリーマン、賃上げの波にのり「給与アップ」で歓喜したが…

さらに給与についても深堀してみましょう。

ここでいう給与は「標準報酬月額(毎月の給与)」と「直近1年間の標準賞与額を12で割った額」を合わせたもの。毎月の給与には、基本給のほか、役職手当や通勤手当、住宅手当なども含まれますが、臨時に得た報酬は含まれません。

毎月の給与は年収を12で割った平均値なのか、といえばそうではなく、「4~6月の給与の平均値」。つまり4~6月に残業などして収入が多くなると、年金支給停止のリスクが高まるといえます。ちなみに支給停止額は月額「総報酬月額相当額+基本月額-50万円)×1/2」です。

たとえば、前出の大企業で働く平均的な大卒サラリーマン。65歳以降に受け取る月収(総報酬月額相当額)はどれくらいかといえば、36.9万円。1年目は年金支給停止は免れることができます。ただこの賃上げの波で給与アップ。66歳での月収は40万円になったとしましょう。そうすると、月1.45万円、1年で17.4万円の年金が支給停止になることに。賃上げ効果も残念な結果になってしまうわけです。

給与アップと聞かされ喜んでいたのも束の間、送られてきた支給額変更通知書で「知らなかった」と年金支給停止の事実に驚愕……。「なんとも理不尽な制度だ!」と憤慨するのも分かりますが、在職老齢年金は「厚生年金に加入」が前提。たとえば契約形態を変更してもらい、個人事業主として報酬を得るというのも手。厚生年金には加入しないので、収入額が同じであっても年金が減ることはありません。働き方を変えることで、年金支給停止を免れることができるのです。

[参考資料]

日本年金機構『令和6年4月分からの年金額をお知らせする「年金額改定通知書」、「年金振込通知書」の発送を行います。』

日本年金機構『在職中の年金(在職老齢年金制度)』

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

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