結婚式BGM、新郎新婦が知っておきたい著作権法 JASRACの許諾が必要なのはどんなとき?

画像はイメージ(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

6月に結婚すると幸せな生活が送れるとされる「ジューンブライド」。この時期に合わせて結婚式を挙げようとしているカップルは多いかもしれません。

式場選びから招待状の作成など準備すべきことはたくさんありますが、式でどのような音楽を流すかを考えるのもその一つでしょう。

せっかくの晴れ舞台。好きなアーティストの曲を安心して使うため、知っておきたいのが著作権法の考え方です。

弁護士ドットコムには「披露宴でCDをかけたい場合、著作権の申請が必要でしょうか」といった相談が寄せられています。

どういった場合に著作権法違反となってしまうのか。高木啓成弁護士に聞きました。

●音楽の利用は「著作権」と「著作隣接権」に分けて考える

ーー音楽を利用するうえで、どのように著作権法を考えればいいでしょうか?

音楽については、「著作権」と「著作隣接権」について分けて考える必要があります。

「著作権」というのは、作詞・作曲・編曲を行った著作者の権利です。音楽業界的には特に作詞者・作曲者の権利を指し、これはメジャーレーベルなどの流通に乗っている音楽であれば、基本的には著作権管理事業者(日本ではJASRACとNexTone)が管理しています。

一方、「著作隣接権」というのは、その楽曲を歌唱・演奏した実演家の権利、その実演をレコーディングして音源を制作したレコード製作者の権利です。アーティストやレコード会社側の権利だと思って下さい。

ちなみに、音楽業界ではレコード会社からリリースされているCDや音楽配信の音源についての著作隣接権のことを「原盤権」と呼び、発売元のレコード会社が管理しています。

イメージとしては、著作権は楽曲(歌詞・メロディ)についての権利、著作隣接権は音源についての権利だと考えると分かりやすいと思います。

●JASRACと包括契約している結婚式場では申請不要

ーー結婚式場で自分が持っているCDを流してもいいでしょうか?

結婚式場で自分の所有するCDを使って音楽を流す場合について、著作権と著作隣接権にわけて考えてみましょう。

まずは、著作権です。多くの参加者が出席する結婚式場で音楽を流すことは、著作権のひとつである「演奏権」という権利が働く場面です。

つまり、公衆に向けて音楽を演奏することには著作権者の許諾が必要であり、著作権者に無断で行うと、著作権侵害になってしまいます。

そのため、原則としてJASRACへの申請が必要になります(結婚式場等での利用(社交場・カラオケ演奏等)については、NexToneの管理外です)。

ただ、結婚式場は頻繁に楽曲を使うため、多くの結婚式場は、JASRACと包括的利用許諾契約(包括契約)を締結し、著作権使用料を支払っています。

そのため、JASRACと包括契約をしている結婚式場であれば、新郎新婦側での申請は不要ですし、著作権使用料もかかりません。

次に、著作隣接権です。実は、著作隣接権は著作権と異なり、「演奏権」に相当する権利が法律上存在しません。つまり、多くの参加者が出席する結婚式場でCDを流すという行為について、著作隣接権の権利者の許諾は不要なのです。

そのため、著作隣接権との関係では、特に問題になりません。

●音楽配信サービスを使う時は注意が必要

ーー流す曲がレンタルCDやネットの音楽配信サービスの場合はどうなりますか?

先ほど述べたことは、自分の所有するCDでなく、レンタル店で借りてきたCDの場合も同様です。

なぜなら、著作権や著作隣接権の侵害になるかどうかは、「多くの参加者が出席する結婚式場で音楽を流す」という行為について権利が働くかどうかという形で考えるので、流しているCDが自分の所有物かどうかは無関係のためです。

ただし、spotifyやApple Musicのような音楽配信サービスや、YouTube動画共有サービスなどをそのまま再生することについては注意が必要です。

というのも、多くの音楽配信や動画共有サービスは、利用規約上、個人的に楽しむ目的での利用に限定されているので、この場合、結婚式場で流すことは利用規約違反となってしまいます。

●手作りムービーに曲を使う場合は別の手続きが必要

ーー自分の好きな音楽を自由に並べたCD-Rを作ったり、披露宴で流す手作りムービーに音楽を使用したりする場合はどうですか?

この場合、音楽をCD-Rやムービーに複製している形になるので、著作権については「複製権」という権利が働く場面です。これは、JASRACと結婚式場との包括契約の範囲外になるので、別途の手続が必要になります。

またこの場合は、CD音源や配信音源を使う限り、著作隣接権の処理も必要です。具体的には、実演家の「録音権」、レコード製作者の「複製権」という権利が働く場面なのです。

●一括で権利を処理する団体に依頼する選択も

ーー考慮すべき権利が多くて完璧にこなすのは難しそうですね。

新郎新婦側でこれらの手続きをするのは大変ですよね。ですので、この場合は結婚式場やその提携している映像制作会社に委託し、ISUMによる権利処理をお願いしてしまうのも手です。

ISUM(正式名称:一般社団法人音楽特定利用促進機構)とは、結婚式で利用されるCD音源・配信音源を結婚披露宴等で利用する場合に、著作権と著作隣接権を一括で権利処理する団体です。

ただし、ISUMで一括権利処理できる音源は、「ISUM楽曲データベース」に登録された音源のみです。また、新郎新婦が直接にISUMを利用することはできず、結婚式場や映像制作会社などに委託する必要があるのです。

希望の音源が「ISUM楽曲データベース」に無い場合や、結婚式場や映像制作会社がISUMを利用できない場合は、やはり著作権と著作隣接権を個別に申請する必要があります。

具体的には、著作権については、JASRACまたはNexToneに申請することになります。楽曲の管理状況は、JASRACのウェブサイトの「J-WID」や、NexToneのウェブサイトの「作品検索」というデータベースで確認することができます。

著作隣接権については、本来は個別のレコード会社への申請が原則ですが、結婚披露宴等での音源利用については、日本レコード協会が窓口になっています。

日本レコード協会のウェブサイト上に「楽曲リスト(結婚披露宴等での音源使用)」が用意されていて、このリストに登録のある音源であれば、利用申請することにより利用可能となります。

このリストに登録がない音源についてはリクエストを行うことができますが、利用料金が高額になったり許諾まで時間を要したりすることもあり、実際はなかなかハードルが高いです。

【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。Twitterアカウント @hirock_n
事務所名:渋谷カケル法律事務所
事務所URL:https://shibuyakakeru.com/

© 弁護士ドットコム株式会社