「テロ攻撃を助長する映画」とFBIが警告!衝撃の“利権爆破”スリラー『HOW TO BLOW UP』が突きつけるリアルな危機感

『HOW TO BLOW UP』© Wild West LLC 2022

石油パイプランを、いかに爆破するか

「エコ・テロリズム/エコ・テロリスト」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。環境破壊や動物虐待に対し、“過激な”方法で対抗すること/人々を指す呼称だ。最近では、有名な美術作品にスープをぶっかけたり道路を封鎖する様子が、日本のTV番組などでもセンセーショナルに報じられた。

こうした活動は極左のヒステリーなどと揶揄されがちだが、主に化石燃料の使用による気候変動は確実に私たちの生活に影響を及ぼしている。過去最悪を更新し続ける異常気象、それに伴う健康被害、環境破壊、農作物の不作……。それらの多くがエネルギー利権の成果であり、できれば無関心でいてほしい“不都合な真実”の一つでもある。

鼻先に迫った終末に対し具体的なアクションを起こさない/起こせない民衆に代わって行動しているのは、誰か。すでに人生を折り返した逃げ切り世代と異なり、Z世代以降の若者は自分たちの未来を諦めていないし、支配構造への敏感さを持っている。

気鋭の映画制作スタジオ<NEON>が放つ『HOW TO BLOW UP』が描くのは、理由や思想を異にする人々が起こした過激な“共通アクション”だ。

「辛口映画批評サイトで高評価:94%、法執行機関からの警告:35件」

本作の原題はズバリ『How to blow up a pipeline』で、パイプラインとは「石油パイプライン」のこと。気候変動学者アンドレアス・マルムが“直接的な(物質/財産の)破壊活動”をアジテートしたノンフィクション「パイプライン爆破法 燃える地球でいかに闘うか」をベースに、有毒な化学物質によって末期がんに罹ったテオ(サッシャ・レイン)や、石油をめぐって長年迫害されてきたネイティブ・アメリカンのマイケル(フォレスト・グッドラック)ら8人の若者たちが物語の軸となる。

『レザボア・ドッグス』(1992年)などが引き合いに出されるように、基本構成はいわゆる“ケイパーもの”だ。ゆえに「ひとつ間違えたら……」なサスペンス展開もしっかり確保していて、『HOW TO~』と題されているとおり、「いかにしてパイプラインを爆破するか」という部分にもブレはない。ゆえに“環境保護訴求映画”という偏りはなく、登場人物たち全員がゴリゴリの環境アクティビストでもないし、それぞれ理由は様々で目的の捉え方も違う(各キャラクターは実際の活動家たちの背景をベースにしているという)。

配給のNEONは「ロッテントマトで高評価:94%、法執行機関からの警告:35件」とSNSに投稿した。FBIが「化石燃料の生産に脅威を与えることを警告」したというのだが、当然ながら爆弾の作り方が詳細にレクチャーされたりとか、破壊活動を無批判に啓蒙するような言動があるわけではない。スラッシャー映画が現実世界での大量殺人を誘発しないのと同じことだ。

利権の外側で心身を蝕まれた人たち

物語のメイン舞台はテキサス西部の荒野。グループには明確なリーダーはおらず、目配せひとつでメンバーを操るようなマンガ的なカリスマもいない。キャラクター造形はリアリティを重視し、わざとらしい説明セリフも廃している。ただし本作は、メッセージを掲げるためにエンタメを犠牲にする堅い政治映画の類ではない。「すでに起こってしまっている深刻な問題」に対してより直接的な決断を下した、私たちと変わらない市井の人々が直面する<スリラー>なのだ。

当然ながら政治利権は個々人の思想を慮ってはくれないわけで、右寄りだろう左寄りだろうと、私たちは利権に蝕まれながら生きている。だから本作は世代も生活背景も様々なメンバーを配し、最終的な成果だけを共有する凸凹チームの共同作戦という形をとっている。過去の回想を挟む、いわゆるフラッシュバック構造は、総勢8人の背景を見せる演出として有効だ。

終末に向かう“死の行進”の中から、何を選び取るか

環境活動にはえてして冷笑的な批判が向けられがちだが、当然ながら彼/彼女たちにもそれぞれの生活と、過激な行動に至るだけの背景がある。先鋭化する環境アクティビストたちの破壊行動/妨害行為は活動の本質からズレてしまっている感もあるが、ゴッホの絵がスープまみれになったことに怒り悲しむならば、世界で3番目に古い教会をミサイルで破壊することにも「NO」と言うべきだろう。

人間活動による異常気象が喫緊の危機とは思えなくても、リアルタイムでスマホに流れてくる四肢を吹き飛ばされた赤ん坊が、同じような利権でつながっているのだとしたら? 国家レベルの根深い利権関係が露呈し欧米の主要メディアが説得力を失った今、この作品が正当に評価され多くの人に観られるのならば、それは小さくも確実な希望になるはずだ。

建前だけのエコ政策で目くらましされ、御用論客が“環境保護活動の利権化”とうそぶく世界に生きる私たちは、すでにデスマーチの中にいる。「では今、何をすれば?」に対する明確な答えは今のところ誰も持っていないのかもしれないが、だからこそ調べ、学び、考え、対話し発信することを止めてはならない。

『HOW TO BLOW UP』は2024年6月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、池袋HUMAXシネマズ、シネマート新宿ほか全国ロードショー

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