「2泊3日・1300円」で「百名山」を満喫! 温泉&ビール、無料テント場「登山レポ」

北千里ヶ浜から久住分れ方面を見る(撮影:兎山 花)

2024年GW、筆者は九州大分県にある「くじゅう連山」を訪れた。目的は、九州最高所にある秘湯「法華院温泉(ほっけいんおんせん)」とテント泊登山。お天気がよければ、久住山頂から阿蘇五岳(あそごがく)も見える。そんな贅沢な登山がなんと500円で叶うのだ。くじゅうの6月はミヤマキリシマの花が咲き誇ることで有名。今回はミヤマキリシマには早かったが、花がなくても十分満喫できる山だった。筆者が実際に訪れた山旅をレポートする。

■くじゅう連山とは

「くじゅう連山」とは、九州本土最高峰「中岳(標高1,791m)」や日本百名山の「久住山(くじゅうさん・標高1,786.6m)」、「大船山(たいせんざん・標高1,786.4m)」などの火山群の総称。1,700m級の山々が連なり、「九州の屋根」とも呼ばれる。

車を走らせていると3つの表記に気がついた。「九重(くじゅう、ここのえ)」と「久住」「くじゅう」だ。調べてみると、火山群や地域全体を表す場合は「九重」、単独の山を表す場合は「久住山」を使う。最近では混乱を避けるために「九重」の代わりにひらがな「くじゅう」が用いられ、結果3つの表記が存在する。

■長者原(ちょうじゃばる・標高1,040m)から登山スタート

登山口と下山口は長者原(ちょうじゃばる)。GWとあって、駐車場はほぼ満車。観光客も多く、車の出入りも多い。タイミングよく空いたスペースに駐車して、登山開始。

登山口で出会うのは「平治号(へいじごう)」の銅像。40年ほど前にくじゅう連山のガイド犬として活躍し、14年間遭難を防いだそうだ。平治号に一礼して出発する。

しばらくは木道の自然探索路を歩く。ラムサール条約にも登録されている広大な緑の湿原で、観光客も多い。九州自然歩道と書かれた標識から登山道を上がっていく。「坊ガツル」まで4.7km。雨ヶ池越(あまがいけごえ)まで来ると、再び平坦な道となる。

しばらく進むと、遠く眼下に山に囲まれた広い平地が見えてくる。坊ガツルだ。平地の奥の方にテントが密集しているのが遠くからでもわかる。

■無料の坊ガツルキャンプ場

登山開始から2時間半ほどで本日の目的地、坊ガツルに到着。ここは1,500張可能な広大なキャンプ場。本日から2泊3日間ここをベースに、くじゅう連山を満喫する予定だ。

地面は草地でやわらかく、トイレも炊事棟も完備されていて無料で利用できるのはありがたい。くじゅうの山々に囲まれて、景色も最高。明け方にテントから外に出ると、満天の星が出迎えてくれた。

こんなキャンプ場が筆者の住む関西にあれば、毎月通ってしまいそうだ。

■くじゅう連山のおすすめコース

今回ご紹介するのは、以下のコース。

坊ガツル→法華院温泉《15分》→北千里ヶ浜(きたせんりがはま)《90分》→久住分れ《55分》→御池(みいけ)《25分》→天狗ヶ城(てんぐがじょう・1,780m)《15分》→中岳《10分》→東千里ヶ浜《10分》→稲星山(いなほしやま・1,774m)《20分》→久住山《40分》→久住分れ《30分》→往路を戻る→坊ガツル《110分》
所要時間:7時間00分(休憩含まず)

1,700m級の4つのピークをめぐアップダウンのあるロングコースだが、標識や登山道もしっかりしているので歩きやすい。

法華院温泉を通るため、登山装備に加えてタオルや着替えを持って登る。法華院温泉までは緩やかな登りで15分ほど。法華院温泉から西に進路を変えて谷沿いに上がっていくと分岐に出る。久住山や中岳に行くには分岐を南方向に進むが、分岐を通り過ぎて5分ほど歩いた先にある「すがもり避難小屋」に立ち寄ってみる。

避難小屋とあるが、屋根と柱だけの石積みのシェルター。近くには鐘がぶら下がっている。昔、「すがもり小屋」が有人の山小屋だったころ、玄関に吊るされており、視界不良で迷った登山者に小屋の方向を知らせていた。鐘を鳴らすと、明け方の登山道に鈍い音が鳴り響いた。

分岐まで戻り、「北千里ヶ浜」を歩いて「久住分れ」に向かう。北千里ヶ浜は荒涼とした岩と土の世界で、火山の影響だろうか山肌が白くなっている。

久住分れから、中岳方面に向かう。

20分ほど歩くと、御池に到着。たっぷりと水を湛えた池は、荒涼とした世界に現れたオアシスのようで、しばしその景色に癒される。

御池のすぐ北にある天狗ヶ城に登り、いったん下って中岳へ向かう。中岳山頂は九州最高峰とあって賑わっている。中岳から下ると東千里ヶ浜に出る。北千里ヶ浜に対して、東千里ヶ浜は緑豊かな草原地帯だ。ここから稲星山頂を経由して久住山に向かう。ゴツゴツした茶色い岩の登山道を登っていくと、久住山に到着する。山頂へは「牧の戸峠」登山口から入れば日帰り可能なため、親子連れのハイキング客も多い。晴れていれば、山頂から阿蘇五岳やカルデラが見えるはずだが、残念ながら雲に覆われて何も見えなかった。

下山は、久住分れまで戻り往路と同じ道を通って坊ガツルに戻る。

■日帰り入浴できる法華院温泉山荘(大分県竹田市)

谷沿いを下りてくると、硫黄の匂いが漂ってくる。本日すでに7時間近く歩いており、疲労も蓄積していたが、温泉まであと少しだとわかった途端、足取りが軽くなった。

受付で500円を支払って温泉へ。モンベル会員は100円引きのサービスとなる。

環境を考慮し、石鹸類の使用は禁止されている。壁に設置されている蛇口は水しか出ないため、筆者は木製のタライで掛け湯をして湯船へ。白く濁った温泉が1日の疲れを癒してくれる。山で温泉に入れるなんて至福のひとときだ。脱衣所には鍵付きロッカーやドライヤーも完備されている。

温泉のあとは自動販売機で缶ビールを買ってメンバーと乾杯。500mlの缶ビールが450円なのもありがたい。

しばらく休憩所でのんびりしたあと、眼下に見える坊ガツルに戻る。下山が遅くなりそうな場合は、ヘッドランプを用意しておこう。温泉を出たら真っ暗なんてこともありうる。

■2泊3日の登山で使ったのは、なんと1,300円!

今回、筆者が2泊3日の登山で使ったのは1300円(温泉400円、缶ビール2本900円)。

予約不要で無料のキャンプ場、温泉に入らなければ往復交通費だけで事足りる。くじゅうにはたくさんコースがあり、体力によって自由に選択できる。

さらに地元の登山者は口を揃えて言う。「九州にクマはいない」と。本当かどうかは定かではないが、九州では絶滅してしまったとも言われている。

無料でキャンプ場が利用でき、温泉にも入れるくじゅう連山はテント泊の聖地のような場所だった。

※この記事の情報は2024年5月現在のものです。内容が変更される場合もありますので、最新の情報はHPでご確認ください。

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