園児バス置き去り死亡事件で女児の母「何をしても大切な千奈は戻ってこない」 父は「強烈な怒りと恨み」【静岡発】

静岡県牧之原市にある認定こども園で、通園バスに3歳の女児が置き去りにされ死亡した事件の裁判は、6月13日に検察が元園長に対して禁錮2年6カ月、元クラス担任に対して禁錮1年を求刑して結審した。

千奈ちゃんの母親が涙ながらに…

2022年9月に認定こども園「川崎幼稚園」(牧之原市)で、河本千奈ちゃん(当時3)が通園バスに長時間置き去りにされ死亡した事件をめぐっては、検察がバスを運転していた当時の園長と千奈ちゃんがいないことに気付きながらも保護者に連絡しなかったクラス担任の2人を業務上過失致死罪で起訴していて、2024年4月から裁判が開かれている。

6月13日の公判では、検察による求刑などに先立って、千奈ちゃんの両親が裁判所に向けて意見陳述を行った。

この中で、先に意見を述べた母親は、まず「千奈を失い、とてつもない苦しみ・悲しみ・絶望感で、生きていくことがつらく、苦しく、死んでしまいたい。本当に地獄でしかない。千奈を返してほしいと毎日、毎日思っている」と現在の心境を吐露。

続いて、千奈ちゃんが生まれた時のことに触れ、「命がけで千奈を産み、初めて産声を聞いた時、感動で涙したことを今も鮮明覚えている」と口にし、「本当にどうして?遺影に向かって何度も何度も『ごめんなさい』と泣くことしか出来ず、『なんで?』とずっと考えている」と涙を流した。

千奈ちゃんについて「私の宝物」と表現し、「私が『大好き』と伝えると『ママ大好き』とニコっと笑って返してくれた。夜寝る時も千奈の右手を両手で握りしめ一緒に寝ていた。手を握ると安心して寝てくれたし、私自身も安心して眠りにつくことができた。生まれてから2022年9月5日の朝まで必死に守ってきた」と在りし日を振り返った上で、「家族4人で幸せに暮らしたかった。すべてを奪った加害者を絶対に許すことはできない」と断罪。

母親によれば、事件のショックから現在も夫婦で精神科に通院しているという。「千奈のことを思い出すと取り乱し、パニックになる。情緒が不安定になり、感情が抑えきれないこともあり、家の中で千奈がいないか探し回り、夜中も千奈がいるのではないかと思い外に出てしまう」そうだ。

安心して預けたはずの園で…

千奈ちゃんが川崎幼稚園に通い始めたのは事件の半年前。母親は「園を信頼して子供を預け、いつものようにバスに乗り登園させた」と話す。それ故に「元園長は、なぜ安全に対する意識を持って業務を行わなかったのか?元クラス担任は、なぜ千奈がいない違和感に気付いていながら行動に移さなかったのか?」と疑問を呈し、「両被告が、なぜ千奈の生きる権利を奪ったのか理解に苦しむ」と述べた。

また、「元園長は裁判の中で廃園について問われた際に『今でも信頼して通っている保護者がいるから』と発言した。私たち遺族がいる前で言うことではない。元園長は『遺族に少しでも寄り添っていきたい』と言葉ではいうものの、その言葉選びの配慮の無さ、当事者としての意識の低さ、数々の不誠実な対応に私たちは深く傷つき、怒りと憎しみの気持ちでいっぱい」と失望感をあらわにし、事件からの1年9カ月については「涙を流さない日はない。1日1分1秒も千奈のことを考えない時はない」という。

ただ、「千奈と過ごした時間が過去になり、思い出も増えることがなく、記憶が少しずつ薄れていくのではないか」と自らが感じている怖さも明らかに。

そして、最後に「たった3年11カ月しか生きることができなくて、生きさせてあげられなくて、ごめんなさい。親として我が子を失うことほどつらく残酷なことはない。この先もずっと助けてあげられなかったことを一生後悔しながら苦しんでいく」と千奈ちゃんへの思いを口にすると、「もう何をしても私たちの大切な千奈は戻ってこない。実刑を望む」と結び意見陳述を終えた。

両被告は「反省していない」と指摘

一方、千奈ちゃんの父親もまた、「元クラス担任は『つき組』(千奈ちゃんのクラス)で無断欠席をする保護者と園児はいなかったと話していた。つまり、欠席や遅刻の連絡なく千奈がいなかったことは稀にみる異常なケース」と指摘し、それにも関わらず千奈ちゃんについて勝手に判断したことは「結果として千奈を見殺しにした行為は子供の命を預かる保育士としてあるまじき行為」と非難。

さらに、「何度も千奈がいない違和感に気が付いていながら行動に移さなかったことは子供の安全や命を軽視していることにほかならない」と責め、元クラス担任の法廷での発言に触れつつ、「自分を守るため、すぐにバレる嘘をついた。事実と異なる発言を法廷でしたことから、反省していないと感じた」と述べた。

また、元園長に対しても「無責任さと反省の無さは許されるものではない」と厳しい目を向け、「元園長の行動がどれほど深刻な結果をもたらしたのか、そして私たち遺族にどれほどの苦しみを与えたかということを理解しているのか。元園長の言動からは千奈の命を軽視し、結果を受け入れる用意すらできていないことが明白」と糾弾。

これまでの裁判で、川崎幼稚園では園児の置き去りを防ぐためのチェック体制の構築や職員間の情報共有がなされておらず、マニュアル化されていなかったことが明らかになっているが、こうしたことから元園長の責任を問いつつ、「証拠に目を通すという公判に臨む者がすべき最低限の作業すら行っていない。まったく反省していないことは明らか。子供の命を守るはずの園長が、子供を殺したことの重大さをいまだに自覚できていない」と怒りの表情を見せた。

「殺してやりたいと考える日も」

千奈ちゃんの父親によれば、元園長の言動に対しては当初から不信感があったという。

例えば、事件当日の夕方には「病院に行く用事があって急いでいた」との自己中心的な言い訳をされ、自宅で行った面談の際には千奈ちゃんの母親をにらみつけ、怒りながら声を荒げることもあったそうだ。

こうした中で、元園長は被告人質問で、裁判長から「川崎幼稚園が廃園になったら困る人がいるか?」と問われた際に「信用して園に子供を預けてくれている保護者が困ると思う」と発言したことから、千奈ちゃんの父親は失望感を漂わせながら「私たちも園のことを信用して娘を預けていた親のひとり。ですが、その信用は裏切られ、娘を殺された」と憤った。

わずか3歳11カ月で命を落とした千奈ちゃん。両親の悲しみや絶望は察するに余りある。

このため、千奈ちゃんの父親は「千奈の命を奪った両被告を私は許さない。『パパに会いたい』『パパ大好き』と生前の千奈が言っている動画を見て、私は謝ることしかできない。強烈な怒りと恨みで両被告を殺してやりたいと考える日も少なくない」と語気を強め、今回の事件のわずか1年ほど前にも福岡県で同種の事件があり、国などから注意喚起があったことも踏まえ「過去の判例よりも重い実刑判決が両被告に下されることを望む」と意見陳述を締めた。

きょうの法廷で千奈ちゃんの母親は「これからたくさんの経験を積み、成長していく姿を見たかった」と話した。

これは子を持つ親なら誰もが同じ気持ちだろう。

しかし、そんな親にとっての楽しみや夢を2人は奪ってしまった。

なにより、わずか3歳の女児の命を奪った責任の大きさは計り知れず、7月4日の公判で仮に両親が望んだ通りの判決が出たとしても、傷が癒える日はやって来ない。

(テレビ静岡)

© FNNプライムオンライン