能登に魅せられ能登に移住した”叙情書家”「筆」に思いを込めて…

能登人を訪ねて。今回は能登に魅せられて移住し作品を作り続ける書家を訪ねました。

能登町の五色ヶ浜海水浴場です。一日に5回、五色に色を変えるともいわれる透明度の高さが特徴です。この能登の景色に魅せられ海水浴場を望む高台にアトリエを構えて作品を作り続ける能登人に会いに行きます。

室谷文音(むろやあやね)さんは抒情(じょじょう)書家の両親の元、箸よりも先に筆を持ちました。5歳にして、雑誌の扉ページを1年間連載するなど幼少期から才能を発揮。ロンドンへの留学を経て、現在国内はもちろん、海外でも展示会を行っています。

稲垣アナ:
潮騒の音が聞こえていいところですね。
室谷さん:
そうなんです。一目惚れして引っ越しました。借り始めたのが2008年からで、10年間借りて、大家さんに譲っていただきました。私、13歳からイギリスに留学してたんですけど能登に出会ってなかったら日本に帰ってくる気は一切なかったです。

そんな室谷さんのアトリエも地震の被害にあいました。壁には亀裂が多く、その傷跡が今も残されています。

稲垣アナ:
地震の時どちらにいらっしゃたんですか?
室谷さん:
私は夫の実家のドイツに1月1日はいました。日本とドイツの時差が8時間あるんですけど、ドイツで朝起きた時には日本で地震が起きて数時間経っているタイミングで、携帯電話を開いたら今までに見たことがない数の着信が入ってまして、慌てて母に一番最初に電話したけどつながらなくて。

室谷さんの両親も能登町に住んでいます。実家は大きな被害を受け、一時、避難所での生活を余儀なくされました。

現在は室谷さんのアトリエで共に暮らしています。

室谷さん:
宣教師さんのご家族がいらして、1月2日に両親のところに車で安否確認、直接行ってくれたんですよ。それから何人かから(両親に)会ってきたよというメールをいただいたりして、友人を介して母に連絡を取っていたんですけど直接声を聞くまでは不安でしたね。
稲垣アナ:
ドイツでの能登半島地震の報じられ方は?
室谷さんの夫:
短い間でしたね。僕自身もですが、ドイツにいる人は地震の経験がないので、一回地震が起きたらそれで終わりと思っている。
稲垣アナ:
ドイツでは地震の情報を得る方法が?
室谷さん:
なかったですね。原発の放射能漏れがないというアナウンスをされたじゃないですか。その時点で世界の興味は失われたというか。その中でつらかったですよね。一人温度差が違う感じで。

作品を作り続けるアトリエにお邪魔しました。

稲垣アナ:
抒情書家というのは普通の書家と違ってどういうような。
室谷さん:
抒情の抒という字は手偏に予定の予と書くんですけど井戸の釣瓶の意味がありまして、情は心なので、井戸のお水を汲むように気持ちを汲む意味合いが込められています。これは震災前に書いた作品なんですけど、漢字ひとつでも絵のように書いたりとか楽しくお酒を飲むイメージを。

稲垣アナ:
これだけで楽しいお酒の場という雰囲気が伝わりますね。
室谷さん:
床の間にある作品もよく見ると水という字を重ねて書いてあるんですけど、能登のキラキラした海とか自然を表現して書いています。

稲垣アナ:
地震による経験を経て思いというのは。
室谷さん:
被害の大きさを目の当たりにして生きててくれただけで本当にありがたいと思いました。つらいこともたくさんあるんですけど、能登の人たちの優しさに感動することも多くていい所来たなと思います。
稲垣アナ:
今やっとかけるようになってきたと。
室谷さん:
そうなんですよ。やっと気持ちが落ち着いてきたというか私ここがやっぱり好きなんだなっていうことに気がついた時に書けるようになりました。解放されたというか。なかなか気持ちが乗らなくて、このタイミングなら書けるかもしれないと思って墨をすったら今までモヤモヤしていたのがなんだったんだろうというぐらいすっきりしたんです。墨の香りで。私、書家なんだなと思いながら答え単純だったなって、こんなんならもっと早くアトリエに座って墨すればよかったって。

取材にお伺いした日、室谷さんは作品作りの真っ最中でした。

室谷さん:
韻を合わせて「いきて いこう いっしょに」
稲垣アナ:
文字の入り方とか一緒ではなくてここに思いがあるのかなと感じました。
室谷さん:
みんな個性があるので、いろんな生き方があっていいなと思います。皆さん思いは一緒なので。きっとどこにいても、どこで生きてても、つながってると思いたいですよね。書いてる時が一番楽しいんですよね。次はこうしてみようって。楽しいですよ。

稲垣アナ:
地震があってもここ能登で暮らしていく。
室谷さん:
はい。本当に能登が好きなので、ここで暮らしていきたいと思います。この場所を小さな楽園みたいにしていけたらいいなと思ってます。いろんな方がいろんな場所でコミュニティーみないなものを作っていかれたら皆さんここでまた生きていけるじゃないかなって。一日一日、感謝しながら丁寧に生きていく積み重ねで共感する人が集まってきてみんなで笑える場所になればいいんじゃないかなって。

「いきて いこう いっしょに」は、支えあいながらこの震災を乗り越えていこうという室谷さんのメッセージです。そんな室谷さんの作品展が、いまかほく市で行われています。

輪島市出身のアーティスト辻真澄さんと開催する二人展。テーマは「共生」です。

室谷さん:
来て頂いたお客さん達に少しでも元気になってもらえたら、能登を愛する気持ちが伝わればいいなと思っています。

作品展は今月16日まで開かれています。

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