アーロン・ジャッジ。ヤンキースのキャプテンに相応しい“心優しき巨人”

6月8日〜10日にかけて、ワールドシリーズの“前哨戦”とも言われたロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・ヤンキースの3連戦が行われました。リーグ優勝の筆頭候補チームによる激闘の結果、大谷翔平が所属するドジャースが2勝1敗と勝ち越しました。この3連戦で注目を集めたのが、ニューヨーク・ヤンキースのキャプテン、アーロン・ジャッジです。

今シーズンの活躍は「ジャッジ基準」でも異常値?

試合内容を振り返ると、2戦目こそドジャースの大勝(LAD11-3NYY)となったものの、1戦目(LAD2-1NYY)と3戦目(LAD4-6NYY)は終始緊迫していた接戦。直前にヤンキース打線の二大巨頭の一角、フアン・ソト選手が怪我を負ってしまい全試合欠場となってしまったものの、想像どおりほぼ互角の勢力がぶつかり合う形となりました。

そのなかでも目立った選手は以下の2人でしょう。まずはドジャースのテオスカー・ヘルナンデス選手(6安打3HR9打点、打率.500/OPS1.988)。そしてヤンキースのアーロン・ジャッジ選手(7安打3HR5打点、打率.636/OPS 2.351)。

ヘルナンデス選手は1戦目で勝ち越し打、2戦目で6打点と勝利への貢献度合が非常に高く、ジャッジ選手はこのシリーズで度肝を抜いただけではなく、シーズン全体で近年、稀に見るハイレベルな活躍を魅せています。

今や大谷翔平選手をきっかけにMLBを見ている人の、誰もが知る存在となったジャッジ選手ですが、その素晴らしい成績や人間性を改めて解説していきましょう。

▲「ナイスガイ」エピソードが幾多もあるアーロン・ジャッジ 写真:AP / アフロ

日本時間6月12日現在、ジャッジ選手は68試合で打率.309/出塁率.437/長打率.712/OPS1.1149を記録。ホームランはシーズンが半分も終わっていない状況で、25本も打っています(単純計算ではシーズン59本ペース)。

野手の得点創出力の指標であるwRC+(リーグ平均は100)ベースでは、217と平均より117%優れているだけでなく、ホームラン62本を放ち、ア・リーグMVPを獲得した2022年のwRC+209をも超えています。

守備を含めた選手の総合貢献を表すWAR(Wins Above Replacement)ではrWAR5.2勝、fWAR5.1勝と、いずれも22年シーズン時のrWAR10.5、fWAR11.2、を超えるペースで活躍をしています。

そんなジャッジ選手は、今では信じられないかもしれませんが、じつはシーズン当初、過度なスランプに陥っており、4月26日にはOPSが.674まで下がっていました。そこから40試合で20ホームランを放ち、打率.401/OPS 1.484、wRC+301とピークのバリー・ボンズ選手並みの成績を直近残して、ここまで追い上げました。

かくして、ジャッジ選手自身にとっても前代未聞の領域に到達しつつあり、最大のライバル大谷翔平を失ったア・リーグでは、MVP受賞の最有力候補になったと言えるでしょう。その流れで、自身の持つア・リーグのシーズンホームラン記録62本をも塗り替えてしまう可能性すらあるのが、「凄い」を通り越して「怖い」領域に入りつつあります。

名門ヤンキースの「キャプテン」という役割

筆者は以前、『「なんだ、ただの聖人か」“真のMLBホームラン王”アーロン・ジャッジはナイスガイ』という記事を書きましたが、アメリカ野球界の共通認識として、ジャッジ選手は“A great baseball player, but an even better person” (「すごい野球選手だが、それ以上に素晴らしい人間」)と評されています。

現役最強のパワーヒッターと認知され、今シーズンも人間離れした成績を残しているジャッジ選手が野球能力以上に人格が評価されることたるや、いかにスゴいことでしょうか。

その人間性は球団にも評価され、2022年12月にヤンキースと9年3億6,000万ドルの超大型契約を締結した際には、併せて第16代目キャプテンに任命されました。

レジェンド遊撃手のデレック・ジーター選手以来、じつに9年ぶりの就任となり、現MLBではかなり珍しいキャプテンシーの名誉を受けることとなりました(ジャッジ選手以外では唯一、カンザスシティ・ロイヤルズのサルバドル・ペレス選手が、2023年3月にキャプテンに任命されています)

就任より1年半が経ちますが、その肩書きに見合う以上のリーダーシップを日々、発揮しています。その具体例を探すには、大きく時を遡る必要はありません。

6月10日の対ドジャース戦で、ヤンキースのトレント・グリシャム選手が逆転3ランホームランを放ち、すでに2敗を喫し背水の陣状態のニューヨークをひと振りで救いました。

打席に入った時点で打率が1割を切っていたグリシャム選手は、思いがけないヒーローとなったわけですが、じつはその打席中、自チームの選手にも容赦がないと定評の現地ファンから”We want Soto”(「ソトを出せ」)のコールが鳴り響きました。

前述のとおり、今季、ジャッジ選手とともにヤンキースの二大巨頭を務めているフアン・ソト選手(打率.318/OPS1.024/wRC+190)が欠場していたため、控えのグリシャム選手が代役として起用されたわけですが、一打逆転の場面でファンは代打にソト選手を求め始めました。

結果的にグリシャム選手が逆境を跳ね返し、その次の打席ではファンが一転して”We want Grisham”(「グリシャムを出せ」)コールを繰り出しましたが、決して気持ちの良い場面ではありませんでした。

前置きが長くなりましたが、試合後の取材、ジャッジ選手はソト・コールに対し、“I wasn’t too happy with it”(「ちょっとイヤだった」)と牽制を入れ、ソト選手を失った穴の大きさを認識しつつ、グリシャム選手の素晴らしさ、チームにとっての価値の大きさを伝えました。

26人ロスターの「26人目」の控え選手でも、チームの一員としてしっかり受け入れ、チーム一丸をずっと唱えてきたジャッジ選手らしい言動でした。

ジャッジ選手の活躍により期待されるドジャースとの再戦

数週間前も記者に「ジャッジ、ソト、(ジャンカルロ)スタントンのBIG3として躍動している点についてどう思うか」と問われた際、「うちはBIG9、いやBIG26だ」と断言しており、いつでも姿勢の一貫性が崩れません。そして、これらの言動の好影響が、ヤンキースの好調・躍動に拍車をかけていることは間違いないでしょう。

これらのエピソード以外にも、ヤンキース相手に7回無失点の快投を遂げた山本由伸投手の快投について「山本は素晴らしく見えた。大型契約を得たのには理由があるし、すごい投手だ。エリート級の持ち球を持っているだけでなく、制球も良かった。それらが今日の試合で気づいたこと」と絶賛。

また最終戦の犠牲フライで、ジャッジ選手からのレーザービームを見事にかい潜った大谷翔平選手の激走について「彼はすごく速かった。打球が上がった瞬間に走る(タッチアップする)と確信していた。95~96マイルで投げられたらよかったんだけどね。彼はスピードスターで素晴らしいアスリートだ」と振り返るなど、他チームの選手も手放しで絶賛する「ナイスガイ」エピソードは幾多もあります。

とにかく、野球選手としてもキャプテンとしても規格外のジャッジ選手。プレーとリーダーシップでヤンキースをワールドシリーズまで導き、ライバル・ドジャースとの再戦を実現させてほしいところです。

※fWAR、wRC+はFangraphs社、rWARはBaseball Reference社より引用。成績は全て現地6/11/2024試合終了時点。

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