『ヒーローではないけれど』の見事な伏線回収 チャン・ギヨンの新感覚タイムリープが終幕

Netflixで配信中の『ヒーローではないけれど』が6月9日に最終回を迎えた。チャン・ギヨンの除隊後初作品として注目を浴びた本作は、チョン・ウヒを相手にしたファンタジーロマコメだ。Netflixのグローバルランキング(非英語シリーズ)でも堂々3位と、好評のうちに幕を閉じた。(以下、ネタバレあり)

チャン・ギヨン演じるポク・ギジュは、先祖代々の超能力一家で、ギジュは「幸せだった過去に戻る」ことができるタイムリープの能力を持っていた。消防士だったギジュは、妻や先輩の死に直面し、自身の持つ能力で人助けができないことで自暴自棄となり、うつ病を患う。ある日、海で溺れていたギジュは、チョン・ウヒ演じるト・ダヘに命を救われる。

ダヘは、詐欺師一家の養女で、資産家のポク家を騙そうと近づくも、ギジュに恋をしてしまい、自身が詐欺師であることを打ち明ける。ダヘの養家は、サウナを営む詐欺師一家だが、ポク家と出会ったことで、両家に思いもよらなかった変化が訪れる。

第11話、最終話では、ギジュの死を予見したマヌムの予知夢が、思いもよらなかった現実を見せる。ダヘは、ギジュを死から救うために自分の死を偽装する。しかし、イナ(パク・ソイ)によって見破られてしまい、ギジュはダヘの元へ駆けつける。互いの愛を確かめ合ったギジュとダヘは、ギジュの死を回避しようと試みる。イナは、ダヘの死の偽装がギジュを助けるためだったと知り、自分が阻止してしまったことにショックを受ける。

超能力を持つポク家の面々は、それぞれが能力と上手く向き合えずにいた。ギジュは、人を救えないタイムリープの能力に無力感を感じ、予知夢の能力を持つギジュの母マヌムは、自分の夢は呪いだと思い込み、飛行能力を持つ姉ドンヒは太ったせいで飛べないと悩む。そして、イナは自分が生まれたことが呪いだと考えていた。ダヘは、超能力に振り回されているポク家を、良い方向に変えるために行動を起こす。

ダヘは、ドンヒ(キム・スヒョン)の婚約者ジハン(チェ・スンユン)が浮気をしている現場を押さえて、2人の結婚を破談にすることに成功する。ドンヒの資産が目的のジハンは、ドンヒから離れようとしないが、そこにダヘの養叔父ヒョンテ(ロイ)が現れドンヒを助ける。

ダヘは、自分が死んだと思っていた養母イロン(キム・グムスン)の元を訪れる。イロンは、居合わせたマヌムとダヘを並べて座らせ、宝くじの当たり券をダヘの持参金だとマヌムに渡す。驚いたダヘはイロンと話をするが、イロンはダヘを娘として心から愛しており、「あんたがいないことが、私には何より酷だった。うちの娘。生きててくれてよかった」とダヘを抱きしめる。「あんたに本当の家族ができてうれしいよ」と言うイロンの態度を訝るダヘに、イロンは続けて「言ったでしょ。ト・ダヘとポク・ギジュ、2人の幸せを心から祈ってるって」と本心を明かす。イロンとダヘ、母と娘の会話に涙が溢れる。親を亡くしたダヘと、娘を亡くしたイロンは、互いを愛すことで失くした欠片を埋めて癒されていたのだ。

一方、ギジュは過去で幼き頃のダヘと出会う。そこでギジュは、植物に触れて首にかぶれによる痣ができる。その痣は、ダヘを13年前の火事から助けた恩人の首にあったものと同じだった。ギジュは痣ができたことで、自身の命のタイムリミットが間近に迫っていることをダヘと家族に隠そうとする。

イナの学校で行われるダンスの舞台を見に行くポク家とサウナ一家。ここでの両家の楽しそうな姿に和ませられる。孤独だったイナを愛する家族が2倍になったのだ。イナは、ギジュが見守る中で活き活きとしたダンスを披露する。そんな中で、ドンヒを諦めきれないジハンが学校に乗りこみ、ドンヒにプロポーズをするが、それが元で火災を引き起こしてしまう。マヌムの見た予知夢の情報は断片的なものであり、13年前の火災ではなかったのだ。

“ギジュの死”が予見されてから、どんな形でギジュの死を回避できるのかが視聴者の興味の対象となっていたが、予想を上回るミラクルな展開で伏線回収が行われた。

本作のポスターの中で、ポク家の面々がそれぞれ窓枠の中に納まったデザインのものがある。そこには、それぞれのキャラクターとともに「影」が写っている。ギジュの影は悩み落ち込む姿であり、マヌムの影はポク家に君臨する巨大な影だ。ドンヒの影は細身だった頃で、超能力者でないギジュの父スング(オ・マンソク)の影は、スーパーヒーローの姿をしている。そして、これまで「影」を生きてきたイナには、影に隠れた透明人間の自分が寄り添っている。

そして唯一、カーテンが閉じられ、姿が見えない人物がいる。その影は、ギジュの影に似ているがさらに大きなものだ。その姿は悩み苦しんでいるのではなく、ある瞬間へとタイムリープする場所を思い出しているようにも見える。この影に隠された謎が、予想もしなかったミラクルとして、物語を華麗に終幕させたのだ。本作を見守ってきた視聴者たちをアッと喜ばせた仕掛けは、ぜひその目で確かめてもらいたい。

誰もが憧れる能力を持ちながら、その能力のせいで悩み、苦しみ、もがくポク家の姿は、我々視聴者と同じだ。誰にでも「天賦の才」は与えられているという。持って生まれた才能を活かして人生の花道を歩む人もいれば、才能ゆえに苦しむ人もいる。さらには、自分にはそんな才能は無いと思い込み、見失い、落ち込む人もいる。マヌムとドンヒのように、子どもの人生に口出しをして、親子ともども苦しむ人たちもいる。そのどれもが私たちにとって身近なことだ。

チャン・ギヨンが除隊後復帰作として選んだ本作は、ただのロマンティックコメディに収まらない、家族愛や登場人物たちの成長物語を含んだ素晴らしいものだった。チャン・ギヨンとチョン・ウヒのケミストリーは抜群で、どのキャラクターにも愛着を持ってしまうくらい人物描写と俳優たちの演技も素晴らしかった。

成長したイナのその後や、母の呪縛から抜け出したドンヒに咲いた新しい恋の花、ヒョンテとの恋など、まだまだ観ていたい気持ちにさせられる。「家族」をテーマに、「人は人によって苦しむけれど、また人によって救われる」、そして「誰もがヒーローになれる」ことを描いた本作は、人に勧めたくなる良作だった。
(文=にこ)

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