「えっ、足りないんですか?」新NISA+iDeCoで万全だった世帯年収1,000万円・30代公務員夫婦が直面した落とし穴【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

人気の制度として知られる新NISAとiDeCo。この2つを始めていることで、老後資金対策は万全だと思っていた佐々木さん夫婦(仮名)。世帯年収も1,000万円以上で一見何の問題もなさそうです。しかし、ライフプランを作成してみると……実際に足りないのはまさかの「教育資金などの現役時代のお金」でした。本記事では、佐々木さんの事例を紹介しながら、FPの金子舞氏がその解決策を提案します。

「私たち資産形成ばっちりです!」と語った佐々木さん夫婦の盲点とは

ある日、笑顔でFP(ファイナンシャル・プランナー)の元にご相談に来られた佐々木さんご夫婦。世帯構成は佐々木さん(38歳)、奥様(36歳)、長女(小4)、長男(小1)の4人家族です。ご夫婦は共働きで世帯年収は1,000万円。仕事が忙しいながらも、週末はご家族の時間を大切にされていて、レジャーや旅行なども多い、仲の良いご家庭です。

今回ご友人からのご紹介で、初めてライフプランを作成することとなりました。人生には、マイホームの購入、子どもの進学、独立、老後生活など、さまざまなライフイベントがあります。それに応じて、何にいくらかかるかを洗い出していき、金銭的に困ることのないよう計画を立てていきます。

「えっ……。足りないんですか……?」最初は和やかに面談が進みましたが、終盤になると、奥様の顔がみるみる険しくなってしまいました。

「昔からお金のことは興味があって、自分で本やネットを見て、新NISAとiDeCoを始めたんです!きっと老後は大丈夫なはずです!」

奥様のおっしゃる通り、佐々木さん夫妻の老後資金「は」まったく問題ありませんでした。では、足りなくなるのは何なのか? それは、“現役時代のお金”でした。

老後資金は大丈夫でも、現役時代のお金が足りない…

佐々木さんは夫婦とも公務員で、退職金は合計3,000万円もらえる試算。また夫婦とも仕事が好きで、65歳まで再雇用で働く予定です。そのため老後は一般家庭と比べ余裕があることも大きな特徴でした。

しかし、健康診断で思わぬ事実がわかるのと同様に、お金についてもライフプランを作って初めてわかる事実があります。佐々木さん夫婦のように資産形成をしっかり考えている方ほど見落としてしまうのが、直近10年間のお金。特に、子育て世代の方ほど、教育費や住宅費に気をつけなくてはいけません。

現役時代にお金が足りない理由

佐々木さんの長女(小4)の教育費についてうかがったところ、中学受験にむけて塾に行きはじめたところ。今後、もっと教育費がかかることは覚悟されていましたが、世帯年収が1,000万円あるため、共働きで頑張れば大丈夫と思っていたようです。

ところが、ライフプランを見てみると、姉弟の入学が重なるタイミングもある中で、5年前に購入した住宅ローンの返済とあわせると、3年後から長男が大学を卒業するまで約12年間、下記の通り収支がマイナスとなることがわかりました。

そこで現役時代12年間にわたる収支マイナスを改善するために、佐々木さん夫婦の家計全体を見直し、お金の置き場所を意識したアドバイスを提案しました。

【世帯収入】
1,060万円(手取り約823万円)

【貯蓄額】
約800万円

【3年後に予定されている支出(年間)】
・姉の教育資金(入学金、授業料、塾代等)200万円
・弟の教育資金(授業料、塾代等)80万円(私立中受験予定)
・住宅ローン 120万
・生活費 300万円
・保険料 132万円
・投資(新NISA+iDeCo)約100万円
・その他支出 165万円

【3年後に不足する金額】
おおよそ316万円(弟が大学卒業まで毎年100~420万円不足)

家計を見直すポイント4選

家計見直しの基本は、「①収入を増やす」「②支出を減らす」「③資産を増やす」です。①の「収入を増やす」は会社での給料アップなどが必要になるため、すぐに実現するのは難しいといえます。そのため、今回のケースでは、②の「支出を減らす」をしながら、③の「資産を増やす」ことが重要となります。今回佐々木さん夫婦には、以下の4点をご提案しました。

1. iDeCoの減額

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で準備する私的年金で、拠出時・運用時・受取時にそれぞれ税制優遇がある制度です。もちろん年収が多い家庭では、iDeCoによる節税メリットは大きいですが、一方で60歳以降まで引き出せないデメリットもあります。佐々木さん夫婦が受け取る退職金や再雇用で得られる収入も考慮し、直近10年はiDeCoを減額することで、老後ではなく今の資金に余力を残すことにしました。

減額する期間は直近10年を想定し、収入がアップした場合などには再度掛け金の額を調整することにしました。

2. 新NISAの増額

新NISA(少額投資非課税制度)は、今年から始まった投資運用利益分が非課税になる制度です。佐々木さん夫婦は、昨年までの旧NISA設定金額のまま新NISAをされていたため、今回iDeCoの減額分などを充てて増額することにしました。

NISAはiDeCoに比べて節税メリットは少ないですが、いつでも売却し現金化できるメリットがあります。そのため使うタイミングが10年以上先の資金は、今リスクを取って運用しつつ、万が一10年以内で資金が必要であれば売却・現金化するNISAでの運用をすることにしました。

3. 保険の見直し

佐々木さん夫婦は、新入社員時代職場に出入りしていた保険の方から勧められ、それぞれ個人年金保険をお持ちでしたが、契約内容や利率などを確認した上で、保険を解約することにしました。

保険は大きな固定費のため、見直すと効果が大きく表れます。その他の保険にもたくさん加入されていた上に、老後対策として加入されていたとのことで、万が一の死亡保障や老後対策はiDeCo+新NISAで補うことにしました。

4. 固定費の削減

支出の内訳を見てみると通信費が高かったため、格安SIMへ変更することにしました。通信費は、他社と比較したり手続きが面倒でされない方も多いですが、一度見直すだけで大きな固定費削減となります。佐々木さん夫婦も高いとは思っていたが、共働きで忙しく見直しを先延ばしにされていたとのことで、今回アドバイスさせていただき、大きな支出削減となりました。

このように支出削減しながら、不足する期間に対して資産を準備していくことで、佐々木さんご夫婦は現役時代の資金不足を補うことができました。

まずは自分の状況をライフプランでチェック

今回の佐々木さん夫婦のように、新NISA+iDeCoを始めて安心している方も多いと思います。しかし、家計状況や人生のライフイベントによって、いつお金が足らなくなるのか、どの制度が適切かは変わってきます。まずはご家族の人生のライフイベントを確認した上で、お金が出ていく期間を把握するところから始めてみましょう。

そして安心してライフイベントを乗り越えられるよう、ライフプラン(お金の人生プラン)を作ることをおすすめします。ぜひ支出を無理なく削減しながら、資産を増やす方法をライフプランでチェックしてみましょう。

金子 舞

ファイナンシャルプランナー

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