肺がん治療の今(4)散らばったがんにも負けない薬で叩き、陽子線でとどめを刺す

早期肺がんの陽子線治療が保険適用に

肺がんと確定診断された際、治療に至るまでの流れはこうだ。

肺がん全体の85%を占める非小細胞肺がんでは、遺伝子検査と、免疫チェックポイントの有無を調べる検査(PD-L1検査)が行われる。

これらでがんの特徴を把握し、組織型、病期、体の状態、年齢、合併症、社会背景を総合的に考慮し、治療方針が立てられる。遺伝子変異があればそれぞれの遺伝子に応じた分子標的薬を使い、免疫チェックポイント阻害剤が有効的であれば、適した免疫チェックポイント阻害剤を使う。

「薬をうまく組み合わせるほか、放射線も必要に応じて照射します。特に、陽子線の効果には期待が持てます」(中部国際医療センター肺がん治療センター長/呼吸器内科部長・樋田豊明医師)

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤がなかった時代、つまり従来の抗がん剤治療しかなかった時代は、肺がんが全身に散らばり、骨にまで転移してしまっていると、抗がん剤が十分に効かず、生存の延長があまり望めなかった。

「ところが分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の登場によって、全身にがんが散らばっていてもがんの縮小・消失が可能となり、コントロールできるようになったのです。とはいえ、薬物治療で転移したがんが全部消えるわけではありません。そこで有効となるのが放射線治療なのです」

陽子線は、放射線治療の一種だ。水素の原子核(陽子)を加速してエネルギーを高めてできる陽子線を利用する。陽子線には「設定した場所に到達した時に、最大のエネルギーを放出して消失する」という特性がある。簡単にいうと、がんがある場所までは線量が高くなく、がんに到達した時点で最大限に効果を発揮。しかしその線量はがんに当たった後は急速にエネルギーダウンする。

「従来の放射線治療だと心臓などの臓器にもダメージを与えるので、がんは消えても心臓病で命を失うリスクがありました。しかし陽子線はほかの組織にダメージを与えず、がんだけをピンポイントで集中的に治療できる。かつ、分子標的薬は耐性化の問題から何年かすると効かなくなりますが、陽子線ならそれらのがんに対しても局所集中的に治療ができる」(樋田医師)

今月から、早期肺がんで手術が非適用の場合、陽子線治療が保険適用となった。今後、肺がんの治療成績は右肩上がりになっていくことを、期待したい。(おわり)

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