元会社員の妻、個人事業主として念願の独立。ワクワク「開業届」を税務署へ提出も…あとから「後悔」したワケ【ライフキャリアコンサルタントが助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

働き方が多様化する時代。会社員から個人事業主への転向を希望する人も少なくありません。しかし、そこで立ちはだかるのがお金に関する煩雑な各種手続きでしょう。本記事では、ライフキャリアコンサルタントの江野本由香氏が実体験を通して、会社員から個人事業者へのシフトに必要な諸手続きの注意点について、解説します。

会社員から個人事業主へ

私がサラリーマンを辞めたときいちばんに感じたのは、「生きているだけでお金がかかる」ということ。加えて、その手続きは煩雑でよくわからないこと。

サラリーマン時代は、手続きはすべて会社がしてくれていました。健康保険、介護保険、国民年金、住民税など各種税金は給与から天引きされ、年末調整の書類を提出すれば税金も過不足なく収めることができ、時に戻ってくることさえある。手続きでわからないことは会社の問い合わせ先に尋ねれば教えてくれるので、困ることはありません。

退職後、雇用形態を問わず、ほかの会社へ転職するということであれば、とくにむずかしいことはなかったでしょう。しかし「自分のペースで仕事をする雇われない生き方」を選択した場合、生きていくために必要な手続きはすべて自分でおこなわなければなりません。

必要なことは何か?

どのようなことを知らなければならないのか?

どこに尋ねればよいのか?

わからないことがわからない状態となりました。

家族構成や、辞めたあとの仕事の状態などで事情はそれぞれ異なるので、「自分の場合はどうすればよいのか」を調べながら考えていく必要があるのです。いろいろな選択肢があるため、「選択の仕方で損はしたくない」と思うと、これからの生き方や働き方をどうするのかまで考えなければならず、けっこう頭を悩ませました。

私は「息子の中学受験に伴走するため、退職後の1年間は仕事をしない」と決めていたので、考える起点は「1年間は仕事をしない。その後は子育てに合わせて自分のペースで個人事業主として仕事をする」「夫はサラリーマン、2人の子どもは夫の扶養という家族形態」でした。

健康保険・年金をどうするか?

退職するタイミングで考えなければならなかったのが健康保険です。

任意継続という制度があり、退職後最長2年間は自分で掛け金を払うことで、いままで勤務していた会社の健康保険を使うことができます。在職中は掛け金の半分を会社が負担してくれていましたが、退職後は全額自分で支払うことになるので、それなりの金額です。

国民健康保険に加入するのがよいのか、夫の扶養に入るのがよいのか……。そこでまた考える必要が出てくるのが、失業給付金の存在です。給付にはさまざまな条件があり、年齢や退職理由などによっても給付される金額や期間が変わります。

夫の扶養に入るためには、失業給付金が向こう1年間で130万円を超えないことが条件。扶養に入れるかどうかの判断の仕方は、それぞれ加入する健康保険組合によっても変わります。失業給付金の金額はおおよその目安はわかりますが、最終的な金額がわかるのはハローワークに行ってからになります。そのような不透明な状況のなかで、いざ夫の扶養に入ろうと思ったら入れない、となることは避けたかった。

また、国民健康保険は掛け金の算出根拠がよく理解できなかったこと、病院にかかる以外のサービスが一切ないことから、私はいままで加入していた健康保険組合の任意継続を選択しました。

国民年金も同じこと。3号として夫の扶養に入れるのかどうかの判断は、失業給付とほぼ同じ。

このように、生きていくだけで必要な手続きがあり、払うお金もそれなりの金額であることに戸惑いながら、世の中の仕組みがわかっていくことはおもしろいものでした。

税務署へ開業届を提出も…

1年後、息子の受験が終わり、失業手当の給付も終了し、いよいよ個人事業主として独立。ワクワクしながら税務署へ開業届を提出し、いざビジネスをはじめましたが、ここで私は失敗をしてしまうのです。

個人がビジネスをする際、個人事業主として税務署へ届けるかどうかは自分で選択をできます。届け出をするメリットといえば、確定申告の際、青色申告ができることで控除額が上がること。金融機関に口座を開いたり、部屋を借りたりするときなど、信用が得られることなどが挙げられます。

一方、開業届を出すことで、夫の扶養に入ることはできなくなります。売り上げがなくとも自分で健康保険料や国民健康保険料を支払わなければならない。そのことに開業届を出したあとに気づいたのです(加入する健康保険組合によっても異なります)。

ライフキャリアカウンセラーとして独立開業したものの、最初の1年はなかなか売り上げが上がらず、毎月の掛け金は大きな負担になっていくなか、開業届を出さずに夫の扶養に入りながら少しずつビジネスを広げていく選択もあったわけです。

1〜2年のあいだは金銭面で大きな負担にはなりました。ですが、扶養といった枠に囚われない働き方ができることは、扶養の枠を超えてしまわないかどうかという余計なことを考えず、仕事に集中できる。その結果、自分らしい仕事や、生き方の実現へとつながっていったのです。

このように、会社員ではなく、雇われない生き方を目指すのであれば、生きていくために必要な手続きは誰かが教えてくれるわけでも、やってくれるわけでもありません。自分から動くことを意識しましょう。

便利なのは行政機関。お役所は縦割りの組織でたらいまわしになることはありますが、どこが窓口になるのか親切に教えてくれることがほとんどです。わからないことや困ったときは尋ねてみることをオススメします。

働くすべての人が「お金」について知らなければならない

日本の会社の在り方や雇用環境は、これからどんどん変わっていくでしょう。従来のメンバーシップ型の雇用では正社員であれば雇用はある程度保障されていたので、生きていくために必要なお金や手続きについて、あまり深く考えなくても困ることはありません。

ですが、ジョブ型雇用の社会になれば話は変わります。いつ、なんどき、あなたの仕事がなくなるかもしれません。そこで新たな価値提供ができなければ、会社にいることはむずかしくなるかもしれません。

このように人材の流動化が進んでいくようになれば、個人事業主だけでなく、働く人すべてが生きるために必要なお金や手続きについて知る必要があるのです。

江野本 由香
ライフキャリアコンサルタント

※本記事は『キャリアと子育てを両立する!自分と家族の価値軸で築く幸せな生き方』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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