手作り漬物、法改正で衛生管理が厳格化 県内では以前から基準厳しく 生産断念するケースも…廃業は限定的か

漬物作りを続ける営業許可取得のため、建物の壁や天井を改修し、蛇口も新調した生産者=5月29日、菊池市

 食品衛生法の改正に伴い6月から、道の駅などで販売される漬物の衛生管理が厳格化された。製造施設の許可に加えて改修が必要となるケースもあり、原材料価格の高騰も相まって漬物作りを断念する人も。直売所の人気商品でもある漬物の味を守るため、熊本県内の生産者らは知恵を絞っている。

 5月下旬、菊池市泗水町の道の駅泗水・養生市場の漬物コーナーには、ダイコンや摘果メロン、キュウリなど旬の野菜を使った数々の漬物が並んでいた。漬物を出荷する生産者は主に9事業者。8事業者が6月以降も出荷を続ける。

 そのうちの一人、同町の女性(82)は、20年以上にわたり、カラシナ漬けなどを道の駅泗水などに出荷してきた。許可申請のため、漬物を作っていた自宅横の作業場に壁などを設け、野菜を洗うシンクも新調した。「年も年だから、もう辞めようかと何べんも思った。でも漬けるのは私の楽しみだから」と女性。これからも体が許す限り、漬物作りを続けるつもりだ。

 一方で、ニンジンなどのみそ漬けを作ってきたJA菊池女性部泗水支部自然食品加工グループは、5月末で漬物作りを断念した。メンバーの女性(74)は「野菜や酒かすの値段が上がったので、採算が取れなくなった」。製造を続けるために必要な許可を申請しなかったという。

道の駅泗水・養生市場の漬物コーナーで、摘果メロンなど旬の野菜の漬物を紹介する齊藤ゆかり副支配人=5月29日、菊池市

 今回の法改正では、漬物を衛生的な環境で造るために、新たに「漬物製造業」としての許可申請が必要になる。昆虫などが混入しない施設であることや、手指で触れなくても開閉できるレバー式蛇口の手洗い設備の設置などを求められており、保健所による施設調査を経て営業許可証が交付される。

 道の駅泗水の副支配人、齊藤ゆかりさん(53)は「旬の野菜に加え、漬物を楽しみにしているお客さんは多い。(法改正されたことで)〝おばあちゃんの味〟をもっと安心して買ってもらえる」と歓迎。買い物に来ていた菊池市の主婦(77)は「個人が作っている漬物は、作る人の『顔が見える』ので安心」と話し、メロンの甘酢漬をかごに入れた。

 県健康危機管理課によると、県は法改正以前から独自の基準を設け、食品製造業者に高い衛生管理を求めてきた。このため、今回の改正で大規模な施設改修が必要なケースは他県と比べて少ないとみられ、漬物生産者らの相次ぐ廃業を食い止めた側面があるという。

 直売所の人気商品でもある漬物作り継続に向けて、「県内各保健所での許可取得は、順調に進んでいる」と同課。5月末現在、469事業者が営業許可を取得または申請している。申請は6月以降も各保健所で受け付けており、故郷の漬物を手軽に味わう機会はおおむね守られそうだ。(石井颯悟)

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